第210話 設備強化

「くそう!はなせぇ!!お前等全員この・・・ぎゃあぁぁぁぁ!!・・・あぅ」


拘束したデダントが目を覚ました途端に喚き散らしたので、とりあえずまた両方の太腿に剣跡をばっちりつけ、大人しくなってもらった。


今はカイトへの称賛とその後の流れで起きたカイトコールと使徒様コールという恥ずかしイベントもとりあえず落ち着き、デダントを捕らえた俺達の周辺に村人達が集まり、口々に感謝の気持ちを送られていた所だが、そろそろ帰りたいという気持ちが強くなってきた俺は途中で彼らの言葉を遮り、やらなければいけないことがあると言ってその場を後にした。


「兄ちゃん・・・サトル様!ありがとうございました!これからはメェンバーの一員として、しっかりこの村を守ってみせます!」


飛び去る俺達の背に、村の壁へと一足飛びで乗ったカイトがあの恥ずかし名称と共に声をかけてくる。

もう今更変更は出来ないだろうからしょうがないけど、意味を知っていると酷い名称だよなぁ、そのまんまだし・・・。


その証拠に元々の意味を知っていて、妙なイントネーションに変わってしまったそれが、使徒の加護を貰ったメンバーの名称であることを知ったユウキは、今でもアンジュの背でクスクスと笑っているしな。・・・ちくそう。


その後はトレイルで依頼達成の報告をしたばかりの冒険者ギルドでデダントの引き渡しをおこない、目を丸くしていた受付嬢に事情を話したら少し呆れられてしまったが、盗賊団の首領を生きたまま引き渡すのは情報面でも他の盗賊団への見せしめという意味でも重要な意味を持つようで、喜んでもらえた。


報酬も発生するという話で、金額は決定次第ギルドカードの方へと振り込んでくれるらしい。

最後に今日のダンジョンの狩りで得たアイテムの内、自分達では使わなそうな素材を売ってから冒険者ギルドを出てファストへの帰路についた。


日も暮れた暗い中を家へ向かって飛行途中、ココがフラフラしているなと思ってよく見ると、眠そうな目を擦っていたので、サハスの眠る背負い袋を腹側に回し、ココを俺の背中に誘導すると、ピッタリくっついてすぐ俺の背中から寝息が聞こえてきた。

今日は色々あったし、ずっと動きっぱなしだったからな。

いくらレベルが上がったとはいえ、まだココは10歳だ。疲れもするわな。


こんなに軽い体と可愛い顔で今日の様な戦闘が出来るんだから、人ってわからんもんよなぁ。

手なんかこんなにフニフニなのに・・・あ、やべ・・・ニギニギしてたら捕まっちゃった。


振り払うのもどうかと思った俺は首に回された片方の手に掴まれてしまった俺の右腕は、まるで昭和から平成にかけてコント王としてお笑い界に君臨したあの人のギャグみたいな感じになったまま家まで飛ぶことになってしまった。


家に帰ってみんなの出迎えを受け、すぐに食事をとったが、食べている時は目を爛々と輝かせていたココも、食べ終わった途端にまた目をトロンとさせたので、抱っこしてベッドに連れて行ったが、掴んだ手を離してくれなかったので、しょうがなくその夜は一緒にそのまま寝ることにした。


まぁ俺も結構疲れてたしね。食ったすぐ後に寝るのは良くないというけど、たまにはそんな眠気に身を任せたままにするのもいいだろう。


翌朝は早く寝たこともあっていつもより早く目を覚ましたが、俺以外のメンバーも俺がココと寝てしまったのを見てすぐに床に着いたらしく、同じタイミングで目覚めてきた。


朝は日課のダンジョン探索にでかけ、今日はオリヴィエ、ミーナ、アンジュ、ウィドーさん、ココ、ユウキ、サハスと、残った一枠で村人レベルを上げておくためにイデルを連れて行った。


イデルを除けば今現状で最強メンバーとなるメンツということもあり、6層と7層で重点的に狩りを行い、かなりの経験値とドロップアイテムを得ることが出来た。


6層は卵や砂糖、鶏肉に牛乳や牛肉、おまけにサーモンやメープルシロップなども手に入るので、豚肉やハチミツが手に入る7層よりもドロップアイテムの食材率が多く、ウチのメンバーにはすこぶる人気だ。


