第214話 CTH

「あれ?何か・・・」


「どうしたの?」


マサラ村北西の山岳ダンジョンで万能スパイスを乱獲中。

歯ごたえの無い敵との戦いの連続で、剣での戦いに飽きたからなんとなく魔法攻撃メインに切り替えたのだが、先程の最後に放った魔法にふと違和感を覚えた。


敵を倒した後にサハスが拾ってきたドロップアイテムも受け取らず、自分の手を見つめてほおけていると、それに気づいたユウキが不思議がって声をかけてきた。


「いや、なんか・・・気になることがあってな・・・ちょっと試してみるか」


「?」


この違和感は俺自身の感覚の話だから口で説明するのも難しいし、実際にやってみるしかないと思い、俺は手のひらを前に突き出し、魔法を使った。


「ファイアーボール」


いつもと変わらず魔法は発動し、前方の岩肌を標的にして放った火の玉はまっすぐに飛んでいき、壁にぶつかると炸裂し、少しその表面を削って消えた。


「相変わらず詠唱が無いのはうらやまし・・・」


「ファイアーボール」


ユウキが俺の魔法に詠唱が必要ないことを羨ましいと言おうとしていたタイミングで俺はその言葉にかぶせるように再び魔法の使用を試みた。

すると、また同じように火の玉が飛んでいき、全く同じ場所に命中した。


やっぱりそうだ・・・。


「いいわよねぇ・・・私なんてあの頭に浮かぶ意味不明な呪文を言わないと使えないのに、サトル君は名前を言うだけなんて・・・」


「はやくなってる」


「え?そりゃあサトル君くらい高レベルだったら魔法の速度だって上がるんじゃないの?」


「いや、そうじゃなくて・・・クールタイムが」


「え?・・・あ、たしかに!!」


そう、さっき二回使用したファイアーボールは、一回目に使用してから五秒くらいしかたっていない。

今まではどんな魔法でもいくらレベルを上げても十秒のクールタイムを経てからでなければ発動しなかった。


だが、さっきは半分の時間で再使用が可能になっていたのだ。

俺は朝使用して調べてはいたが、確認のためにもう一度自分に鑑定をかけ、ステータスを表示させてみた。



  名前

   アマノ サトル


  性別

   男


  年齢

   17


  種族

   人族


  職業

   重戦士 Lv31

   魔道士 Lv31

   僧侶  Lv61

   盗賊  Lv61

   大商人 Lv25

   獣使い Lv21


  ボーナススキル

   MP回復倍増(20倍)

   PT取得経験値倍増(20倍)

   マルチジョブ(6th)

   PT設定変更

   鑑定

   詠唱破棄

   システムサポート


  所有奴隷

   オリヴィエ

   ミーナ


うん、やはりボーナススキルは特に変化はない。


ここ最近は効率的なレベル上げをする関係で攻撃魔法を連続で使用することはほとんどなく、使ったとしてもすでに染みついてしまったクールタイムの感覚に従って次の魔法を発動させていたのだが、さっき俺はいつもより少し早く魔法を使ってしまい、失敗したこりゃ発動せんわ・・・とか思っていたのに、俺が口にした魔法は不発に終わることなく発動し、目標の敵を焼いたのだ。


最初は俺の感覚が間違っていて実は十秒のクールタイムが経過していたのかと思ったのだが、先程もいったように次弾発動までの感覚はかなりの精度で染みついているので、発動したことの違和感がどうしても拭えなかったのだ。


だから試しにいつもの半分の時間である五秒を頭の中で数えて次の魔法を使ってみたのだが、今までだったら出来なかったのに、今回は発動してしまったのだ。


俺はもう一度魔法を使用し、今度は発動してから四秒数えて再使用を試みてみたが、今度は俺の手のひらからは何も出ず、不発に終わった。

次はもう一度五秒でやってみると発動する。

やはりクールタイムが十秒から五秒に短縮されているようだ・・・。


う~む・・・なんだろう。

魔道士か僧侶のレベルが一定に達したから新しい効果が付与されたのか?


