第211話 指摘
「サトル君!この万能酵母ってちょっと凄すぎない!?なんで混ぜた途端に発酵が終わるの!?それに入れたら全部膨らむんじゃなくて、あまり発酵が進んでほしくない時はちゃんと思ったくらいの状態になるとか・・・どうなってるの、これ!?しかも話を聞いたらイースト菌やベーキングパウダーだけじゃなくて納豆菌にまでなるみたいじゃない!?もしかしたらこれがあればチーズも作れちゃうんじゃないの!?」
少し一息つこうと家の中に入ったら、お菓子作りを続けていたユウキが俺を見つけた途端に小麦粉まみれの手で肩を掴んで揺すり、万能酵母の凄さを怒涛の勢いで一気にまくしたてられた。
「う、うん・・・その凄さは俺もわかっているけど・・・ちょっと落ち着こうか」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」
俺が自分の肩をチラリと見た目線で俺の服を汚してしまっていたことに気が付いたユウキは慌てて手を離し、謝ってきた。
・・・まぁべっとりくっついていたのに急に離すもんだから、その拍子にお釣りを俺のほっぺに頂きましたが、指で拭って舐めてみたら思っていたよりも甘いことに驚いた。
「お、これこのままでも結構美味いな。何を作っていたんだ?」
俺の肩についているのはただの小麦粉を練ったものかと思っていたのだが、よく見たら黄色がかっているし、何か混ざっているのかな?
「今はみんなで色々作っていたんだけど、それはクッキー生地よ。全体的に全部作り過ぎちゃった気もするけど、サトル君のストレージは保管も効くって言ってたし、大丈夫よね?」
たしかに台所だけでなく、食卓にまで広がって色んなものを作っていて、それぞれの量も一つ一つが店の仕込みでもしてるのかと思うくらいの量を作っていた。
「うん、問題ないよ。焼く前も焼いた後でも入れておけばずっと同じ状態を保てるからな。今は人数も多いし、どんなに作っても食べ切れないなんてことはないだろうからな」
任せろとばかりに頷いているオリヴィエ達だが、何をそんなに自信満々になっとるのだ。ただの食いしん坊やんけ。
「それで、そっちの作業はどうなの?」
「まだ焼いてないから完成しているとは言えないけど、見てみるか?結構うまく出来たと思うぞ」
ユウキは最初俺の作った風呂と石鹸やシャンプーに凄い感動していたが、トイレの方は簡易水洗といっても、まだほぼボットンに毛の生えたようなものだからな。この世界で過ごしてきた中で慣れてきていたとはいえ、日本での清潔なトイレを経験している彼女からすると、やっぱりなんとかなるならしてほしいと言っていたからな。
俺達はお菓子作りの作業が一段落着いている者だけを連れて、勝手口すぐ横の今使っている風呂の横に新しく作った新しい石造りの風呂を見せた後、簡易的に作った乾燥室の中に入れてあるトイレと新しい窯を見せた。
「すごい!ちゃんと洋式のトイレだ!へぇ~トイレって陶器で出来ていたんだぁ」
逆に何で出来ていると思っていたのだろう。まぁ女子高生がトイレの素材に詳しい方がおかしいか。当たり前にあるものって疑問に思わなければそういうものだという認識で止まって素材が何だのどうやって出来ているだのというのは疑問に思わないのが普通だもんな。
俺はなんとなく気になったものを覚える気も無いのにネットで調べたそばから忘れるというのを結構日常的にやっていたけど、たまーに記憶の奥底に葬り去られた引き出しが飛び出てきて思い出すことがあるから、あの時間も決して無駄なことではなかったと思う。
「正確には磁器だけどな。日本の家で普通に使われているのは大体陶磁器製だぞ」
「へぇ~陶磁器なんだったら一緒に食器なんかも作らないの?」
「お、そうだな。木製の食器も悪くはないけど、切ったり掘ったりという加工以外は無垢のままだから匂いとか気になる時もあったし、作っておくか」