しかもユウキがお菓子作りをしてくれるとあってうちに居る人数を考えれば砂糖や牛乳、卵なんかはいくらあっても足りない位なので、ランバードやブライトブル、それに砂糖を落とすゴブリンウォリアーもオリヴィエとサハスの索敵で優先的に選ばれていた。


アーチャーとソルジャーもいるゴブリンの中で、どうやってウォリアーだけをチョイスして察知しているのかは俺には計り知れないが、きっと独特の臭いや特徴のある音が種ごとにあるのだろう。


ゴブリンの臭いなんか俺だったら絶対嗅ぎ分けたくないけどね。そういった意味でも、サハスありがとうねぇ。キミの鼻がこいつらのせいでひん曲がらないことを願うばかりだ。


ホクホク顔で帰った俺達は、朝ごはんを食べた後、昨日忙しかったのもあって今日の午後はのんびりすることにした。


「おっし、それじゃ俺は設備の強化をするために試してみたかったことをやってみるわ」


やるやる詐欺でずっとやっていなかったトイレ回りのことや、人数が増えたことでアップグレードの必要性を感じ始めた風呂に手を加えたいと考えていたところだ。この機会にやってしまいたい。出来るかはまだわからないけどね。


「私はお菓子作りにチャレンジしてみる。オーブンじゃなくて窯で作るとなると、上手く出来るかわからないけれど・・・」


ユウキがお菓子という単語を口にすると、それにほぼ全員が反応と興味を示したことで、結局ユウキによるお菓子教室のようなものが開催されることとなった。


俺の方には意外にもモノづくりに興味があるというジンクと、お菓子にさほど興味を示さなかったアンジュが手伝ってくれることになった。

まぁ俺の方は重労働ではあるものの、ステータスの暴力をふるえる俺達にそれはたいした問題にはならないし、トイレの作業もそのほとんどを構造体が維持できるようになった土魔法でなんとかするつもりなので、それほどの手間はかからないと思う。今あるものを解体するのは大変そうだけどね。


とりあえずトイレは昔興味があってインターネットでちらっとみた構造図の記憶を必死に思い出すことと、その知識にシスのアドバイスも加えることでかなり精巧なイメージを持つことが出来たと思う。


折角だから日本で使っていたような真っ白な便器が欲しいと思った俺がシスに相談したところ、白粘土と珪石があれば出来るという話だった。


珪石は俺が昔、井戸の仕事をした時に使っていたので簡単にイメージ出来るし、同じ理由で粘土もいける。もしかしたらあの仕事はこの時のためにやっていたのかと思うくらいである。そんなことはないだろうけどな。


俺はシスに助言された素材をイメージしつつ、さらにトイレの構造図を頭の中でしっかり思い描き、土魔法で俺の思うトイレを作り出した。


トイレといってもこれはまだ焼き上げる前の粘土の状態なので、これを焼くためには当然これがすっぽりおさまるサイズの窯が必要なので、そっちも作製する。


これは大きなドーム状に煙突がついた形を土魔法で作り、中で火をつけて固めるだけだったので割と簡単に出来た。こんなん普通に作ったら何週間もかかりそうなのにな・・・魔法さまさまである。


ついでに今まで使っていた窯も、即席レンガで作ったものだったのでそろそろ耐久的に危うくなっていたため、こっちも新調しようと思い、今度はちゃんと中の空気が対流するような造りにしたので、もっとふっくら焼き上げることが出来るのではないだろうか。


まぁこっちもトイレも乾燥させてから焼かないといけないし、その窯も今は焼成している最中なので、とりあえず風通しのいい場所に即席の乾燥室のようなものを三人で協力して作り、その中にトイレと新しい窯を運び入れて乾燥させることにした。


この時、トイレと窯の焼き上げに失敗することもあるかと思い、大きさを少しずつ変えたものを3個づつ追加で作っておいた。


シスの助言で容器の中にいれた粉末にした重曹をいれておき、とりあえず一日ほどそのままほおっておくことに。


次に風呂をどうしようかと思ったが、こちらはツルツルとした素材の大きな石をくりぬいたような構造にすることで作ってみた。

あまり厚くすると冷えた状態の石を温めるまで大変そうだと思い、石の部分は薄くし、そのせいで不安な強度は外側全体を木材で補強することで補ってみた。


少し大きめに作ってみたけど、腰かける段差なども用意したりして、自分でも結構よく出来たと思う。






秘密基地作りの時もそうだったけど、やっぱりこういうの何かを作るのって楽しいな。


力作業が苦ではない体と魔法があってのことかもしれないけどね。

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