第6話 愛妻弁当

星空からのメッセージにはこう書かれていた。

(優くん。昼休みにとにかく直ぐに外に出て来て)と、だ。

「いや無理だろ」と呟くが(校門辺りで大丈夫)とも書かれていた。


俺は「?」を思ってから校門にやって来る。

うちの高校は丁度、車道に接している。

その為に校門までそんなに距離が無いのだが...ん?


「優くん」

「はぁ!?お、お前何をしている!!!!?」

「うん。...嘘吐いた。先生には」

「な!?」

「お弁当を届けに来たの」

「お弁当!?」


「さっき色々あって渡し損ねた」と星空はお弁当を渡してくる。

俺は驚愕しながらそのままキャラクターものの包みを受け取った。

それから改めて星空を見る。

星空は赤面しながら「そ、その」と口をもごもごさせる。


「大好きだって気持ちを込めた」

「...お前な。早退でも無いのに先生にぶっ飛ばされるぞマジに」

「良いもん。...10分で戻れば。じゃあね」


そして星空はそのまま手を振ってから去って行く。

アイツの高校がどこにあるかは知らんが滅茶苦茶だな。

そう考えながら振り返るとそこに「ほほう。愛妻弁当か?」と何故か日向が顎に手を添えて居た。

うぉあ!!!!?


「き、貴様何をしている!」

「それお前が言うの?おかしくね?」

「お前な!誤魔化すな!」

「いやいや。俺は見ていただけだ」


日向はニヤニヤしながら俺を見る。

そして「んじゃまあお弁当の中身を楽しみにしつつ。弁当食おうぜ」と日向は俺の肩に手を回してくる。

俺はその事に溜息を盛大に吐きながら歩き出す。



「愛情を込めた」


そんな事を言ってしまった。

私は恥ずかしくなりながらそのまま戻って来る。

案外、近場に優くんの高校があった。

だから抜け出して行ったけど。

渡せて良かった。


「で?どうだったの?」


こっそり戻って来るなりそう聞かれた。

目の前のこの子の名前は大庭千佳(おおばちか)という。

私の大切な友人である。

そばかすが特徴的なポニテの女の子。


「アハハ。渡せたよ」

「そっかー。イチャイチャだね」

「煩いなぁ。優くんはそんな気は無いよ」

「いやでも...イチャイチャじゃん?学校一可愛い貴方が」

「そうだね」


千佳はニコッとしながらお弁当をゆっくり食べる。

そして牛乳を飲む。

私はその姿をジッと見る。

それから視線を落として千佳の胸を見た。

うーん。


「...?...どうしたの?」

「いや...千佳って胸大きいよね」

「そうね。...邪魔なものだよ」

「...うーん。私は小さいから。...どうしたら大きくなるの?」

「牛乳、運動、睡眠だろうねぇ。多分」


私はその言葉に「そっか」と言いながら微笑む。

それから私は窓から外を見る。

すると「でも胸は胸として羨ましい」と声がした。

千佳の声だった。


「...何が?」

「...そんな運命的な出会いをしているのがね」

「...そうだね。滅茶苦茶に運命的だよ」

「だよね。でも1つ聞いても良い?」

「うん?」

「何でそこまで彼が好きなの?」


私はその言葉に考える。

それから「10年前。幼い時に一緒によく居たから」と答える。

すると千佳は「???」を浮かべて首を捻る。

千佳は「でも...それじゃ恋のきっかけには」と言う。


「...私ね。きっとあの時だった。優くんへの恋に落ちていたの」

「あの時?」

「私、一度ね。幼かったけど発熱した事があった。親が短時間だけ用事に出た時。まあいけない事なんだけど」

「うんうん」

「...そしたら優くんが背負って病院に連れてってくれたの」

「何それ白馬の王子様じゃん」


「あの時は何も思わなかったけどきっとあの時にはもう」と私は胸に手を添える。

そして恥じらいながら「えへへ」と言う。

千佳は顔を引き攣らせながら勢いよく牛乳を飲む。

それから「全くねぇ」と言う。


「...でもその感情は素敵。...無駄にはしない様にね」

「そう。...それでね。千佳」

「...うん?」

「...優くんが変な女に浮気されたのは知っているよね?」

「そうだね。昨日の夜に話したじゃん」

「うん。で。朝の事だけどその女に会った」


千佳は大きく目を開く。

それから「で?」と真剣な顔になる。

まるで何かを取り締まる刑事の様に、だ。


私は「...何も出来なかったけど。言ってやったよ。「裏切者」ってね」と説明する。

すると千佳は背もたれに突っ張った。

そして笑みを浮かべる。


「かぁ!格好良い!」

「...かな?アハハ」

「でも気を付けなぁよ。その女、多分執念深いよ」

「そうだね。でも私は負けない。絶対に...私は浮気したって誤認されても良い。ただ彼のお嫁さんになりたい」

「もー!恥ずかしい!聞いているこっちが!」


千佳は苦笑いを浮かべながら牛乳パックを潰した。

それからまた苦笑いを浮かべて私を見る。

私はその姿に「えへへ」と頬を掻く。

そして「浮気した方が悪いから私が浮気して優くんを取った」と言う。


「うん。それは相手が悪いね。浮気したのは相手だから」

「私は優くんがとっても大切。裏切りなんて嫌だから」

「そうだね。うん。とっても素敵。星空なら一途だし」

「千佳にも良い男が現れたら良いね」

「暫く私は星空の護衛に回るよ」

「もー。私は子供か」


「子供じゃないよ。あくまで表現からしてそう聞こえるかもだけど。私は本気で星空が心配だから」と食べ終えた弁当箱の蓋を閉める千佳。

そして冷たいマンゴージュースを取り出して飲み始める。

私にもくれた。

美味しいジュースだったけど千佳ってお腹壊さないのかな?

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