第一信:前口上

 この様な形で君に挨拶する事をどうか許していただきたい。私は訳あって直接君の前に姿を現わす事の出来ない者だ。尤も、それは他の誰に対しても同じなのだが。

 私もまさか、この様な形で君に連絡を取れる機会に恵まれるとは思いもしなかったから、これは嬉しい誤算なのだ。

 そこで暫くの間、この様な形で君に手紙を出す事を許して貰いたい。これから君に私が語ろうとするのは、如何にして私が今の境遇に収まる事となったかと云う事だ。

 恐らく、これは君にとっても非常に興味深い物となるだろう。そう期待しているよ。君が自分の家の窓にあんな風に空き瓶を立て掛けておいた事に、私は自分と同じ嗜好を持つ物に出会えた様な気がしたのだから。

 今度理由を教えてくれると嬉しいな。返事はこの瓶の中に入れてくれれば結構。今度月が眩く光る時、次の私信と共に君の返事を受け取りに行くよ。どんな理由で君がこの瓶を置いたか、今は想像付かないけれども、それはきっと私の好奇心を大いに満たしてくれる、ある種の、ごく一部の人間にしか抱く事の無い嗜好に基づいた物である事、それだけは想像が付くのだからね。

 また連絡する。




 追伸:あの瓶はどうかそのままにしておいて貰いたい。あれは君と私とを繋ぐ唯一の連絡路なのだから。

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