第206話 仕上げ

「ハッ!」


足りない背丈を補うように少しだけ体を浮かせてから落下のエネルギーも利用して袈裟斬りの威力をあげるカイト。

それを受けたゴブリンウォリアーも完全にその体勢を崩してしまう程のダメージを負ったようだ。


レベルが今日一日だけで12にまでなったカイトは、その急上昇した力の制御をするため、仕上げとして一人で魔物と戦っているが、呑み込みの早いカイトはアンジュの指導を受けるという相乗効果もあって、既に単独で充分戦闘を行えるほどの実力を得ている。


普通の村人だった彼がここまで動けるようになったのは正直予想外ではあるが、これは彼が元々秘めていたセンスが成せる業なのだろう。


「どりゃ!・・・ふぅ」


トドメに体を回転させながらの胴薙ぎでゴブリンを上下二つに割って黒い霧に還す。

彼は体の小ささや体重の軽さというハンデを身軽さと工夫でそれを長所に変換する器用さを持っている。

これはアンジュや俺から指導されてやっていることではなく、自分からやっていることだというのがほんとに凄いと思う。


「おし、そうしたら今日はここまでにしよう。後はダンジョンを出る前に俺の加護を外した状態で戦闘をしたら終了だ」


「兄ちゃんの加護を・・・このままじゃだめなの?」


「残念ながら俺の加護は制限があるから無限に付与出来るってものじゃないんだ」


「大丈夫だカイト。私もサトルの加護を受けてここまでの力を得たが、今は一時的にその加護をはずしてもらっている。だがどうだ。今の私が弱く見えるか?」


「そっか・・・加護を外してもその時に得た経験や教官の教えがあれば、それは加護を俺にとって加護を得ているのと同じってことなんだね!」


うーん、何か知らんがアンジュの言葉をカイトが独自の解釈をもって納得したようだが、俺には何か微妙に噛み合ってないような気もしていたけど・・・まぁカイト自身が納得できているなら問題ないか。


その後は1層にもどってカイトの最終調整をした。

というのも、今までは俺のパーティーに入ったままだったので、かなりの補正値をもらっていたが、今後ずっと俺のパーティーに入れておくこともできないし、もしそれが出来たとしても補正値を受け取るには俺の近くに居ないと駄目なので、活動場所が違うカイトが俺達のパーティー補正値を受け取り続けることは出来ないからな。


だから最後の仕上げとして、彼にはパーティーを抜けた状態の補正値なしの状態に慣れてもらう必要がある。

ただ、それは今日の急激な力の上昇をいとも簡単に適応した彼にとっては難しいことではなかったようで、1層での補正なし状態下での戦いも堂々としたものだった。

これならもう彼は単独で動き、村を守るという目的は果たせるだろう。


そんなまだ小さいが、だいぶ頼もしい背中となったカイトに近づいたアンジュは、彼の肩に手を置き、話しかける。


「これで、お前もメェンバーの一員だ、カイト」


「俺が・・・メェンバー!?」


おい!俺がせっかく忘れてたその恥ずかしいグループ名を思い出させないでくれ!

っていうかまだアンジュはまだ自分のことをメェンバーだと思ってたの?


ってかメェンバーってなんだよ。何をされている方なの?


「俺、メェンバーとして恥ずかしくないように、これからも頑張るよ!」


「いい心がけだ。お前がよき行動と努力を続ける限り、サトルからの加護も届き続けるだろう」


え、俺の加護という名のパーティー補正はそもそもパーティーに入ってないと受けられないし、いいことをしようがどんなに頑張ろうが物理的な距離が離れていれば届くことはないぞ。


まぁアンジュの言っていることはそんな俗物的なことではなく、もっと概念的なことなんだろうけど、現実的な俺は突っ込まざるをえない。別にわざわざ口に出したりはしないけどな。


