第196話 それぞれの想い

とりあえず怯えている第一村人の男に大丈夫だと伝え、恐れを取り除いておく。面白いからそのままにしておこうかとも思ったが、さすがに可哀想だからな。


距離的にそうなんじゃないかと思っていたが、やはりアンジュはまだマサラ村には到着しておらず、俺達の方が早かったようだ。


集まってきた村人達にククライツの時と同じように歓待すると言われたが、時間も時間だし、アンジュと合流したらすぐに出発するからと言って断った。


いやいやそう言わずと後から来た村長に粘られていると、俺の後ろで激しい着地の衝撃音を出しながらアンジュがやってきた。

凄いな、ヒーロー着地ってナチュラルに出るもんなんだ。カッケーな。


「よし、それじゃ・・・」


「兄ちゃん!」


合流を果たしてさっそく帰ろうと号令をかけようとした時、俺の言葉を遮って壁上から降りてきたカイトが俺に呼びかけてきた。


「ん?どした?」


「兄ちゃんは使徒様なんだろ?だったら俺に・・・兄ちゃんの・・・サトル様の加護をください!」


カイトが両方の手をそれぞれ腰の横で固く握り、決意に満ちた表情をこちらに向けてきた。

途中から敬語に変えるなどしていることから幼いなりに自分なりの誠意を見せようとしているのだろう。


「カイト!?何を言って・・・!」


集まってきた村人達の中に居た姉が突然妙なことを言い出した弟を制止しようと前に出てきたが、


「俺は・・・俺は悔しかったんだ!みんなが攫われているのに・・・俺は何も出来なかった!」


盗賊団に村が襲撃された時のことを思い出しているのか、カイトは目尻に涙を溜めていた。

必死に堪えてはいるようだが、数滴零れ落ちてしまう。


「だから・・・だから俺は、みんなを守れる力が欲しい!俺に・・・使徒様の加護をください!」


カイトは子供ながらに一人で盗賊団の拠点を突き止めるくらいの行動力と胆力を持っているし、今回の一番の功労者と言ってもいいくらいなので、いいよ!って軽いノリで願いを聞き入れたい気持ちもあったのだが、


「力には大きな責任が伴うぞ。お前にそれが背負えるか?」


ほいほい力を持つ者を与えると色々問題が起きそうだし、それっぽい理由があるように見せておかないと俺も俺もと名乗り出てこられても困るので、それっぽいどっかで聞いたことのあるようなそれっぽい台詞を言って、カイトの覚悟を問う風に見せた。


