第23話 後片付け


 空が茜色に染まる頃。

 カフェ『星降り』はすっかり元通りになった。


 剣の姿に元に戻った『星降り』は、そのまますぐに建物化してくれたのだ。

 ただ病み上がり……というか直したばかりだ。なのでもう少し休んでいなくても大丈夫なのかなと彼に聞いたんだけど、


『問題ないぞーレオー。むしろ絶好調だー』


 という言葉が返って来た。


「絶好調なの?」

「そーだぞー。魔力いっぱいで、元気もいっぱいだー」


 とも言っている。

 どうやら直す時に、魔力をたくさん籠めた事と、ロザリーとディから良い素材をもらった事が良かったらしい。

 魔力がたっぷりだと、身体の調子も気分も良いのだと『星降り』は鼻歌混じりに教えてくれた。


 もしかしたらこれは、今後も、定期的に魔力をたっぷり籠める日を作った方が良いのかもしれない。

 もちろん『星降り』を手入れする時も、魔力は込めているんだ。

 これは直す時と同じ理由になるんだけど、魔剣の類は、手入れをする時も魔力を籠めるのが基本でね。

 その時の魔力を、もっとたくさん籠めた方が良いんじゃないかと思ったんだ。


 ただあまり大量の魔力を籠めようとすると、僕の方が先に限界を越えてしまうし、何事も過剰過ぎるのは良くない。

 僕たちで言うところの食べ過ぎになるかな。

 ひと月に一度とか、そのくらいの頻度でやるのがちょうど良いかな。

 ……あ、ほら、給料日みたいな感じ!

 手入れに使う素材も、さすがに今回のようなレベルのものは毎回用意するのは難しいけれど、複数の素材でそれに近い状態にする事は可能だ。


 というわけで、僕が独断でやっても失敗しそうだから『星降り』にも相談しつつ、やってみよう。

 相棒が嬉しいと僕も嬉しいからね。

 そんな事を考えながら、店の棚に食器や食材を戻して行く。


「レオ。これ、その上の棚で良い?」


 そうしているとロザリーがお皿を持ってやって来た。

 その後ろでは、


「魔王様ー、これあっちまで吹っ飛んでたー」

「おう、えらいぞお前ら~」

「お姉ちゃん、魔法で浮かせるの良いね~」

「そう? ……そうかな、君たちも浮かせようか?」


 ディや、店に来てくれていた魔族領の子供、それからルインも片づけを手伝ってくれている。

 僕一人だと夜遅くまで掛かってしまいそうだったからありがたい。

 ちなみにルインは今から帰るのは難しいので、うちで一泊していく事になっている。

 最初は少し心配だったけれど、魔族領の子供たちとも問題なく話をしているから、良かったと思った。

 そんな事を思いながら、



「ありがとうロザリー。あ、高いから、僕がしまうよ。そこに置いておいて」

「うん」


 ロザリーにお礼を言うと、彼女はこくりと頷いた。

 そうしているとディも、


「これも同じ柄の皿~」


 なんて言って持って来てくれた。


「ありがとう、ディ」

「いやいや」


 皿を受け取ると、ディは棚をしげしげと見上げた。


「っていうか、この棚に、こんなに入っていたんだな~」

「すごいね、胃袋みたい」

「いやおいロザリー、その例え何とかなんねぇの?」

「何とかって?」

「せめてリスのアレみたいにだよ。えーと、何だっけ……頬袋?」


 どっちもどっちだと思うよ。

 二人のやり取りを聞いて苦笑しながら、その皿も棚にしまう。


「しかし、これが収納術って奴かー。人力の魔法だなー」

「あ、それはとてもよく分かる」

「人力の魔法かぁ。ちょっと格好良いね、それ」

「だろだろ~?」


 感心して褒めるとディがふふんと胸を張る。

 魔法はなくても何でも作れる、何でもできる。そういう意味を感じられて良いなと思った。

 すると、


「じゃあ、レオの料理も魔法だ」

「あー、確かに。料理って人力の魔法だなー」


 二人はそう言ってくれた。

 お、おおう……待って待って、それはさすがに照れてしまう。

 そう言われて嫌な気分にもならないけどね。むしろすごく嬉しい言葉だ。

 僕も両親を見てそう思った事があるから。


 料理人である両親が色々な料理を作り出すたびに、魔法みたいだねって思った。

 あの食材がこんな料理になるんだとか。

 茹でたら色が変わって面白いとか。

 不思議に思えた事が全部魔法に見えた。

 その中で一番魔法に思えたのは、それがすごく美味しかった事だ。


 だから憧れていたんだ。

 僕もこういう魔法・・が使いたいって。

 ロザリーとディにそう言って貰えて嬉しかった。

 なので、


「それじゃあ、その魔法を披露しちゃおうかな」


 なんて、ちょっと洒落て言ってみる。

 すると彼女たちは首を傾げて、


「魔法?」

「と言うと?」


 期待するように僕を見て来た。

 そんな二人に僕はにこ、と笑って返す。


「今日のお礼にご馳走させて。今日は時間が遅いから、日を改めてになるけど」

「本当!?」

「本当かっ!?」


 そしてずいっと身を乗り出して目を輝かせた。

 おおう、思った以上の食いつきだ。


「じゃあ、俺はパスタだ! パスタが良い! 野菜たっぷりしてくれ!」

「私、デザートに大きなケーキがいい。私の身長より大きいの、一度、見てみたい」


 手を挙げて口々に二人はそう言う。

 野菜のパスタに大きなケーキか。うん、無理なく作れそうだな。

 うん、と僕が頷いていると、他の視線も感じた。魔族領の子供たちやルインだ。

 大丈夫、皆まで言わずとも、もちろん分かっていますよ。


「君たちは何が良い?」

「いいの? イイの?やったー! じゃあね、僕はピザ! 大きなピザが食べたい!」

「あっ! じゃあね、あたし、フルーツが乗ってるピザがいいなぁ。前に本で読んだの綺麗だったから」

「レオさん、レオさん。私は巨大クッキーが良いな」


 彼女たちも目をキラキラさせてそう言った。

 巨大か……どのくらいのサイズを想定しているんだろう……。

 とりあえずオーブンに入る大きさのものを、何枚も焼けば良いかな。というかルインってば、もしかしてもう数日滞在するつもりっぽいな。

 思わず、ふふ、と笑ってしまう。

 僕は皆の希望を聞きながら、メニューを頭の中で組み立てる。


「うん、まかせて! それじゃあ、皆の都合が良い日時を相談して教えてください」

「はーい!」


 僕の言葉に、全員が声を揃えてそう答えてくれたのだった。

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