第202話 無意識

「あ!お~~~い!兄ちゃぁぁーーーん!!」


マサラ村に到着間際、着陸のために高度を落としていたら、何故か壁の上に居たカイトがまだ空中にいる俺達を発見して声をかけてきた。

その声が聞こえた俺は少し進路を変えて、カイトのすぐ横である壁上へと着地した。


「こんなところで何をしてたんだ?」


「兄ちゃんが来るかなって思って朝から待ってた!」


わお、やる気マックスやん。別に今日来るとは言ってないのに・・・。

それほど彼にとっては待ち遠しく、嬉しい事だったのかもな。


「そうか、では早速行くか?」


ストレージがあるので物理的な準備は必要なく、必要なのはカイトの精神的な

準備だけだが、どうやらそれも問題ないようだったから、俺がすぐさま出発することを提案すると、


「・・・はい!」


それまでの笑顔から一変し、息を吞んで覚悟を決めた表情をし、元気な返事を返してきた。


「この辺って近くにダンジョンはあるか?」


レベル上げを効率的に行うにはやっぱりダンジョンが一番だからね。

ダンジョン以外にも魔物は存在しているが、ダンジョン外では同時に動物もかなりの数存在している為、オリヴィエでもたまに間違えるくらい見分けが難しいらしい。


今回もオリヴィエではなくサハスに索敵役をやってもらうので、音ではなく匂いを察知するタイプなので比べられないかもしれないけど、匂いも混ざる動物と混ざるよりはやりやすいんじゃないのかとも思うしね。


「あるよ!デダント盗賊団のあった西側じゃなくて、ここから東のサラグレイグ側に一つ。トレイルの騎士団が定期的にダンジョンへ潜るためにこの村に来るんだけど、その時に案内したこともあるから位置もバッチリだ!」


ダンジョンを発見することと定期的にダンジョンへ潜らせることでスタンピードを防ぐのは領主の役目らしいから、近くにダンジョンがあるなら騎士団が派遣されてくるのは当然のことか。


そしてそのダンジョンの反対側に盗賊団のアジトがあるというのは、地形的な隠れ蓑にプラスして、冒険者や騎士団が足を運ぶ機会が少なくなり、それが拠点の発見されない要素にもなっていたのだろ・・・ん?


「あれ・・・?何か・・・」


俺が昨日壊滅させた盗賊団のことを思い出していたら、頭の片隅に何かが引っかかるものがあった。

その引っかかりを自分の中で手繰り寄せるようにすると、


「あ!アイツの事忘れてた!」


思い出したわ。

俺が捕まえた盗賊団のボス、デダントのこと。


すっかり忘れてたー。猿ぐつわして脚に剣を差したら気絶して静かになり、その後にユウキの話やら救出した女性達の搬送方法を思案していたら、その場でのどうでもいい存在ランキング第一位のデダントを連れて行くのを忘れちゃってたわ・・・。


「どうした?サトル」


俺の後ろに居たアンジュが顔を出し、突然大きな声を出した俺に話しかけてきた。


「・・・盗賊団のボス。アジトに置きっぱなしだったわ」


テヘペロを決めて見せると、その存在この中で唯一知っているユウキにまたジト目をされてしまった。


「あぁー、そういえばそうだったな。普通は大きな盗賊団などは何日も苦労して壊滅させるものなのだから、その首領を忘れるなんてことはないのだが・・・あそこまであっさりとやってのけるとな・・・私も失念していたよ」


今回カイトの指南役として、ウチの中で適性度ぶっちぎりナンバーワンのアンジュ教官を同行させたのだが、その彼女もまさかのデダント置き去りはわざとではなく、ちゃんと忘却していたようだ。


まぁたぶんアンジュだけでなく他の誰も指摘しなかったということはみんなそうだったんだろうな。

きっとミーナ辺りがいたら気が付いてくれたんだろうけど、彼女はココを家に送るため、メンバーから外れていたので、昨日は討伐時はいなかったからな。


「まぁそれは後でいいか。脚の傷は治してないからどこにもいけないはずだし、死んだら死んだで死体を持っていけば充分だろ」


「うむ、それでいいと思うぞ」


元の世界ではいくら敵であっても倒した後にそんな扱いをして世間が知ったらきっと批判されるのだろうが、この世界で非道を行う盗賊に人権はないからな。やつらの身を案じる必要はこれっぽっちもない。

