第195話 称賛と恐れ

荷車を持って空を飛び、マサラ村へと戻ると、俺達を見つけた村人から順番に漏れなく平伏していった。


「・・・何だ何だ?」


俺が駆け寄り集まってくる村人達がどんどん地面に伏せていく姿に驚いていると、一人の男が顔をあげる。あ、村長じゃん。


「この度は我がマサラ村へとご訪問いただき、村民一同感激の至りでございます。あ、あの・・・先日は大変失礼なことを申し上げまして・・・」


なるほど、俺の正体が使徒だとわかったか、それに近いような存在と推測したのだろうな。

そうすると問題として浮き上がってくるのがこの村に来た時の自分達の態度で、それを不快に思ったであろう俺からの制裁を恐れて急にかしこまっているわけだ。


「俺は村長たちが思っているような存在かもしれないが、無闇に恐れられるのは好きじゃないからやめてほしい。それに、気分を害したくらいじゃ・・・まぁ度が過ぎなければ何もしないぞ」


気分を害したくらいじゃ何もしないと言おうと思った瞬間にデオードの顔が浮かんで来たので、少し言葉を修正した。

あいつくらい失礼だったらさすがに手が出るからな。


「あ、ありがとうございます」


「村長達は兄ちゃんの悪口でも言ったのか?兄ちゃん達ものすっっっごいつえーから怒らせない方がいいぞ」


頭の後ろで両手を組んだカイトが軽い感じでこの緊迫した空気の中入ってきた。


「こらカイトっ!アナタは黙ってなさい」


村人達から微妙な視線を一身に受ける形になったカイトを姉が「すいません」と呟きながら止めに入った。


「クララ!?それに・・・おぉぉ・・・他の者達も・・・」


今気が付いたんかーいっ!

空を飛んで出発したところを見ていたから、空から降りてくるのを見て俺達と判断し、その瞬間に平伏したからそのせいで荷台の上の娘達に気が付かなかったのか。


村長の声で頭を下げていた者達も娘達の帰還に気が付き、その中には関係者も居たようで、立ち上がって駆け寄る者も何人かいた。


ある者は帰ってきた娘の顔を両手で掴み、その無事を確かめるようにまじまじと見つめてからお互いに抱き合ったり、娘の前で膝を突いて顔を覆ったりしている者など反応は様々だが、みんな一様に涙を流していた。


「サトル様・・・攫われた娘達を助けていただき、誠に本当にありがとうございます」


「あれ、俺この村で名前って名乗ったっけ?」


たしか冒険者としか言ってなかった気がするけどな。

知らない人に自分の名前を積極的に伝えるほど、そこまで俺の自己主張は強くない。


「やはりあなた様がトレイルを救った使徒様でしたか・・・サトル様の噂はここまで届いておりましたので、そうなのではないかと思った次第でございます」


「なるほどね」


上手くカマをかけられたというわけか。まぁ今のはほぼ確信を持っているものの答え合わせをしただけだろうから、別に何とも思わないけどね。


「とりあえず俺達はククライツに行って残りの娘達を送らなきゃいかないからここら辺で失礼するよ」


「そうですか・・・なんのおもてなしも出来ず、申し訳ございません」


「気にするな、それじゃ」


もてなしとかいってここの郷土料理とかを出されても、この世界のものじゃあまり美味いものは期待できないしな。

それだったら自分のストレージにストックしてある出来立てのものをつまんだ方がいいしね。


「この度は本当にありがとうございました」


わざわざいう必要も無いと思って言ってなかったけど、実はここでアンジュと待ち合わせをしているからまたすぐに戻って来るんだけどね。

まぁそん時はビックリしてもらおう。


俺達が再び荷車を持つと、村人総出の盛大な見送りをされてしまった。

こうなってしまうと戻って来るのさすがにちょっと気まずいかも・・・。


空へと飛び立った後も歓声が止まず、荷台の女性達なんかは手を振ったりしていたが、やればやるほど戻りづらくなるからやめていただきたい。

くそぅ。こんなことならめんどくさがらずに戻ると言えばよかった。


「なんだか戻りづらくなってしまったな」


「ご主人様の御威光が分かっているいい村人達でした」


会話が成り立っているようで噛み合ってないオリヴィエは俺が称えられているのが凄く嬉しかったようで、自分のことのように喜んでいた。

まぁ彼女が喜ぶのなら何でもいいか。



それからククライツまで飛び、こちらは俺達のことを初見だったので滅茶苦茶驚かれ村人達に怯えられてしまったが、救出した女性達を見ると、その態度を一変させ、こちらでもとても感謝された。


歓喜に沸く村人達が歓待の宴をあげるとか言い出したので、俺は忙しいと嘘を吐き、荷車をストレージにしまってククライツを飛び立った。


「ここの住人もご主人様の凄さがよく分かっていましたね」


「旦那の噂がマサラ村まで届いているなら、トレイルとより近いこの村の住民が知らないはずもないさね」


今まで荷車を担いでいたので飛んでいる最中は会話しづらったが、搬送も終わって今はやっと荷車は無しの手ぶらになったので、大声を出さなくてもいいような近い距離をみんなで体を寄せるように飛び、話しながらの飛行が出来るようになった。


オリヴィエがユウキを背負ってはいるが、最近フライを使いまくっているのでそのコントロールもさらに上達し、人ひとり増えたくらいじゃもう速度は落ちたりしない。


あんまり速度を出し過ぎると怖がってしまうので、全力は出せないがね。それでもかなり速いけど。


「あんな感じよりも俺は普通に対応してくれた方がやりやすいんだけどなぁ」


ククライツやマサラ村の住人の反応を思い出しながら、少し愚痴っぽく言う。


「今後はああいった人達への対応もしなきゃいけなくなる時も来ると思っておいた方がいいさね」


うーむ、俺の人生において一方的に褒められるという経験が薄すぎて、あんな感じになられても困るだけなんだよなぁ。


「サトル君って、本当に何者なの・・・?」


「ご主人様は凄いお方です!」


オリヴィエの無条件賞賛にはもう慣れてきたけど、この先そういう扱いを他人からも受けた上で応対しなきゃいけなくなる時が来るというのは俺も何となくわかっているつもりだが、しなくていいならなるべくしたくないよね。そのうちボロが出そうだし。


まぁその時が今すぐ訪れるってわけでもなし、来るかどうかも分からないことを心配したってしょうがないから益の無いことは考えないことにして、とりあえずアンジュと合流してさっさと帰ろう。


すぐにでも家へ直行したいところだが、さすがにトレイルへ依頼達成の報告をしないといけないから寄り道しなくちゃいけないが、報告したらすぐ帰ろう。

のんびりしてたら日が暮れるし、子供達の飯も作らないといけないしな。


そんな直帰の誓いを心に決めながら飛行を続けていると、マサラ村に到着した。


「あ!兄ちゃん達がまた来た!」


老朽化の激しい国境時代の壁の上に居たカイトがまだ降下中の俺達をいち早く発見し、大声をあげている。

その声に反応した近くの村民達も俺達を見つけると、少しオロオロとした後、またみんなで平伏しはじめた。






俺達が地面に着地すると、その中の一人が顔をあげ、


「や、やっぱり使徒様に失礼を働いたオラを懲らしめに戻ってきたんですかぁ!?か、勘弁してほしいだ!オラ使徒様だなんて知らなかったんだぁ!」


ってか誰かと思ったらマサラ村の第一村人だった人じゃないか。


超絶おびえとるな。ここまでいくと少しおもろい。


ヘーイ!村民びびってる!ヘーイヘイヘイ!

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