第209話 名乗り

「なっ!?」


いつもだったら子供など一撃で潰していたはずの攻撃を受け止められてしまい、目をひん剥いて驚くデダント。


だが、カイトもカイトでさっきの盗賊達の時の様な余裕はなさそうだ。


それもそうだ。カイトのレベルは戦闘職である戦士の12で、今は俺のパーティーにも入っていない。対してデダントは盗賊レベル11だが、この世界では筋力なども決して無意味などでは無い為、元々の体格で上回っているデダントとの力量の差はあまり無い。

むしろ単純な力ではデダントの方が少し上回っているのではないだろうか。


「ぐっ・・・」


実際鍔迫り合いをしている二人は少しずつカイトが押されはじめている。

身長差があるためにデダントは上から下に抑えつけるように力を入れているのに対し、カイトはそれを支えるように受けていたのだが、やはり体勢と体格の不利が響き、片膝を突いてしまった。


「ガキにしちゃあやるようだが、そのほそっこい腕じゃあ・・・やはり俺様にはおよばねぇ・・・な!!」


完全に押し勝ったのを確信したデダントは、押し合っていた鉈を渾身の力で弾き、剣の防御がなく無防備になったカイトへ、もう一度鉈を振り上げ、その小さな体へ叩きつけた。


その衝撃でバリケード崩壊のときのような土煙が再びあがり、二人を包み込んだ。


さっきも思ったが、マサラ村の土は乾燥しているのか、目が細かく、土埃が立ちやすいようだ。普通に歩いても少し埃が舞うくらいだから、あのガタイで思いっきり地面に叩きつければ、自ずとこうなってしまうのは仕方がない。


そう、こうなるのは、地面に叩きつけたからだ。

だから俺は何の心配もしていない。アンジュも全く動いていないことが小さな動揺も生み出さない理由となっている。


そして、俺達の予想通り、カイトは土埃の中から転がるようにして出て来た。特に怪我をした様子も無いことから、攻撃も完全に躱していたようだ。


ゲームでよくあるローリングと呼ばれる動きをしていたカイトだったが、回転を維持したままデダントの方に向かって飛び上がり、空中で続く回転エネルギーをそのまま斬撃に繋げていた。


・・・すげぇ。意志を持ったベ〇ブレードみたいだ。一緒に回る剣がコマにつけるトゲトゲしたアタッチメントみたい。


その回転力を上乗せした斬撃に、撒きあがった土煙も一緒に巻き込まれ、まるで空中に渦が発生したようになり、その渦の中心でデダントが無防備な左腕を斬りつけられていた。


「ぐあぁぁぁぁ!!・・・ぐぉのぉ!!」


浅くない傷を腕に負いそこから血しぶきが舞い、叫び声をあげるデダントだったが、すぐ目の前に着地したカイトへ向かって、今度は横から薙ぐようにして鉈を振る。

攻撃を受けた場所が元々使っていない左腕だったため、先程のものに比べればかなり苦し紛れの鈍い攻撃ではあったが反撃が可能だったようだ。


カイトは再びそれを剣で受け止めるが、鈍くても少年の軽い体重を飛ばすには充分な力が籠められており、カイトの体はその横薙ぎによって飛ばされてしまう。


「あぎゃあぁぁ!!」


しかし、攻撃したはずのデダントが苦痛に顔を歪めると、今度は鉈を持つ腕から再び赤い血液が噴出する。


デダントの攻撃を受けたカイトは飛ばされたのではなく、デダントの力を利用して飛んだのだ。

あの瞬間、剣を受ける角度を瞬時に調整したうえで同タイミングに大地を蹴ることで飛び上がり、デダントの力を回転に変換してから先程と同じ要領で斬りつけたのだ。


再びデダントのすぐそばに着地するカイトだったが、今度はさすがに反撃する余裕は無かったようで、デダントはただ後ずさりをする他なかった。


しかし、その好機をカイトが逃すはずもなく、力強い踏み込みで少し後退したデダントとの距離を詰めつつ剣を振りかぶり、


「な・・・なんなんだお前は!!や、やめ・・・」


カイトの小さい体から出ていると思えない見えない圧力をその身に受け、尻もちをついてしまったデダントの顔面へと容赦なく振り下ろす。


「あぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!」


大きな体が地に落ちて倒れ、力なく顔を横向きにしたデダント。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


