第197話 紹介
「あるじ!!」
俺達が家の前に着地すると、二階の窓から外を眺めていたココが俺の事を呼び、窓から消えたと思ったら玄関から勢いよく飛び出してきて、そのまま俺にダイブしてきた。
まだレベル8とはいえ、密偵はやはりスピードがあがる職業なのかそれともココの元からの素質なのか、かなりの速度で突撃をしてくれた。
俺なら大丈夫だけど、他の人にやったらたぶん致命的ダメージを負ってしまうから気をつけてな。
俺がココを受け止めると、頭をグリグリと振って擦りつけてくる。
狼人族なはずなのになんか猫みたいだな。可愛いけど。
「ただいま、ココ」
「んふぅ~、おかえり」
いい笑顔と鼻息も変わりないようでなによりです。
「?・・・だれ?」
しばらくグリグリを続けていたココだったが、オリヴィエの背から降りたユウキが視界に移ると、彼女に指を差してフーアーユーしてきた。
「彼女はユウキだ。これから一緒に暮らすことになる。ユウキ、この狼人族の子はココだ」
「ユウキです。よろしくね、ココちゃん」
「ん!」
ユウキの自己紹介に頷きながら世界最短の返答をしたココは、また飽きずにグリグリを再開した。
ここまで懐いてくれるのは嬉しいけど、俺の上着が擦り切れてしまいそうなのでそろそろやめていただきたい。
「サトル様、おかえりなさいませ・・・あら?」
「ただいま、ミーナ。彼女はユウキだ。今日からここで一緒に暮らすことになるからよろしくな。ユウキ、彼女はミーナだ」
俺達の声を聞きつけてか、ミーナも家から出て来たので、彼女にもユウキを紹介する。
「ユウキ センゴクです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるユウキに、ミーナも同じようにお辞儀をし、
「もしかしてユウキさんは大和出身の方ですか?」
「はい・・・あ、いえ・・・違います」
大和から来たのかと問われ、何故か最初は肯定したユウキだったが、自分からすぐに撤回していた。
「すいません、今まで大和の貴族ということにしていたので・・・」
ああ、なるほどな。
この世界にあって日本的地名な大和という国は、やはり住んでいる者達の容姿も日本人と酷似しているのだろう。
ユウキがそこ出身と言っても疑われないのならば間違いないと思う。
「意匠のついたその上質の服ならば貴族と言われても納得しちゃいますね」
たしかにユウキの着ている高校生の制服は、日本ではとても一般的なブレザーなのだが、この世界においてはかなり出来のいい服なはずだ。
この世界に来てからの厳しい生活のせいか盗賊達に捕まった時に雑に扱われたのか、所々ほつれてしまってはいるが、それでも縫製も作りもとても上質だと見ただけでわかる。
ファストはもちろんトレイルの服屋にもそんないい服は売ってなかったしな。
「貴族ではないにしろ、生まれは大和なのですか?」
「彼女は、俺と同郷だ」
「「「「えっ!?」」」」
ミーナの率直な質問に俺が代わりに答えると、その場に居たココ以外の女性陣が一斉に声をあげた。
「ご主人様と同郷ということは・・・もしかしてユウキさんも使徒様なのですか!?」
オリヴィエの疑問は他の三人も同様だったようで、四人は俺の顔を凝視して解答を待っている。
うーん・・・どういったらいいものか・・・。
「そうだといえるし、そうじゃないともいえる・・・のかな?」
「それは、どういう・・・?」
ハッキリしない俺の回答にミーナが追求してきた。
「彼女が俺と同じで違う世界からやってきたというのは事実だが、俺が持っているような力は持っていない」
「以前おっしゃられていた「ぼーなすすきる」ですね?」
オリヴィエにした「俺の世界」の話は激戦が終わった後の眠りにつく前に全員に共有してあるので、オリヴィエ以外のみんなも知っている。
「そうだ。厳密に言うと彼女も一つだけ持っているのだがな」
「え!?私、特に凄い能力とかは・・・」
今の今まで遠慮をしてか静かに聞いていたユウキだったが、身に覚えのない能力が自分にもあると言われ、たまらず話に入ってきた。
「いや、あるぞ」
「だって・・・そんなものがあったら私はあんな・・・」
ここまでかなり苦労したユウキはそのような能力があったらこんなことにはなっていないと思ったのだろう。
