第200話 成長期

ダンジョンに侵入した俺は、まずユウキのステータスを確認し、なしになっている職業に村人をつける。

まずはこれをレベル10にしないことには他の職業を取得出来ないからな。


この世界の住人なら村人として生まれ、村人として生きていくうちに「生きているだけで経験値が入る」という村人特有の特性により、レベルが上がっていくのだが、この世界で村人として過ごした経験のないユウキは、まだレベル1で、当たり前なのだがなんとイデルよりも低いのだ。


今日の目標はこの村人のレベルを10まで一気に引き上げようと思っている。

少し無茶かもしれないが、そのために人数を絞ったのだからいけるのではないかとも思っている。


経験値はパーティー人数で割られる。これは今までの経験則からほぼ間違いないと思っている。

だから最大人数の八人ではなく、連れてくるのをユウキとココだけにしたのだ。


なぜユウキだけじゃないのかというのは、昨日からココには寂しい思いをさせてしまっているということも大きいが、彼女の戦闘センスは他の子と比べてかなり優れていて、俺はかなりココには期待しているのだ。


レベルは一緒でもやはり戦闘において得意不得意というのは出るものだ。

オリヴィエやココなんかは他の者と同じレベルでもそうとは思えない動きをするしな。


ちなみにオリヴィエはダンジョンに入った途端、


「それでは私達はお菓子・・・万能酵母をとってきます!」


と、欲まみれの思考で意気揚々と3層へと向って行ってしまい、もうここにはいない。

オリヴィエがいないと索敵無双ソナーが使えないということにもなるが、今のウチにはサハスという索敵能力を持った新戦力がいるので問題ない・・・のだが、


「おい、そろそろ起きろサハス。もうダンジョンだぞ」


寝る子は育つ・・・というが、最近のサハスはちょっと寝すぎだと思う。

飛行中も外に顔を出しているのは最初だけですぐに背負い袋の中に引っ込み、丸くなってしまう。

今朝もみんなが起きて準備している中、いち早く自分だけ背負い袋の中に入りこみ、再び眠りについてしまっていたのだ。


盗賊団討伐の際も、少し顔を出しただけでまたすぐに引っ込んでしまったしな。

まぁあの程度の相手だったら俺達だけでも過剰戦力だったから別に咎めはしなかったけど。


「サハスは幼体で急激なレベルアップをしたため、通常以上の睡眠を必要としている状態です」


少し心配になった俺はシスにそのことを聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。

でも、ココや他の子供達のレベルも結構あげたけど、そんな様子はなかったけども・・・。


「人族は幼年期を長い年月を経て成長しますが、狼であるサハスの幼年期は一年もありません。その状態での身体以外の成長をするために、通常より多くの睡眠と食事が必要となります」


なるほどねぇ・・・たしかに犬とか猫とかって子供の時間が短くてすぐにおっきくなるよなぁ。

昔飼ってた雑種の犬も、親が会社から連れてきた時は手のひらサイズだったのに、俺が学年を一つ上げる頃にはすっかり成犬になってたもんねぇ。


でもそれってサハスの体にとって過剰な負荷になってたりするんじゃないの?大丈夫?


「適切な量の睡眠と食事を摂れば問題ありません」


ほうほう。よかった。それが聞ければ安心だ。

そうじゃなかったら俺が経験値を得るとサハスも自動的に経験値を得てしまうため、成犬・・・じゃなくて成狼になるまで俺が戦えなくなるところだった。


あ、いや・・・もしそうだったら成長するまで獣使いを外せばいいだけか。

だけど獣使いはつけていることでサハスと繋がっている感じがするから、なるべく外したくないんだよねー。


「アン!」


俺がシスと会話し終わると、頃合いを見計らったようにサハスが背中の背負い袋から飛び出してきた。


サハスとはさっきも言ったように意識が繋がっているような感覚があるから、こういう風に色々察してくれる。

盗賊団の時もたぶん、俺の意識を読み取って自分は必要ないと思って出てこなかったのではないだろうか。きっとそう。眠かっただけとかじゃないよね?