「あれ、カイトだよな・・・?」


「すげえぇ!!ほんとにカイトが倒したのか!?」


盗賊団のボスであるデダントが倒されたのを見ていた村人達が一斉に歓声をあげ、次々に家や建物の陰から飛び出してきた。

あっという間に村人達に囲まれるカイトはみんなに褒め称えられ、少し照れ臭そうにしている。


あんなに凄い戦いをしてのけたのに、やっぱりまだまだ子供だと思わせてくれる表情だ。


「よくやったな。カイト」


「見事な戦いだったぞ」


今回の戦いは危なくなったら俺やアンジュが助けるというセーフティーはあったものの、それを使うことなくほぼ同レベル帯の、しかも戦い慣れた盗賊団のボスを相手どり、普通に勝ったのだからそれは充分称賛に値する出来事だろう。


まぁ戦士と盗賊じゃ恐らく戦士の方が単純なステータス上昇は高いと思うし、盗賊の戦闘経験なんて精々自分より弱い村人を蹂躙し、苦戦する騎士団が来たら逃げるというものだろうが、それでも地力や場数は圧倒的に相手の方が上なのは間違いないのだから、彼の戦闘センスもかなりのものなのじゃないだろうか。


アンジュの指導が何かのヒントになっていたのは確実だろうが、あんな動きは彼女も教えてないしな。


「で、こいつはどうする?」


「せっかくカイトが殺さずにおいてくれたんだ。冒険者ギルドへ持っていくくらいの事はするさ」


「え?こいつ、死んでないの?」


そう、白目を剥いて全く動かないデダントだが、その顔には一切の傷も無かった。

実はカイトの最後の攻撃はデダントの顔の目の前で寸止めしており、攻撃は届いていなかったのだ。

カイトの気迫とその振りの鋭さに死を確信したデダントは見事に騙され、気を失っていただけなのである。


俺やアンジュはちゃんと見えていたが、俺と同じ角度と距離から見ていたユウキも見抜けない程、その攻撃は真に迫っていたからな。やられた側はたまったもんじゃないだろう。


「カイト!南の入口にも何人か盗賊共が向かったんだ。・・・こんなこと子供のお前に頼むのは心苦しいが、そいつらもやっつけてくれないか?」


「あー、それなら大丈夫だ。ホラ」


「えっ?」


デダント討伐の称賛の熱も少し落ち着き、南に向かった盗賊のことを思い出した一人の村人が、その討伐をカイトにお願いしたのだが、それはもうウチの自慢の子達が対処済みだ。


俺の言葉と同時に戻って来たココとサハスが、ボロボロになった盗賊を不思議がる村人の前へと放り投げ、俺の言葉を証明してくれた。


「これでこの村は守られた。さぁ、カイト」


ん?なんだ?

アンジュに何かを促されたカイトは、持っていた剣を天に掲げるように目一杯突き上げ、


「使徒であるサトル様から、メェンバーの称号と加護を頂いた俺・・・カイトが、このマサラ村を守ったぞーーーーーー!!」


と、恥ずかしい台詞を恥ずかしげも無く堂々とした見事な態度で宣言したカイト。

その言葉を聞いた村人達は次々に歓声をあげていき、その声は村全体へ広がってしばらくマサラ村は喜びの声に包まれ続けるのだった。






・・・なんだそれは・・・一体どこでそんな・・・・・・あ。


俺の脳裏に盗賊達との戦闘直前、カイトに喝を入れる前にアンジュが何やら囁いていた場面が浮かびあがってきた。


あの時か・・・くそぅ、アンジュめ・・・やりやがったな・・・。

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