八 夜盗
文月二十一日、夜四ツ(二十二時)。
奥座敷の褥に横たわる多惠は襦袢姿だ。
「ねえ・・・」
菊之助は褥に入り、自分の帯を解き、下帯を取って着物をはだけた。
多惠は菊之助を引き寄せた。菊之助は多惠を抱きしめた。
多惠の喘ぎ声が奥座敷に漏れて、睦事は一時あまり続いた。
夜九ツ、子ノ刻(午前〇時)。
菊之助と多惠は汗で濡れた互いを抱いて、深い眠りについていた。
その頃。
奥座敷の外、裏庭の奥の塀の上に人影が現れた。塀から地面に飛び降りた人影は裏木戸の閂を外して四人の人影を招き入れた。
五人の人影は裏庭から店の裏手にある土蔵へ行き、土蔵の塗り壁戸の錠前を開錠して浸入し、土蔵の中の金蔵の塗り壁戸の錠前を開錠して、中にあった千両箱を五つ盗みだした。そして、土蔵の塗り壁戸を閉じて施錠し、裏庭を抜けて裏木戸から外へ出た。
奉公人はぐっすり寝込んでいて、千両箱を盗んだ夜盗に気づいた者は誰もいなかった。
文月二十二日、昼四ツ(午前十時)。
店の締日から二日目。今日から、仕入れた呉服や生地の支払いや、着物の仕立の手間賃、運脚の払い、雑貨、米、味噌、醤油などひと月分の支払いが始る。
「直吉。お足を用意しますよ」
菊之助は大番頭の直吉とともに、御から通用の土間を通って店の裏へ歩いた。
土蔵の塗り壁戸の錠前に鍵を入れて開錠し、塗り壁戸を開いた。
土蔵内に光が射しこむと、菊之助と直吉は土蔵内の異変に我が目を疑った。土蔵内にある金蔵の塗り壁戸が開いたままで、金蔵の中の千両箱が消えていた。
一昨日の店の締めの後、菊之助と大番頭の直吉、番頭の平助の三人で銭金を土蔵の金蔵に納め、金蔵も土蔵も塗り壁戸を閉めて施錠した。
しかし、今、その金蔵の塗り壁戸が開いて千両箱が消えていた。
大番頭の直吉と番頭の平助は土蔵の入口で腰を抜かした。
加賀屋菊之助は茫然とその場に立ちつくした。
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