第201話 ダンジョンマラソン
「フゥ~・・・フゥ~・・・こ、これでほんとにレベルが上がっているの・・・?」
「今ので丁度レベル8になったぞ。もう少しだ、ガンバレ!よし、サハス!次だ!」
「アン!」
「私、ほとんど走ってばっかりなんですけどぉ~~!」
「ユウキ、ん!」
ユウキの言っていることは決して過言などではなく、本当に走りっぱなしである。
そんなユウキを励ましているのか、ココが右の握りこぶしを握ってみせる独特なポーズを見せていた。
俺達は今日の目的地である5層に到着し、本格的に狩りをはじめたのだが、今の俺だとこのくらいの層はもはや雑魚以外の何物でもなく、敵を見つける度にすぐ倒し、またすぐさま索敵に走るため、ユウキとココはほとんど攻撃しないまま、ただただ走っているだけという状態だった。
最初は走る速度が常人に毛が生えた程度だったユウキも、レベルがあがるにつれて俺達についてこれるようになってきた。
これは推測だが、それはレベルが低いと受け取るパーティー補正が少ないからだと思われる。
レベルがあがるにつれ、レベル以上の動きを見せるようになるのは、今までの経験で感じていたし、ココ達のレベル上げをしたときにほぼ確信した。
「そろそろユウキ自身も自分の力がぐんぐん上昇していることを実感できているんじゃないか?」
サハスが誘導する次の標的の場所まで走りながら、そうユウキに問いかけたが、
「ハァ・・・ハァ・・・実感もなにも・・・追いつくことに精一杯で・・・」
「周りをよく見てみろ、少しおかしくないか?」
「え・・・?あ!たしかに・・・なにこのスピード・・・サトル君に追いつこうと背中ばっかり見てて気が付かなかった・・・」
俺はちゃんとユウキの様子を見ながら走る速度を調整しているからな。
村人はレベルを多少あげたところで戦闘に何の影響も及ぼさないが、ユウキは今一緒に剣士のレベルも上がっているからな。
事実、彼女は今かなり超人の入口に足を踏み入れているくらいにはとんでもないスピードで走っているしね。本人は必死過ぎて気が付いてなかったみたいだけど。
「これがレベルアップの効果だ。実際は俺のパーティー補正が付いているから普通のレベル8以上の実力が出ているはずだぞ。次の魔物で一度戦ってみろ。それで完璧に実感できるはずだ」
実際に自分の身体能力が上がっていることは走ることだけでも感じることが出来るだろうが、やはりそれは戦闘をしてみるのが一番だろう。
ユウキもそれに納得したようで、真剣な表情となり、頷いてみせる。
「見えたぞ、アーチャーは俺が倒す。ユウキとココはソルジャーを!」
「はい!」
「ん!」
今回サハスが見つけた魔物はゴブリンソルジャーとゴブリンアーチャーの二匹だ。
実感するには近距離タイプの相手の方がいいと思い、俺がアーチャーの首を飛ばして霧に還元させる。
「やぁ!」
気合いを篭めた声を上げて上段から袈裟斬りをしかけるユウキと、それを見て剣の軌道外を見極め狭い隙間を駆け抜けながらすれ違いざまにゴブリンソルジャーの脇腹を逆手に持った短剣で斬りつけるココ。
悲痛な声を上げるゴブリンソルジャーだったが、二人の一撃だけでは倒し切らず、右手に持っていた短めの曲刀で反撃をする。
それをユウキが剣で受け止め、その隙にUターンして戻ってきたココが先程と反対側の脇腹を斬りつける。今度はユウキの攻撃を気にせずにいい状態だったためか、走り抜ける短い時間で二連撃を加えていた。
「てぇい!」
顔の前で受け止めた曲刀を力で上に弾き、体が完全に開ききった隙だらけのゴブリンソルジャーの体に上に振り上げた剣を全力で振り下ろし、緑色の体を深く斬りつけたその攻撃によって、ゴブリンソルジャーは力なく倒れ、その体は黒い霧になって消え去った。
「おー、いいね。冒険者活動をしていただけあって、かなり戦闘慣れしているじゃないか」
