第198話 ズル
「ああ・・・とんかつにポテトサラダ・・・白身魚のフライとタルタルソースまで・・・」
「ん!ん!」
懐かしい料理群に感動するユウキの皿に、食えと言わんばかりに色々なものを乗せていくココ。
なんかちょっと誇らしげなのは何故だろう。
「ん~、全体的に茶色いけど・・・ほんとに美味し~~~」
たしかにうちの食卓は揚げ物がメインだし、主食もパンなのでほとんど茶色ばかりだ。
男親が作る弁当もこんな感じになるのを鑑みると、男が作る料理ってこうなる傾向にあるんだろうな。揚げ物美味いし、俺が真っ先に思いついた料理だったしな。
「ユウキは料理を作ったりしてたのか?」
「うん、私の両親は共働きでお兄ちゃんが家事を全くしない人だったから、いつも家の食事は私が作ってたよ」
「へぇ~、じゃあ今度なんか作ってもらおうかな」
「凝ったものだとレシピが無いとちょっと難しいかもしれないけど、簡単なものなら・・・」
「作りたいものがあるなら俺がシスに聞いてレシピを教えるよ」
「シス・・・?」
そういやみんなの紹介はしたけど、シスのことはまだ伝えてなかったな。
「俺のボーナススキルにシステムサポートというのがあるんだが、シスはそのスキルで、色々なことを教えてくれるんだ。ユウキの選択画面にもあっただろ?システムサポート」
俺がそう言うと、ユウキは少し思案してから、
「いえ、私が選んだ中にそんなものはなかったわ・・・」
「え?」
どういうことだ?たしかにボーナススキルが一個しかない時点で俺とは全然違うわけだが、それならボーナスポイントが変動制だったということで説明がつくが、項目自体が無いとなると・・・・・・うーん、わからん。
「なんか・・・ズルくない?」
「それについてはほんとにそうだが、俺から何かした結果じゃないから何とも言えん」
せめてボーナスポイントガチャみたいな画面があってそこの抽選決定する演出みたいなのがあったら納得できるんだが、俺もユウキもそんなものはなくてはじめから提示されたポイントを割り振っただけだったからなぁ。
演出はないけど実際はそういったランダム制のものだとしたら、ゲームとしての見せ方が下手くそだとしかいえないが、あれは本当のゲームじゃないからな・・・。
「けど・・・ズルい!」
う~ん、正直ぃ。
まぁ俺が逆の立場だったらそんなもんじゃすまないと思う。ズルいって次元じゃない。
この世界ではこのスキルがあるかないかは生死に関わるし、生活の充実度にだって直結するかなり重大なものだからな。
今のユウキみたいに少し頬を膨らませてむくれるくらいじゃ済まない自信があるぞ。
「あるじズル?」
「う~ん、まぁちょっとな」
「でもあるじはあるじ」
「?・・・そうか、ありがとう」
・・・すまん。どういうこと?
今の未熟な俺では高潔なココさんの考えを理解するには至っていないみたい。俺が成長したらその哲学みたいな回答をきっと解き明かすからその時まで待っていてくれ。たぶん二百年くらいかかると思う。
「まぁシスのことは置いといて・・・料理が出来るなら今度何か作ってくれよ」
「それは構わないけれど・・・材料とかってあるの?この世界特有のものとかだとちょっと難しいかも・・・」
「あ、それなら大丈夫。何故かしらんけど、ここの野菜とかは名前が少し違う事とかあるけど、概ね俺達の知っているものだから。まぁ日本のような技術が無い分、品種改良なんかは進んでないから質は落ちるけどな」
そうなんだよね。カルロに食料を手配した時には名前で指定することをせずに注文したものも多い。その中に野菜も含まれているのだが、届いた既知の野菜が俺の知っている名称と違うという事が多かったのだ。
「調味料も大体あるぞ。ウスターソースは自作してストックあるし、マヨネーズも作り置きして結構ストックはある」
「え、マヨネーズって自分で作ったものは保管が利かないんじゃなかった?」
お、よく知ってるねぇ。
市販のマヨネーズは徹底した殺菌をして清潔な容器にいれてあるから賞味期限はかなり長いのだが、実は自作したマヨネーズは次の日くらいには食べ切らないといけないくらい保存が利かない。
そういうことも知っているという事はユウキがちゃんと料理をしてきたのだろうね。
「それがストレージに入れると中の物は時間が止まるらしくてな。出来立ての物を入れておけば何日置いても次取り出した時に出来立ての状態で取り出せるんだ」
「なにそれ・・・ズルい」
やばい、このままではユウキの口癖がズルいになってしまいそうだ。
言っておくけど、キミもこの世界では充分ズルいに分類される存在だからね?
