第204話 検討
今思い返してみれば、ファストも層を移動した先の地形も全く一緒だったような気がする。
こっちは地形が特徴的すぎて一目瞭然だけど、あっちは森だから分かりにくいだけだったのかもしれない。
ということは、層を進むあの穴の位置もいつも一緒だったのかな?
俺っていつもダンジョンに入る時はオリヴィエかサハスの案内に頼りっきりだったからマッピングする努力はおろかどこへ行くのかも全部任せっぱなしだったからな・・・。あ、サハスが今頃気が付いたの?的な顔をしてる。
「ワフ」
たぶん主従関係にある俺にしか分からないと思うけどね。
ちょっと呆れ気味な表情をこちらにチラ見せしやがってから、サハスは案内を開始し、坂を駆けのぼり始めた。
「なんかモヤッとするが・・・まぁいいか」
今度俺とサハスの立場の違いってものをハッキリさせるためにも、あのまだ短い口鼻部分の口吻をまるごと俺の口腔内に放り込んでやるから覚悟してろよ。震えて眠れ。
一つの決意を固めた俺はまだ短い尻尾がせわしなく左右に動くのを見ながらそれについていく。
俺達の前を軽快に駈けるサハスは、足の回転数を上げて速度を出すのではなく、一歩一歩毎に前方へ飛び跳ねるようにすることで、その体躯に似合わぬスピードを見せている。
たまにチラリと見える横顔はとても楽しそうで、目は輝いている。
俺の眷属になったからか、それともこの世界の動物がそうなのかはわからないが、サハスは普通の動物よりも表情が豊かだ。
狼は本来表情筋などないはずなのに、喜怒哀楽をとてもよく表現している。
犬などは人間と共棲していた時間が長く、人とある程度のコミュニケーションがとれるように進化してきたが、今のサハスはそれを軽く凌駕しているだろうな。
俺とはほとんどツーカー(死語)だが、それは獣使いを介した主従関係のおかげであるが、俺以外とのコミュニケーションも普通に取っている所を見るに、眷属になった時点でかなり知恵が回るようになったのではないだろうか。
ということは普段は全く何を考えているのかわからない爬虫類とか鳥なんかを使役すれば彼らともコミュニケーションをとれるという、動物好きにはたまらないことも実現可能なのだろうか。
っていうか獣使いって何匹位使役できるんだろう?無限にいけたりすんのかな?
「獣使いは20レベル毎に眷属を追加することが出来ます」
俺の疑問にシスがすかさずアンサーを出してくれる。
20ってことはまだ増やすことは無理か・・・獣使いは今朝16から17に上がったばっかだし、すぐにってわけにはいかなそうだけど、このままレベル上げをサボらなければ近日中にはいけそうだな・・・。
うわぁ・・・次は何を飼おう・・・じゃなくて眷属にしよう。悩む。これは悩むぞ。
色々役に立ちそうなのはやっぱり鳥だよな。せっかく使役出来るんだったらコンドルとか鷹みたいな猛禽類がいいな。カッコいいし。
逆にスズメみたいな愛らしいやつも捨てがたい。
でもコミュニケーションがとれるなら蛇とか蜘蛛とか・・・あ、たしか昆虫はダメだって言ってたっけ?
「蜘蛛は使役可能です。昆虫を使役するには虫使いを取得する必要がありますが、蜘蛛は昆虫ではありませんので獣使いが使役することが出来ます」
そっか、蜘蛛って虫じゃないんだっけ。たしか頭胸腹がどうだの足が何本だのって決まってんだったな。
っていうか虫使いってのもあるんだ。ちょっと興味あるけど、蜘蛛が使役出来るなら別にいいや。
蜘蛛は昔飼ってた・・・というか住み着いたのを可愛がってたら懐いたような気がしたんだよね。俺の勝手な思い込みだったかもだけど。
すっごい小っちゃいやつで、調べたらハエトリグモのどれかだったが、六千種もいるという文字を見て、それ以上詳しく調べるのをやめた。
世間一般的には嫌われ者だけど、よく見るとつぶらな瞳をしていて可愛いんだよね。
一年経つか経たないかくらい一緒に居たけど、いつの間にか姿が見えなくなってしまった時は悲しかった。
たぶん寿命だったんだろう。小っちゃい生物の寿命は短いからな・・・。
ん?というか、虫使いの取得条件って・・・。
「虫使いは対象の昆虫から64以上の信頼値を得た後、対象の昆虫が魔物を討伐することで取得できます」
・・・・・・は?
