紫煙

いよか

紫煙

沈黙を破ったのは彼女の咳き込む音だった。

その聞き慣れない音で今ダイナーにいるこの人物が君で無いことを思い出し、はっとした。

思わず普段吸わない煙草を灰皿に置いた彼女は、相変わらず話すわけでもなく私を隔てるテーブルの上の空間を見る。

この奇妙な沈黙はさぞ破綻した二人に見えるのだろう。

事実、破綻しているのだ。

日常の一部だった人がいなくなりその代わりを求めるように、ここにいる。

ありし日を投影し現実に引き戻される、その繰り返し。

煙草の煙のようだと思った。

燃えながら生まれ、そして形と匂いを残しながら消える。

その幻想を求めて、火をつけても同じものを見ることはない。

彼女と私を隔てる虚空で煙草の煙が消えようとしていた 。

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紫煙 いよか @Pseudo_iyoka

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