俺が土魔法で色んな形の皿をクールタイムが明ける度に次々に作って乾燥室の棚に置いていっていると、横で見ていたユウキが、
「ほんとに凄いなぁ・・・このトイレもあっちのお風呂もその魔法で作ったんでしょう?」
「うん、魔法使いだと形の維持が出来ないから今は無理だけど、これはイメージをちゃんと持てれば出来るから、ユウキも魔道士をとれるまでレベルを上げれば作れるようになるぞ」
「へぇ~、それだったらあのお風呂みたいなツルツルの石でトイレも作れなかったの?」
「あ・・・」
そうか、トイレといえば陶磁器というイメージで日本と同じような物を作ろうとしていたけど、別に自在に加工できるのならば石でもいいのか・・・。
なんという柔軟な発想・・・さすが女子高生だぜ。
俺は試しに風呂と同じようなツルツルの御影石イメージでトイレを作ってみたが・・・ちゃんと出来た。
しかもこれだともう設置と簡単な配管をするだけで完成までこぎつけるという・・・。
固定観念ガッチガチのおっさんはこれだから・・・い、いや!俺だって今は17歳だしぃ・・・トイレだって・・・焼きが上手くいけば真っ白な綺麗なやつが出来るはずだし!家の中に設置するんだったらそっちのほうが清潔感があっていいしぃ!・・・白い綺麗な石で作れというツッコミはやめろよ。俺の心がもたない。
トイレを見に来た面々はまたお菓子作りに戻って行った。
ユウキ以外の人間にはそもそもこれがトイレというのがイメージ出来なかったみたいで、早々に興味を失っていたからな。むしろ乾燥室と食器の方に感心していたくらいだったしね。
折角作ったし、このトイレは風呂場近くの外に新設することにした。
石造りといってもさすがに野ざらしというわけにもいかないので、専用の小屋なども作らなければならないが、まぁ作るのは楽しいから問題はない。
トイレは便座が無い状態なので、座面と蓋は木で作る。
最初はタンクも作ろうかと思ったが、浮きやレバーなどの器械的部分がどうなっているのかわからなかったので、外の大樽から配管を繋げてコックを捻ればその間だけ水が流れるという仕組みにした。
水量がやや心配ではあるが、それは配管の太さとコックの開閉具合で調整できるようにすれば大丈夫だろう。
陶磁器がうまく焼きあがってくれれば表面はツルツルになるはずなので、ある程度は綺麗に流れてくれるはずだ。
少なくとも今より掃除は楽になるはずだし、ちゃんと内部配管をUの字にすることで水がある程度溜まるようにしてあるので臭いもかなり抑えられるはずだ。
それと、現状のトイレはとても狭く、結構な圧迫感があるので、これから配管もするのだし、その作業もしやすくなるので、奥の壁を一時取り壊した。
これはトイレが完成したら家の外壁を飛び出すような形にして拡張しようと思う。
ついでに今のトイレも全撤去してしまおう。
この後風呂場近くに新しくトイレは作るし、そっちは石素材のやつを使うのですぐに使用可能に出来るからな。
今この瞬間はトイレゼロ状態になるが、今もよおした人は申し訳ないが、森の方か少し離れた所に作ってある肥溜めの方に直接お願いしよう。
まぁダンジョンなんかでは日常的にやっていることだから、開放感ある花摘みに忌避感を覚えるような人はこの世界には元々あまりいないからね。
ちゃちゃっと迅速かつ丁寧に作ってしまおう。
あ、陶磁器製のトイレの予備分でうまく焼けたのがあったら秘密基地の方にも持って行って設置しよう。
駄目だったとしても石製ですぐに出来る事も分かったし大丈夫だ。
でもなんか石製にするのはちょっと悔しいと思ってしまうのはなんでなんだろうね。
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