ムリゲーすぎん?
まず昆虫が魔物を討伐するのが無理だし、そもそも昆虫からその信頼値というのを得られるのか?
眷属でもない昆虫と仲良くするなんて無理な気がするんだけど・・・。
ん~・・・それじゃ蜘蛛も使役するのは難しいのかな?
「獣使いの職業を得ている状態で眷属にする場合の必要な信頼値は20なので、少し餌を与えれば眷属化が可能かと思われます」
チョロいな。
その信頼値っていうのがどういう仕組みなのかさっぱりだが、それなら蜘蛛もいけそうか。
しかし鳥もやはり捨てがたい。どうしよ。
「アン!」
「おわっ!」
次の眷属について悩みまくっていた俺は、サハスの一吠えで前方に意識を戻すと、目の前にはすでに魔物が迫っていた。
咄嗟にバチコーンと思いっきり右フックで殴ってしまったが、もんどりうって山の斜面を転がっていった枯れ木のような魔物はそのまま数回転した後、黒い霧になって消えていった。
「すげえ!兄ちゃんは素手でも簡単に倒しちゃうんだな!」
「ま、まぁな。凄かっただろ」
「・・・ダンジョンで油断するのはいただけないぞ。サトル」
「すんません」
完全に上の空だったことはアンジュにバレバレだった。ちゃんと注意されたので、素直に謝っておく。出来る男は女性の叱咤を全身で受け止めるものだ。
反抗できないともいう。
先の事を今考えるのはやめてちゃんと集中するか。・・・あ。
アンジュのおかげでスッキリした俺の脳がユウキに僧侶の職業をとらせるの失念していたことを思い出したので、次の魔物をウィドーさんから借りたメイスでぶっ叩いてもらい、無事に僧侶をゲットした。
ちなみに魔法使いと商人をつけるもの忘れていたのはここだけの秘密だ。
まぁ同時につけた方がレベルの差も生まれないし、結果オーライといえよう。
え?レベル差が生まれる事には何の不都合もないだろって?馬鹿野郎!そんなことは俺も分かってんだよ!
ただそう思った方が俺の不手際を誤魔化せるだろうが!はい、すいません。ちゃんとします。
そんな風にして内なる自分とも戦いながら、俺達はガンガンダンジョンを進んでいく。
さっきも倒した枯れ木や蔦人間みたいなやつを斬りながら思ったが、1層にいた花小人といい、どうもこのダンジョンは植物系のモンスターが多い気がする。
コブリンなど、そうじゃないのも居るには居るが、今のところ遭遇している中では植物系の割合が多い。
どっちかっていったらファストのダンジョンの方がそっち系だと思うんだけどな。ここは荒涼としていて植物はまばらにしかないのにな・・・。
設定ミスってないか?
ドロップアイテムもハーフリーフだの、木の棒だの一見ただのゴミなんじゃないかと思うものばかりだったのだが、鑑定で名前が出るってことは、ちゃんとドロップアイテムなんだろう。
「今度は木の板か・・・」
枯れ木のモンスターであるオールダーウッドが初めて木の棒以外の物を落としたが、棒が板になったって別に嬉しくもなんともないんだけど・・・。
その後も走りながら緩慢な動きのオールダーウッドを倒していると、一つの個体が今までにない形の物が黒い霧の中から落ちたのが見えたので、俺はレアドロップだと確信し、期待を胸にそれに近づくと・・・。
「え・・・なにこれ・・・枯れ木?」
そこにはどこからどう見ても、乾燥しきった中身がスカスカの木が転がっていた。
「アン!」
「あ、コラ!」
俺が完全にハズレレアドロップだとがっかりしてぼーっとその枯れ木を眺めていると、サハスが嬉しそうにその木をかじりつき始めた。
なんだなんだ。もしかしてこれってマタタビ?
いや、あれが好物なのは猫だけのはず・・・じゃあこれは?
俺がサハスの行動に疑問を感じ、オールダーウッドからドロップした枯れ木に鑑定を使ってみると、枯れ木だと思っていたのは「香木」だったようだ。
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