アンジュも同意してるってことは俺の感覚に間違いはないということだろう。


「凄い話をしてる・・・」


そう呟くユウキだったが、表情から見るに俺達の決定に反対しているというわけではなく、そのぞんざいな扱いに呆れているという感じだった。

元のままの感覚であれば、もしかして残酷だという感想を持つかもしれないけど、そうじゃないってことは彼女もこの世界にだいぶ順応したということだろうな。

まぁそうじゃなくても被害者である彼女がそう思わないのも当然か。


「よし、じゃあカイト。ダンジョンまでの案内を頼む」


そういって俺がしゃがんで背を向けると、意図を理解したカイトは嬉しそうにして俺の背におぶさってきた。

空を楽しめるカイトは抵抗なく実行するけど、搬送した女性達の反応を見ても彼はマイノリティな方だと思う。


「行こう!歩くならこっちだけど、方向自体はあっちだよ!」


こっちあっちというたびにその方向を俺の顔の横から伸ばした手で指を差し、案内を始めるカイト。

普通の道順の他に単純な直線的方角を言ったのは、俺が空を飛んでいくことを知っているからだな。


俺はフライを使ってカイトの案内に従い、彼が二番目に差し示した方向へ向かって飛び立つと、ココが俺を追い越してクルクルと回りながら嬉しそうに飛んでいる。

楽しそうで何よりだが、ちょっと方向がズレているぞ。ちゃんと俺の後ろをついてきなさい。

あと、サハスがキミの背中の背負い袋で熟睡中なんだから、やめてあげて。

今の彼は寝る子は育つじゃなくて育つために寝ている状態なんだから。


「いいなぁ・・・俺も自分で飛んでみたい」


元気に飛び回るココを見たカイトがそれを羨ましがった。


「今日は無理だけど、今度やってみるか?」


「いいの!?うん!やってみたい!!」


嬉しさが爆発して俺の背で体を揺らすカイト。

今日はレベル上げだけに専念したいし、帰りにデダントを連れて行くというめんどくさい手間も思い出してしまったからにはやらんといけないしな。

飛行体験はまた次の機会だ・・・でも。


「楽しみだなぁ~・・・」


そう言ってココの飛ぶ姿を目で追うカイト。

たしかに飛ぶのって浪漫あるよなぁ。俺も最初はちょっと怖かったけど、それでもすごく楽しかったし、今でもこの空からの景色というのには感動を覚えている。


人が空を飛ぶことに憧れるのはどの世界の人間でもきっと同じだ。

空を自由に飛ぶ鳥を見て羨ましいと思ったことのない人間は少ないのではないだろうか。


「とりあえず感覚だけでも味わっておくか?」


「えっ?どういう・・・うわっ!」


俺は背中に張り付いているカイトを突然高速でロール回転を加えることで無理矢理引き剥がし、空中に投げ出されたその体を背中側から両脇を掴むことでホールド。疑似的にカイトを一人で飛んでいるかのような状態を作り出した。


「わあぁ・・・すげぇ!!」


今まで背中側から見るのと違って視界いっぱいに広がる光景に感動するカイトは、飛んでいる気分を味わっているかのように両手を目一杯に広げている。


普通だったらこの状態で足を伸ばし、体を一直線に保つことは相当な筋力を要することになって難しいのだが、実は今回飛ぶ際に範囲魔法を使った際、カイトは俺の背に居たのでフライの効果がかかっているので、今も実は飛んでいる気になることで感覚的に飛行の制御をする練習になっている。これは意識すると変に制御しようとして逆効果だというのはウィドーさんの時に学んだので、無意識的にやってみたらいいんじゃないかと思って実践してみたのだが、どうやら上手くいったようだ。


「すげえ!ほんとに飛んでるみたいだ!」


「実はもう既に飛んでいるぞ」


少し前からいたずら心で両脇で支えていた手を離してみたのだが、それに気が付かなかったカイトはそのまま飛行を維持し、無意識に自力で飛んでいたのだった。


が、






「えっ!?うわっ!うわぁぁぁぁ~~~!!」


自分が支えられていないと気が付いた途端、彼は落下していってしまった。


ふふふぅ。なんか自転車に乗る親子みたいで微笑ましいね。

ってそんな悠長なこと言ってる場合じゃないや。


待ってろ!今おとう・・・じゃなかった、俺が助けてやるからなっ!

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