アンジュの言葉を聞いて真剣な表情にて頷くことで返し、それを決意表明としていた。


「マサラ村は任せたぞ」


俺も何か気の利いたことを言おうと思ったけど、特に何も思い浮かばず、ただカイトの目的を言っただけになってしまった。

だが、そんな俺の浅い言葉にも感銘を受けた様子で決意に満ちた顔を俺に向け、実に良い返事を返してくる。ええ子やな。このまま真っ直ぐスクスク育って欲しいものです。


そんなカイトの最終的な調整と指導も済ませた俺達は、ダンジョンから出て村へと戻る。

帰りはカイトから自分で飛んでみたいという単独飛行チャレンジの希望を出してきたので、最初から補助もなくやらせてみたが、飛んで少しの間はフラフラしていたものの、高度を上げてからはかなりうまいこと飛んでいた。


元々の素質もあるだろうけど、レベルアップでステータスが上がったことで器用さも上がっていることも関係していそうだよな。

普段生活している中で力以外のステータスの上昇というのは中々実感しにくいが、ふとした作業とかたまにやるDIYとかで器用さというのは結構分かりやすく実感できている。


こないだ秘密基地製作の時なんか、ウィドーさんの入口の彫刻とかやばかったしな。彼女の得意技だったのかもしれないけど、さすがにあんな本格的な物を作れるならこんな街の雑貨屋の店番なんかしていないと思うので、そういう意味でもやはりそれらもレベルアップの恩恵なのだろうと思う。


「兄ちゃん!見てくれ!俺ちゃんと飛んでる!」


「おーすごいすごい」


「・・・んふぅ」


両手を広げて安定した飛行をしていることを嬉しそうに俺に報告してきたカイトを褒めると、それを聞いていたココが何故か対抗心を燃やしてか、鼻息を荒くしてからマグ〇ムトルネードの様な横回転やキャ〇ト空中3回転のような連続前回転をしたりと様々なアクロバット技を見せつけはじめ、縦横無尽に回していた体をピタッと止めると、それを惚けるように見ていたカイトに向かって渾身のドヤ顔を見せた。


それに腹を立てたカイトがムキになって自分も回転にチャレンジしようとしたものの、お腹が天を向いた時点でバランスを大きく崩し、十数メートル落下してしまった。


俺やアンジュが助けに入ったが、手助けする前になんとか自分で体勢を整えたものの、ホッとした表情を見せたすぐ後はすごく悔しそうにしていた。


高度を元に戻した時に尚もドヤるココと目が合った時には、「フンだ!」といってそっぽ向いてしまった。

年齢も近いと仲良くなったりするのもはやいけど、こうやって対抗心を燃やしちゃったりするよねぇ。


漫画とかだとこういうのから後々恋に発展したりするけど、この二人もいずれくっついたりするんだろうか。

その時はちゃんと報告しろよ!隠れてイチャイチャしたりするのは許しませんからねっ!


そんなことをしているうちに俺達の前方にずっと見えていたマサラ村がすぐそこまで近づいてきた。


「よし、結構いい時間になっちゃったけど・・・ん?なんだ?」


俺は高度を落としながら見ていた村の様子が少しおかしいことに気が付く。

いつもはまばらだが村全体に散らばっている村人達の姿が無く、かわりに北側の村入り口付近に多く集まっていた。


「サトル!あれを!」


アンジュが指差す村の北側に数人の男達が村の方にゆっくりと進んでいた。


「あれは・・・盗賊か!」


よく見ると、村の入口には簡易的なバリケードが作られていて村側を村人達がクワやスキといった農具を手にそれを押さえつけ、外側では盗賊達が笑いながらそれを突破しようとしていた。


村人達は十数人いるのに、外側に居る五人程の盗賊に押されつつあり、今にも突破されそうになっている。






「くそ、あいつら!」


「待て!まだ村への侵入は許していない。とりあえず村の内側に降りるぞ」


俺達は降下するスピードを上げ、村へ入れまいと必死になっている村人達の背後へ着地した。

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