第194話 搬送
「姉ちゃん!」
「カイト!?」
入口で待つようにウィドーさんとオリヴィエに言われていたらしいカイトが、救出した女性達の中から自分の姉を見つけ出し、大声をあげると、その声に反応した一人の女性がカイトを見て名前を呼ぶ。
どうやら最初の牢で助けた女性がカイトの姉だったようだ。
救出したことは事実だが、もう少し早ければ襲われる前に救出できたと思うと、すこしやるせない気持ちになる。
というのも、女性達の話によると、どうやら彼女達に対しての非道が行われはじめたのは昨日からだったらしい。
この盗賊団の首領であるデダントは、昨日の朝まで不在だったようで、盗賊団の掟で攫った女性に手をつけるのはデダントが最初というルールがあったようだ。
中には我慢できずに行為に及ぶ者もいたらしいが、そいつは帰ってきた時に殺されたようだ。捜索中に女性だけでなく、盗賊の死体もあったので、きっとそいつだろう。
二人はお互いの無事を噛み締めるように抱き合っていた。
少し救出が遅れたという思いはあったが、俺達は俺達が出来る最速ともいえるスピード感を持って今回の事態に対処した自負はあったので、そこを悔やんでも仕方ないし、命は救えたのだからよしとすべきだろう。
目に映る者や手の届く範囲で危機に陥っている人が居れば助けるが、俺の行動範囲じゃない場所で散りゆく命まで助けようなどという、己の分をわきまえないことまでするつもりはないし、出来るとも思わない。
俺は神じゃないからな。まぁ神でも出来るとは思わないが。
「テト村へは行ったことのあるアンジュが二人を抱えて運んでほしい」
感動の再会を尻目に、俺は救出した女性達を送還するための話を進める。
「了解だ」
「他の子達は・・・よい・・・しょっと、これに乗ってくれ」
俺はどこかの猫型ロボットのように異次元空間から荷車を取り出し、その荷台に指を差してポカンと口を開け、唖然としている女性達に指示を出す。
「あれ、どうしたんだ?」
みんな目がテンになってるよ。そんなに大口開けてると虫が入るぞ。
「旦那、普通の人は何もない所から荷車を出したりしないもんさ」
「あ、そっか」
最近使いまくっているから失念してたわ。そういやこれもとんでも能力だったよね。まぁ俺は特に正体を隠したりしてないし、これから普通の人では絶対に出来ない輸送方法でこの娘達を運ぼうとしているんだからどうせ超人扱いされるだろうしな。早いか遅いかだったら早い方がいいっていうだろ?
男は早いと自信を失うんだけどな。
ちなみにこの荷車はオルセンが俺の購入した食料を運んできてくれた時に持ってきたやつだ。
荷車を含めてすべて購入した俺がストレージにとりあえず入れといたものだな。
どこかの技術班長みたいに「こんなこともあろうかと」とか言いたかったが、これは本当にただとりあえず突っ込んでおいたものなので、その台詞は使えなかった。
「サ、サトル君って一体何者なの?」
「サトル君・・・?」
一緒に驚いていたユウキが発した呼び方に疑問を抱いたのはオリヴィエだった。
「そうだ、出発する前にみんなにも紹介しなくてはな。これから俺達と一緒に暮らすことになったユウキだ。仲良くしてやってくれ」
「よ、よろしくお願いします」
俺が紹介すると恥ずかしそうにペコリと頭を下げるユウキ。
「ご主人様の奴隷をやらせていただいているオリヴィエです」
「アンジュだ。よろしくな」
「アタイはウィドーさ。しかし・・・旦那は凄い勢いで女を増やしていくねぇ」
人聞きの悪いことを言わないでくれ。言っておくが、俺の方から積極的に人を増やしていこうと行動したことはないんだぞ。しいていうならばオリヴィエくらいか。
あれも動機は仲間にすることではなくて単純に助けたいと思ったからなんだけどな。
「え・・・この方たち全員がみんなサトル君の恋人なの?それともみんなお嫁さんとか?」
「こ、恋人・・・」
