第199話 パーティー再編成
お菓子作りの予定は最初、明日の昼にと言おうと思ったのだが、明日の朝はまだレベル2のユウキと戦闘にセンスを感じるココを俺のパーティーに入れてレベルを少し引き上げたいと思っていて、午後はカイトとの約束を果たしに早速マサラ村へ行ってこようと思っていたからだ。
マサラ村へ行くにはトレイル経由だと結構時間がかかったものの、方向的にグラウ大森林の上を飛んで北東へ直線的に飛べばかなり時間を短縮することが出来ると思う。
方角もマサラ村は二つの高い山脈が作り出している渓谷にあるので、遠目でもその場所がわかりやすい。
地面を歩いている状態だとさすがにわからないが、空を飛べばその場所は一目瞭然だ。なんせ山が途切れている場所を目指すだけだからな。
タスクは溜め込んでしまうと消化するのがめんどうになりそうだったので、なるはやで消化してしまうために明日早速行動に移そうと思ったわけだ。
その後の食卓はお菓子の話で盛り上がってしまったため、それ以上ユウキの話が出来なかったが、まぁ一度にすべてを語る必要もあるまい。時間はたくさんある。なんせ俺はティーンエイジャーらしいからな。
「えーっと・・・今日の夜はちょっと出かけてくるから、ネマとユウキは子供達を頼む」
俺が少しオリヴィエ達に少し目配せをしながらそういうと、俺の意図を理解した彼女達の頬が少し染まる。
「そうなのですか?分かりました」
「あら、まだ仕事が残っていたの?」
「ま、まぁそんなところだ。明日の朝には戻って来るよ」
意図を理解出来なかった組が素直にそれを受け取る中、ただ一人の小さな抵抗分子が現れた。
「あるじ、いっしょにいく」
「・・・ココもみんなと家で待っていてくれ」
「や!」
ココは今日の午後も家で留守番しただけなのに、帰ってきた時の甘えっぷりが凄かったからな。寂しがりで可愛いのだけど、俺もこれ以上我慢してると可愛いところが可愛くなくなってしまうので、どうかここは我慢してほしい。
ストレージに必要なものはすべて準備してあるから、食事の後片付けなどもネマとユウキにお願いし、俺達はこれ以上反乱軍の勢力が強まらない内に、さっさと出掛けることにした。
「それじゃ、留守番頼む」
「はい、いってらっしゃ・・・あ、ココ!ダメよ!」
「やーーーーーーーー!!!」
ネマに捕まって身動きできなくなったココが空を飛び始めた俺に向かって必死に手を伸ばして叫ぶ姿はとても胸が痛む。
しかし、これは必要なのだ。許せココ。俺は天国に行ってくる。
そうして俺達は家から秘密基地へと一直線に飛び、ちゃちゃっと寝室を仕上げて、異世界一武道会を開催した。
ここ数日発散されることの出来なかった闘志がぶつかり合い、それは素晴らしい戦いになったことは言うまでもないだろう。
正々堂々の一対一を一人ずつ対戦した後は、全員が入り乱れての乱戦もしたりと、かなりの戦闘経験を得ることが出来、見事色情魔のレベルも1上がって26になった。
秘密基地最高。広い寝室ってスゲーよ。
翌日の朝早く、家に戻るとまたココに突進されたが、「あるじからみんなの臭いがする」と暴露され、それを聞いたユウキにまたジト目を向けられてしまった。
こちらとしてはキミを連れていかなかった俺の理性を褒めて欲しい所だったのだが、そう男の論理を言っても女性には通用しないどころか逆に論破されそうなので、ここは黙ってその視線を受け入れるのが吉だな。うん。これぞ処世術。
「昨日言った通り、朝はユウキとココを俺のパーティーに入れてダンジョンへ行くが、他のみんなはどうする?」
「それなら私は子供達の訓練の仕上げに、彼らだけでの戦闘を見守ってやりたい」
アンジュブートキャンプは今日も続くらしい。
俺のパーティーに入らなければ経験値倍増の恩恵は受けられないものの、アンジュという教官が居れば経験値以外の重要な経験を得られるので決して無駄ではないだろう。
パーティー人数上限の関係で、彼らはこれから自分達だけで生計を立てようとした場合、子供達だけでダンジョンに入ることになるかもしれないし、そういった経験をするのは非常に大事なことだろうな。
「私は、万能酵母を取りに行きたいと思います!」
「なら私達もそれについていきます」
と、オリヴィエとミーナ、ウィドーさんの三人は来たるお菓子量産のために動くようだ。
万能酵母は量的にそう使う物ではないが、一回のドロップする量も少ないので、いくらあっても問題ないからな。ちょうど保管してある量も心もとなくなってきていたし、丁度よくもある。
「そうしたらイデルはどうしようか。さすがに一人で留守番させられないぞ」
まだ3歳のイデルを家で一人にしたら、日本では非難されるくらいだけど、米国だったら逮捕されるような案件だからな。
面倒を見ると言ったのに責任者としてはそんなことをしてはならない。
「今回私は戦闘に参加するつもりはないから、イデルは私が連れて行こう」
ダンジョンに行くこと自体は危険なのだが、この家に一人残していく危険と比べたらアンジュと一緒に居る方が断然安心安全なので、頷いてその提案を了承する。
「だったらイデルもパーティーに入れておいてくれ」
「わかった」
イデルの村人はまだ4なので、ついでにそのレベルを少しでも上げておく目的と、パーティーに入れることでアンジュのステータスの恩恵を受けられてより安全になるだろうからな。
ただ、俺は自分のパーティーに入れたり出したりは出来るのだが、他のパーティー編成を変えたりは出来ないため、彼女達がパーティーを組むにはファストの冒険者ギルドのクイルで編成しなおさないといけないのは少し不便だ。
すぐそこのファストの街に寄るのを不便というのはいささか問題かもしれないが、すぐにこの場で出来ていたことが出来ないというのだからそう言ってしまうのはしょうがなくもある。
感覚的にはマンションの下にコンビニはあるけど、降りるのがめんどくさいから今日はご飯食べなくていいか、とゲームをしている時に思うそれに似ているかもしれない。少し違うか。
「それじゃ、ユウキとココは俺のパーティーに入ってくれ」
「え?・・・あ、はい」
「んふー」
俺がパーティー設定変更のスキルを使うと脳内に受領確認のメッセージが届くらしい。ユウキとココがそれを受領すると、俺のパーティーに二人が入ってきた。
そして子供達とアンジュはパーティーを編成しに一度ファストへ、残った六人と一匹はダンジョンへとそれぞれ向かった。
「これが・・・ダンジョン?」
「穴のようなそうでないような変な感じだよな。岩に黒塗りしているだけのような感じもするけど、奥行きもあるようなないような・・・。俺はもう慣れたけど、はじめは俺も入るのに少し勇気がいったよ」
ユウキだけになーっていう、今後も何回も思いそうな寒い台詞が脳内に浮かんだのを振り払う。口に出してはいけない気がする。それを言った瞬間に俺のユーモアはきっと死ぬ。これは禁句。手を出してはいけない禁忌だ。
「サトル君・・・今ユウキだけになって思ったでしょ・・・」
はいー。ユウキのユーモアは今死にましたぁ。
禁断の果実に手を出したら楽園から追放されちゃうんだぞ!まったく。
「はぁ・・・まぁいいわ。そんなことより早く行きましょ」
はい。あ、結構すんなり入っていくんだね。女の子の度胸って凄いわ。
さすが、修羅場をいくつも乗り越えてきているだけあります。
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