「・・・ワフ」


なにその微妙な間と元気のない返事は・・・。あ、おいコラ!

サハスは気の抜けた声を残し、一人ダンジョンの奥へと駆けていった。・・・一匹か。


「あ、サハスちゃん!ねぇ、あの子・・・大丈夫なの?」


やつの実力を知らないユウキはダンジョン内の森の奥へと逃げ・・・索敵しに行ったサハスをオロオロしながら心配していた。


「大丈夫、ああ見えてもあいつはかなり強いから」


「そうなんだ・・・もしかしてサハスちゃんって魔物なの?」


あんなに小っちゃいというのに強いと聞かされたらそう思うのは無理もない。

たぶんこれからも本当にただの狼か?と思う事間違いなしだ。


「いや、サハスは魔物じゃなくて普通のハイイロオオカミだ。俺の眷属になっている時点で、普通というのも変かもしれないけどな」


「眷属・・・また違う能力が・・・」


「アンアン!」


再び女子高生のあの視線を受けるかと思った矢先、それを阻止するかのように森の奥からサハスの鳴き声が聞こえてきた。


「行こう」


ナイスだサハス。流石俺の眷属だぜ!


「アン!」


駆け付けながら心の中でサハスを褒めると、さっきより近い場所で鳴き声が聞こえ、そのまま近づくと、そこにはゴブリンが居た。


「いいぞ。このままサハスに索敵してもらいながら次の層を目指そう」


目標はレベル10だからな、ちまちまやっている暇はないので、層は遠慮なく進むつもりだし、途中にいる魔物も漏らさず倒していくつもりだ。


「あ!ココちゃんあぶな・・・い?」


ゴブリンの手前で立ち止まり、剣を構えたユウキの横をスピードを落とさずに突っ込んだココを案じて声を上げていたが、ココがそのままゴブリンの首を切り落として黒い霧にしてしまったのを見て、突然の目の前で起こった出来事を消化しきれなかったユウキはその言葉の語尾が疑問形になってしまっていた。


「はい、あるじ」


ゴブリンがドロップしたゴブリンナイフを俺に渡してくるココ。

相手が他愛も無さ過ぎて自慢にもならない当たり前のことといったその様子を見て、ユウキは唖然としている。


「慣れろ。それに、キミもたぶんすぐにあんな感じになるから」


「え?・・・えぇ・・・」


もはや驚きよりも呆れたという感情の方が強く出てしまっているユウキだった。


その後も俺達の怒涛の進軍は続き、次々に道中の魔物を倒しながらもそのスピードを落とさずに進んでいると、3層ですでにゾンビと戯れていたオリヴィエ達を横目にした少し先で、ついにユウキがギブアップした。


「ハァ・・・ハァ・・・ご、ごめん・・・ちょっと休憩させて・・・」


「・・・ダメだ。俺の背に乗れ。このまま進むぞ」


時は金なり、経験値なりってね。

今日の昼には戻ってマサラ村へ行く。それまでにレベル10にするにはまだ先の層へと進んで狩りまくらないと達成なんか出来やしないのだ。

こんなところで休憩する時間などないのだよ。ユウキ君。


「え?ちょ・・・待って、待ってってばぁぁぁぁーー!!」


少し抵抗しようとしたユウキを強制的におんぶさせ、今までより早いスピードで走る。

はじめからこうすればよかったと思うかもしれないが、俺がこれを提案したら変な目で見られることは間違いなかったので、俺はこれを・・・ユウキがバテるのを待っていたのだ。






「いやああぁぁぁぁーーーー!!」


俺達の走る速度に恐怖を感じ、背中にがっちりと掴まるユウキ。

うむ。背中に幸せがやってきたぜ。これぞ二兎を追うものは双丘をも得るという格言通りの出来事だな。


最高だぜぃ!

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