「お、おおお嫁さ・・・」
「・・・フフ、どうなんだい?旦那」
ユウキの質問にオリヴィエが頬を染め、アンジュが慌ててウィドーさんがニヤついて嫌味を言ってくる。
うーん、俺達の関係ってどういったものなんだろうなぁ。別に全員嫁って言ってもいいけど別に婚儀をおこなったわけでもないし、恋人とも少し違う気がする。みんな好きだけどね。
「・・・全員俺の大切な人だ」
「ふうぅ~~~~ん。サトル君って意外と浮気者なんだね」
女子高生にジト目を向けられるのは人生初だわ。俺男子校だったしな。
高校時代にバイト先で一緒だった一個下の子と付き合ったことはあったけど、会う時はバイトかお互いに休日の日しかなかったから制服姿なのは数回しか見たことなかったんだよなぁ。
あぁ、甘酸っぺえ青春時代を思い出してしまった。
ちなみにその彼女だと思っていた子はバイト先の店長と付き合っていて、俺の方が実は浮気相手だった。だから全然いい思い出なんかじゃないんだよね。
「俺は浮気なんかしないぞ。全員本気だからな」
「ご主人様・・・」
ウルウルした瞳でこっちを見てくるオリヴィエがとても可愛くて抱きしめたくなるが、今は我慢しておこう。凄い人数がこっちを見ているしな。
「ユウキに紹介しなきゃいけない人はまだいるし、今は搬送を進めよう。詳しい話は家に帰ってからしよう」
「・・・・・・まだ居るんだ」
そう呟くユウキのことは華麗にスルーし、俺達は女性達を村へ送っていく準備を進める。
まぁ準備と言っても荷台に乗ってもらうだけなので、すぐに終わった。
「それじゃ、俺達はマサラ村とククライツに彼女等を送ったら、もう一度マサラ村へ戻るから、アンジュとはそこで合流しよう」
北へ行ったところにあるテト村は、ここから南にあるトレイルまでに比べ、二倍以上の距離があるらしい。
マサラ村ではなくてククライツで待ち合わせしてもいいのだが、アンジュに一人で長い距離を移動させ続けるのも悪いと思って、俺達が一度北へ戻って合流をはやめようと思ったのだ。
合流場所も決めたので、俺達は搬送を開始する。
まずはアンジュが先に二人の女性を両脇に抱えて飛ぶと、また女性達が目がテン口ポカン状態となっていた。
「よし、俺達も行こうか」
そう言って俺が魔法をかけてから荷車の前に行こうとすると、
「あ、ご主人様。荷車を引くのは私がやります!」
と、力仕事は任せろと言わんばかりにオリヴィエが制止してきた。
「あー。この荷車は引かないぞ。こうするんだ」
俺は荷車の前に行ってしゃがみ、荷台の底を後ろ手で掴む。
「あー、なるほど。さすがご主人様です!それでは私がこっち側を持ちますので、ウィドーさんは反対側をお願いします」
「フゥ~、ほんと・・・気が付いたらアタイもこっち側に居るんだから・・・人生何があるかわかったもんじゃないさね」
一つ深い溜息を吐いた後に、苦笑いをしながらもオリヴィエの指示通りに荷台の右後ろへ行き、荷台の底を持つ。
何事かとざわざわし始める荷台の上の女性達だが、
「兄ちゃん達はスゲエんだぜ!」
と、自分の姉に俺達のことを賞賛するカイトだが、全員が彼のように空を楽しめるわけではない。
「いくぞ。せー・・・のっ!」
荷台が傾かないよう、俺の号令で全員同時に空へ飛び、三人が持つ荷台が浮き上がった際はやはり怯える小さな悲鳴が後方から複数上がった。
高度と速度を徐々に上げていく度にその声も多く、大きくなっていったのだが、しかしその中でただ一人、
「ひゃっほーーーーーーーい!!」
とはしゃぐカイトの声が良く響いていた。
ただ、彼の喜ぶ声は同乗者達の不安を和らげる効果があったようで、途中からはほとんどの女性達が空の旅を楽しみはじめていた。
散々怖い目にあってきたんだ。ここで少しでも楽しめるのならば、存分に堪能してほしいね。
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