まだ能力が活かされていないからまるで実感ないだろうけど、マルチジョブで職業が四つ付けられるのは凄いアドバンテージだ。
「まぁこれを手に入れるまでに俺も結構苦労したんだ。ズルいに関しては自覚しているのでこれ以上は言わんでくれ」
新しいものを出す度に言われてたら敵わんからな。この辺で口癖フラグは叩き折っておかねばなるまい。
「ふ~ん・・・まぁそれだったら私にも色々作れると思うわよ。お菓子なんかはよく作ってたし・・・あ、でもさすがにベーキングパウダーとかないと・・・」
「あるぞ」
「え?」
この世界には超絶素晴らしい可能性の獣であるアイテム「万能酵母」がある。
しかも我が家の近所であるファスト西のダンジョンなら3層という実に行きやすい距離に出現するゾンビからドロップするという神アイテムである。
「万能酵母といってな。これ一つで今まで試した中だとパンはもちろん、ホットケーキや納豆も作れた」
最後の単語に約一名がビクッと怯えた反応を見せたが、ここは一つ美味しい料理の為だと思って我慢して欲しい。
「それって・・・それだけでイースト菌にもベーキングパウダーにも納豆菌にもなるってこと?ちょっと信じがたいけど・・・空飛んだり何もない所から物を出したりすることから考えれば、まだ信じれること・・・なのかしら?」
彼女は今日一日で回復魔法からはじまり、フライによる飛行やストレージなど様々な能力に触れまくったからな。
俺にして見りゃよく一つ一つにツッコミを入れなかったなと思うけど、救出した女性達の手前、そういう雰囲気でもなかったか。
ユウキ自身も酷い目にあってた状況だったのだし、そんな気持ちにもならなかっただろうしね。
「だとしたら・・・色々お菓子なんかも出来そうね」
「菓子を作れるのですか!?」
今まで話を聞きながらも黙々と揚げ物を口に運び続けていたオリヴィエが、その口内の物をすべて一気に嚥下してユウキの話に食いついて来た。
「かし?」
「菓子は甘くてと~~っても美味しいものです!以前にご主人様がほっとけいきというものを作ってくれましたが、ほんとに甘くてフワフワで・・・あぁ、もう一度食べたいですぅ~」
「たしかに・・・トレイルに向かう中で作っていただいたものでしたよね。あれも美味しかったですねぇ」
万能酵母の効能を調べる目的もあって作ったホットケーキはちゃんと成功して確かに美味しかった。
そういえばあれから作ってないな。
色々作れるものが増えてることもあって、主なおかず群以外の物はリピートしなかったんだよね。
「!?・・・あるじ!?」
私食べてないよ光線が凄い。
ココからだけじゃなく、オリヴィエとミーナ以外の全方位からそれは発射されていた。
「それじゃ、明日の・・・夜にでもお菓子作りをみんなでやってみるか?」
俺がそう言うと、うちの食卓が歓声に包まれた。
みなが口々に楽しみだと言っている。
こりゃ失敗できないぞ・・・という視線を向かいのユウキに送ると、本人は苦笑いをしていた。
しかし・・・な~んか忘れてる気がするんだよなぁ。
何だろうこの喉の奥に何かがつっかかってるような感覚・・・。
・・・う~ん、わからん。
まぁいっか。そのうち思い出すだろ。
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