「・・・はい!」


とても真剣な眼差しと真っ直ぐな目と心で俺を見るカイト。

即答しない方がいいかと思って見つめ合っていたが、このままだと笑ってしまいそうだったので、俺が「わかった」というと、


「本当か・・・ですか!?」


嬉しくて素が出てしまった直後に慌てて敬語に直したカイトは、全身でその喜びを表し、ピョンピョンと飛び跳ねていた。


「今日はもう時間がないから、今度近いうちにまた来るよ。加護はその時な。・・・それと、話し方はいつも通りで構わないぞ」


こんな小さな子に敬語を使われても無理させているようであまり気持ちのいいものじゃないからね。


また後日と言ったのは、俺達だけだったらここに滞在してもいいんだけど、今は家で待ってる人がたくさんいるからな。

食料は全部俺のストレージの中だし、子供やミーナ達にご飯を食べさせるために帰らないといけないからだ。


「わかった!絶対だよ!!」


まぁ俺としても助けた村人がまた攫われたりしたら嫌だしな。

信頼できる者が守ってくれるならばこちらとしても安心できる。


アンジュの時もそうだったように、盗賊団は壊滅させてもその残党が他の盗賊と合流し、違う盗賊団が勢力を伸ばしたりすることもあるだろう。

それらすべてを潰せるとは思えに無い。それは領主の仕事であって、俺が自主的にやるようなことでもないしな。


「それじゃ、かえろか」


「はい!」


あれ、オリヴィエが何か嬉しそうだな。さっきのやり取りのどこかに彼女の琴線に触れることでもあったのだろうか。

それがどこの部分なのかは全然わからないが、まぁ嬉しいんだったらなんでもいいか。


ユウキをまたオリヴィエが背負い、俺達はマサラ村を後にした。


「サトル君って・・・使徒なの?それに加護を与えるって・・・?」


「うーん、それについては後で話そう」


ユウキの話はミーナも交えて話したいしな。

彼女の出自をオリヴィエ達が聞いたらどう思うんだろう。


今思ったが、俺が使徒だという定義が俺に適用されるのなら、ユウキもそれに該当するんじゃないのか?

いちおうボーナススキルも持っているし、レベルを上げればきっとかなりの力を持つことになるだろうしな。


だとしたら彼女も使徒と言われるようになるのだろうか。


マルチジョブだけだと職業変更が出来ないから少し微妙だけど、俺のパーティーに入りさえすれば俺のスキルで変更出来るしな。

俺がいるということが前提となるものの、そう考えるとユウキがマルチジョブだけに特化させたのは俺のスキルと相性がよく、いい選択だったのではないだろうか。


俺と出会うまでの経緯を考えると、現時点ではよかったとは言いづらいだろうが、今後の生活をよりよいものとすることで、彼女がそれを「よかった」と胸を張って言えるようにしよう。


「あの少年・・・中々いい目をしていたな」


「そうさね。自分の無力さが悔しかったんだろうね。アタイも気持ちはわかるさ」


ウィドーさんは襲われた側の経験則だが、抵抗できなかったというのは共通しているからカイトの気持ちも理解出来るんだろうな、

賊に襲われた経験のない俺は想像はできても、真にその気持ちをわかってやれるのは難しいだろう。

やられてもないことを分かっているというのは傲慢だし、ただの思い込みだ。


「私も・・・救えなかった無力さは・・・」


何かを思い出したユウキは言葉を詰まらせ、顔をオリヴィエの背中に埋めてそれ以上は何も言わなかった。


「大丈夫。ご主人様とご一緒させていただければ、そういったものは無縁になります」


「・・・うん」


背中に感じる重みからその感情を読み取ったオリヴィエが、真っ直ぐ進行方向を見据えたまま、ユウキに話していたが、俺はそんな彼女に何を言ったらいいのかわからず、そのまま黙ってただ飛行を続けた。


それぞれが何か思うところがあったのか、結局それ以降は会話という会話もなく、トレイルに到着した。


さっきのように門から入るとまたカルロに報告がいくかもしれないので、今度は正式なルートをとらず、俺達は冒険者ギルドの前に直接降りた。

厳密には入街のルール違反なのかもしれないが、この街ではもう俺を不審者扱いするやつもいないだろうし、このくらいはいいだろう。


「そうだ、報告ついでにストレージに死蔵しているアイテムも売ってしまおう」


ファストでは価値の無かった毛皮なども貿易が盛んなこの街ではちゃんと値がつくんじゃないかと思って依頼達成の報告ついでに今まで溜めていたドロップアイテムを出しまくっていたが、これ以上となると査定に時間がかかると言われ、総数の二割くらいでストップした。


あまり時間がかかるとまたやつが来て変なことを押し付けてくるかもしれんしな。ここはさっさと退散できる程度で我慢しておこう。


ドロップアイテムは二割といっても今まで魔物を狩り続けた俺達のストックは膨大で、受付の机には全く乗り切らない程の数だったのでかなりの金額になった。


これなら今後建てようとしている家を注文してもお釣りがくるのではなかろうか。新築工事がいくらかかるのかは知らないけど、たぶん大丈夫だろう。そのくらいの金額が提示されたのでな。


何かあった時のために現金も持っていた方がいいのかなと思い、少しだけ金貨にしてもらって、残りはすべて今まで通りギルドカードの残高に加えてもらった。






よし、後は帰るだけだ。

オリヴィエがさっきからお腹をさすっているし、さっさと戻ろう。


彼女だけじゃなく俺もかなりペコペコだ。

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