しかし、ユウキの能力は現在は使われていない状態になっている。
そして鑑定を持っていない彼女はそれに気が付くことが出来ない状態だった。
そんな状態では彼女視点では無いのと同じになってしまうのも無理はない。
「キミはこの世界に来る時に選んでいたはずだ。ボーナススキルという特別な能力をな」
「え?・・・まさか!?」
彼女から聞いたこの世界に来た経緯の話の中で、彼女は「ゲームを始めようとしたらこの世界に居た」と言った。
そして鑑定を使うと彼女のステータスにはマルチジョブ(4th)というスキルが表示されている。
ならば彼女も体験したはずだ。
ゲームのものと思って作ったキャラ設定を。
「そう、キミはマルチジョブのスキルを持っている」
「マルチジョブ・・・でも、街のクイルでしてもらった鑑定にはそんなこと・・・」
「クイルの鑑定は第一職業しか表示されないし、そこにはレベルもスキルも表示されない」
少し大きな街にいけば中へ入るのに鑑定をしなければならないので、やはり彼女もクイルでの鑑定を経験済みみたいだ。
俺は自分の鑑定を持っているからクイルが限定的な情報しか表示してくれないということを知っているが、やはりこれも知り得る能力を持っていなければ知る術はないので、与えられた情報がすべてだと思ってしまうのはしょうがないことだと思う。
あの不思議ウィンドウを出されてこんなの嘘だ!とか言えるやつは、そうとうな偏屈かこの世の全てを嘘だと思ってるやつしかいないと思う。
「スキル・・・レベル・・・?」
困惑するユウキだが、受け入れてもらうしかない。
鑑定結果は他の人に見せることは出来ないので、証明して見ろと言われたら困るのだが、それも俺と一緒に行動してくれれば実感して納得してもらえるのはすでにオリヴィエ達で証明済みなので、そこは実体験で体感してもらう他ない。
「あー兄ちゃんおかえりー!」
「にいに」
外で少し長話をしていたら、玄関から顔を出したライとイデルに見つかり、
「「「おかえりー!」」」
「サトル様、お帰りなさい」
ジンク、サン、ヒノの三人に続いてネマも出迎えに出て来た。
ちなみに兄ちゃん呼びは俺の事を子供達が様付けで呼んできたので、堅苦しいのが嫌だった俺が矯正した。
子供からサトル様とか言われて悦に浸る趣味は俺には無いのでな。
「あれ?この人は・・・?」
「みんなにも紹介しないとな、この人はこれからこの家で一緒に暮らすことになるユウキだ。仲良くしてやってくれ」
俺がユウキを紹介すると、活発な子から順番にそれぞれ自己紹介をはじめた。
最後に、
「ネマです。一応この子達の世話役を任されています」
新しい家が建ったらネマに子供達全員の世話を一任する予定ではあるが、それは建設前の今でも変わりないし、俺が保護する前からそうなのだろうから任されているというのは少し違う気もするが、俺が頼んだことは確かだからな。
「よろしくお願いします・・・なんか、綺麗な人と可愛い子ばかりじゃない・・・?」
挨拶の後にボソッと俺に呟くユウキだったが、ホントの事なので特に否定はしない。だが、
「別に俺が選別しているわけじゃないからな」
出会った人たちがたまたま可愛かっただけで、可愛い子達だけを俺が選んでいるわけではないという事だけは言わせてほしい。
可愛かったから保護したといわれたらちょっと言葉に詰まるけどな。
「アン!」
「サハス!」
ユウキを背負うため、今は俺が持っていた最近すっかり揺り籠がわりになっているオリヴィエの背負い袋から飛び出したサハスが、ココに抱かれる。
サハスは飛行中、最初の方は背負い袋から顔を出して風を感じているのだが、少し時間が経つと飽きるのか、首を引っ込めて出てこなくなる。
主人が頑張って働いていたってのに、お前・・・今の今まで寝ていただろ。
たしかに背負い袋はサハスが入っても結構余裕があるし、適度な揺れが気持ちよさそうではあるけどね。
ユウキとの話はまだ途中だが、これで全員の自己紹介も済んだし俺達は一旦家の中に入ることにした。
続きは飯の際中にでも話せばいいだろう。
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