(それなら・・・)


俺は僧侶を剣士に変えてまた魔法を使ってみると、今度もまた五秒で発動した。しかし、再び僧侶を戻して今度は魔道士を剣士に変えてみると、五秒では発動しなかった。


「なるほど・・・魔道士のレベルをたぶん・・・30まであげると、どうやらクールタイムが半減するようだ」


もしかしたらレベル30からではなくて31からかもしれないけど、30になってからそれほど攻撃魔法を使っていなかったし、たぶん30の時点で出来ていたのだと思う。31とかキリ悪いしね。


今までも範囲化だったりフライとかも10とか5刻みで使えるようになっていたから、たぶん今回もそうなんじゃないかと思う。これで31だったら設計者の思想を疑う。


「魔道士って魔法使いのレベルを上げてからまた1から上げなおすのよね・・・?」


「うん、魔法使いを30にすると魔道士に変えられるよ」


俺が質問にすぐ答えてあげたのに、ユウキは何故か呆れた顔をして深い溜息を吐く。


「・・・・・・それって・・・サトル君以外に達成できる人っているの?」


「・・・無理じゃないかな?」


もしかしたら人生のすべてを経験値稼ぎに費やせば可能かもしれないけど、人の一生というのはそんなことだけを続けられるようには出来ていないし、そもそも出来ないと思う。


金持ちが道楽でダンジョンに物資を常に運ばせ、ずーっとダンジョン暮らしをすることが出来ればワンチャンいけるかもしれないが、そもそもレベルというもの自体が知られていないこの世界でそんなことをするやつはどう考えても頭のネジ数百本外れているし、そんなやつは存在しないでほしい。居たら少なくとも俺は近寄らん。


俺がこのレベルに達したのはこの世界に来て一ヶ月ほどだから、経験値20倍ということを鑑みて単純計算すれば二十カ月頑張ればいけると思う人もいるかもしれないが、俺には経験値倍増だけでなくマルチジョブもある。

マルチジョブへの経験値は分配されることなく、経験値全てがちゃんとそれぞれの職業に入る。


六つの職業に二十倍の経験値が分割されることも無く入るのだから、経験値効率だけ見れば百二十倍になるし、レベルが上がることによる魔物討伐の効率化やオリヴィエやサハスといった索敵が出来る人材補正も加えると、もう普通の人とは天と地の差といっても過言ではないほどの違いが出るだろう。


「そうよね。私なんてあんなに頑張ったのにレベル2とか言われた時は意味が分からなかったもの・・・みんなレベルなんて知らないから凄さが分からないと思うけど・・・鑑定で数値が分かると驚異的よね・・・」


「まぁ、自覚はあるつもりだ」


最初はそれほど凄いチートだとは思わなかったけれど、この世界で過ごし、ボーナススキルのない状態との差を感じる毎にとんでもない能力なんだなと分からされてきた。


というか、普通の人の状態がかなりきついと思うのだが、ここはゲームではないからな。全員がカンストレベルが当たり前だったりはしないし、それが不平等だと設計者にクレームをつけるものもいない。

自分の不幸さに神を呪うやつはいるだろうが、なんでみんな最強になれないんだ!なんていうやつは皆無だろう。もしいたらそいつにも俺は近寄りたくはない。


「なんにせよクールタイムが半減したというのはかなり大きい。これなら回復魔法のために攻撃を控えておくということをせずとも大丈夫そうだ」


「そもそも詠唱がある人はクールタイムなんて分からないくらい魔法を使うまでに時間がかかるんですけどね・・・」


たしかに。俺のクールタイム半減は詠唱破棄があってこそ真価を発揮しそうだよな。

詠唱は慣れれば少し動きながらでも出来るという話だけど、それでもかなり集中しなくちゃいけないみたいだしな。そんな状態で十秒だったものが五秒になったところで、そもそもそんな連発出来ねーよってツッコミがきそうではある。






とにかく、また一つ不便だったものがほぼ解消された。

一応五秒間は間隔を空けないといけないから使いまくれるというわけでもないけれど、範囲化などを駆使すればもう魔法だけでも充分な殲滅力を出せるはずだ。


最近はもうMP切れをおこす兆候すら感じないし、今後は魔法メインでもいいくらいだ。

まぁ剣での戦闘も好きだからどっちかに決めるなんてことはしないんだけどね。

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