魔物の攻撃にも難なく対処していたし、ユウキの動きは俺から見たらいっぱしのもののように見える。まぁアンジュがこの場に居たらもしかして至らぬ部分を指摘したりするかもしれないが、俺にはそんな部分は発見出来なかったので特にいうことは無い。ココも相変わらずのセンスだしな。
「凄い・・・普通のゴブリンよりも強いはずなのに、それをこんなにもあっさりと・・・」
このダンジョンでは3層になると強さが一段階増し、5層からの魔物は更に一段階強さが増した魔物が出現するようになる。
つまり今のゴブリンソルジャーはゴブリンよりも二段階ほど強いモンスターとなるので、普通ならこんなにあっさりと倒せる相手ではない。
今は俺のパーティー補正があるからこそだが、それでもその上昇した自分の力を使いこなし、動けている時点で俺からしたら合格点には充分だ。
「よし、この調子で一気に目標値まで上げ切ってしまおう。サハス!」
「アオン!」
任せろと言わんばかりに威勢のいい鳴き声で応えるサハスが走りだし、俺達はその後に続いた。
オリヴィエが居ないから正確ではないが、俺の腹時計的にはたぶんそろそろタイムアップだ。
本当はもっとユウキ自身に戦闘をさせた方がいいのだろうが、今日の午後も彼女のレベル上げは続けるので、その時にやってもらえばいいだろう。
その後はまたほぼ走りっぱなしのスピードに全振りした狩りを行い続け、目標値であるレベル10をなんなく達成して帰路についた。
家に着くと、先に帰っていたオリヴィエがお腹を鳴らし、切ない顔をして待っていたので、どうやらいつもより遅くなってしまったようだ。
やはり俺の腹時計では正確性を欠くようだ。というかなんだよ、正確な腹時計って。
「すまん、遅くなった」
「いえ、私達もさっき帰ってきたところです」
と、ほやほやカップルが待ち合わせで言うような台詞で迎えてくれたオリヴィエだが、その言葉は80%が嘘という統計が俺の中ではとれているので、おそらく結構待ったのだろう。
「すぐに飯にしようか。今日は午後も予定があるからストック分で我慢してくれ」
作り置きといってもストレージだと出来立てのものを提供できるので、我慢もなにもないだろうが、作らないという事はすなわち新作は出ないという事でもあるので間違いということでもないだろう。
俺がそう言うと、希望に満ちた表情で匙を手に、目にも止まらぬスピードで食卓に着くオリヴィエを皮切りに、全員がそれぞれ席につき、全員で楽しく食事をとった。
その中でユウキのマルチジョブには何をつけるかの話になったが、四つの職業のうち一つは剣士のままにし、残りはやはり魔法使いと僧侶をそれぞれつけ、最後の一枠はストレージを目指して商人をつけることにした。
今のままでは魔法使いは選択肢になく、変更出来なかったのだが、基礎科学知識がすでにあるユウキは魔素についての講義をほんの少しするだけで魔法使いへの変更が可能になった。
商人は既に選択画面に表示されていたのでそのままつけ、残りは僧侶だけだ。
「僧侶だとメイスだな。ウィドーさんから借りてもいいけど、少し遠回りになるけど折角だからトレイルでいいものを買っておくか?」
遠回りといっても移動時間が倍になるといったようなものでもないし、特に問題ないだろうしね。
しかし、そんな俺の提案に、異を唱える者がいた。
「メイスの購入はトレイルでは無理だと思うぞ」
「え?なんで?ファストでは普通に売ってたのに」
すると、アンジュは少し溜息を吐いてから続けた。
「メイスの販売は教会から禁じられているのだ。ファストには教会が無いから恐らく知らなかったか・・・こっそり売っていたかのどちらかだろうな」
それを聞いた瞬間、頭の上に一瞬浮かんだハテナマークはすぐに霧散し、すぐにその理由の予想はついた。
なるほどね。
これは闇深案件かもしれないな。
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