第193話 選択
ユウキの話を詳しく聞きたかったが、とりあえず救出した人達の対応が先だ。
なので俺達はまず、捕まっていた女性達にどの村から連れてこられたなどの情報を聴取していったのだが、どうやら彼女達は全員がマサラ村の出身でなく、俺達が上空を通り過ぎたククライツの他、二人だけマサラ村からかなり北にあるテトという村からも誘拐されているということだった。
話を聞いた全員が自分の村に帰りたいということだったが、問題はどうやって村へ送り届けるか、だ。
普通ならばみんなで歩くしかないし、彼女達もその覚悟だったのだが、さすがにそんな面倒なことはしない・・・というかしたくない。俺達もなるべく早く家に帰りたいしな。
最初は一人一人背負ってフライで運ぼうかと思ったが、それだと時間も手間がかかりすぎる。
どうしようかと考えた俺は、超絶力業な方法を思いついたので、その策で一気に娘たちを送り届けることにしようと思う。
救出できた人数は総勢十二名。その内マサラ村出身は五人、ククライツ出身は四人、テト村の出身は二人だ。
そして残りの一人は・・・
「キミは・・・帰る場所はあるのか?」
俺がユウキにそう聞くと、彼女はフルフルと首を振った。
「そうか・・・オリヴィエ。服を出すからアンジュとウィドーさんと一緒に女性達に配ってきてくれないか?かなり汚れている子もいるから、お湯と桶も用意するから、拭うのを手伝ってやってくれ」
「はい、分かりました」
俺はストレージからオリヴィエ達や子供達用に買った服の中から彼女達が着れそうなものを人数分チョイスし、オリヴィエに渡した。
魔法で桶に適温のお湯もいくつか用意しておく。
オリヴィエは服と桶を受け取ると、すぐにテテテと他の二人の所へ行き、俺の指示をアンジュとウィドーさんにも伝え、みんなは早速手分けして女性達の世話をはじめてくれた。
それを様子を確認した俺は、ユウキの方へと体を向きなおす。
「・・・よかったらでいいが、キミがこの世界に来てからの話を簡単にでいいから聞かしてもらってもいいか?」
オリヴィエ達に仕事を頼んだのは、助け出した女性達がブランケット一枚のままでは可哀想だということもあったが、ユウキが話しやすい状況を作るという目的でもあった。
異世界から来たことを彼女達は知っているから俺としては問題ないのだが、もしかしたらユウキはそのことをこの世界の人に隠しているかもしれないしな。
俺はあんまりそういう気持ちは分からないのだが、理解出来ないわけでもない。
普通は頭のおかしいやつと思われるだけで信じてもらえないだろうしな。
俺はボーナススキルで普通の人が出来ないことを実行出来たからオリヴィエ達も結構すんなり受け入れてくれたが、そういった力を持っていない者が異世界から来たと言ったところで信じるやつはいないだろう。
「・・・はい。私は・・・」
俺の要求に少し考えてから頷き、語り始めたユウキのこれまでの経緯は、俺とは違ってかなりツラいものだったようだ。
この世界に来たきっかけは俺の時と似てはいるが、パソコンではなくスマホの広告だったようだ。
違いはそこだけでなく、俺が体験した「ゲームの世界」も彼女には体験していないらしく、キャラ設定をしてタップしたらすぐにこの世界に来たらしい。
ボーナススキルをもらうためのポイントも、15しか無かったとのことだった。俺の時は100だったのに・・・何でなんだろう。
鑑定で彼女が持つボーナススキルは「マルチジョブ(4th)」のみだった。
職業欄はあるのに、「なし」となっているのは、PT設定変更を持っていないのと・・・たぶんあれだな。
俺が最初キャラ設定をやった時、ボーナススキルでマルチジョブを取った後に「次へ」を押さず、一旦「前へ」を押して画面を戻し、マルチジョブ分の職業を選択した。
きっとそれをやらないまま進むと、ユウキのようにマルチジョブ分の職業が「なし」になってしまうのだろう。
ゲームの仕様としては完全に設計ミスなのだが、あれを作ったのが誰かと考えると、ちょっとクレームも出しづらい。なんか逆ギレされそうな気がする。
そんな仕様のせいで、彼女はせっかくのマルチジョブをいわゆる死にスキル状態となったまま、今日までこの世界でやってきたのだから、そら苦労するよな・・・。
彼女はこの世界に来てすぐ、俺と同じようにゴブリンに襲われ、そばにあった剣も持たずに全力で逃げたらしい。
そしてなんとか村に辿り着いたはいいが、金も何もない状態の彼女を受け入れる余裕が無いと村の人に言われてしまい、たまたまその村にいた奴隷商人と契約して仕事をするために他の村へ移動中、魔物に襲われて死にかけ、たまたま通りかかった冒険者に助けられたということだ。
運がいいのか悪いのか・・・。
一緒に移動していた他の奴隷は死んでしまったらしいからよかったのかもしれないが、その後に今日討伐したこのデダント盗賊団に捕まってしまったのだから・・・なんとも。
盗賊団に捕まったのは、助けられた冒険者達に誘われて一緒に活動していたある日に、そのパーティーが魔物との戦いで全滅してしまいそうな中、パーティーメンバーがユウキを逃がす為に川へ突き飛ばし、その場は逃れられたのだが、岸にあがった所を盗賊に見つかったという・・・悲惨に悲惨を重ねたようなそんなことある?を地でいくような嘘のような本当の話だった。
「私・・・これからどうしたら・・・」
盗賊からは助けられたものの、彼女がこの厳しい世界でやっと得た拠り所と、一緒に過ごしてきた仲間達も居なくなってしまったというのだから、さぞかしつらいことだろう・・・。
ふむ。まぁしょうがないよね。俺もこうするしかないと思ってるし、彼女を助けた時からこうなるんじゃないかとも思ってた。
「・・・俺がキミに用意できる選択肢は二つだ」
「え?」
「一つはこのまま一人で生きていく道、もう一つは俺についてくる道だ」
「アナタに・・・?」
「俺についてくるならば、全力で守ってやるし、キミが自分で自分を守れる力も授けてやれる。だが、一人で生きていく道を選んでも、今よりはかなり楽になるとは思うぞ」
彼女にはマルチジョブがあるからな。
一回俺のPTに入ってくれさえすれば、なしの職業に何かをつけてやれる。一人の道を選んだとしても戦闘職を取得するくらいの手伝いはしてやるつもりだしな。
だが、俺も分かっている。
これが実質一択だということを。
「ズルいですよ・・・そんなの・・・」
彼女の言う通りだが、これは彼女の為でもあるし、同じ世界から来た人を見捨てるのも夢見が悪いしな。助かりたい意志があるのなら助けたい。
一応他の選択肢も提示してるわけだし、もし俺についてこないということを選んだとしても彼女の選択は尊重するつもりだ。
「分かりました。アナタに・・・サトル君についていきます」
女子高生にサトル君って言われちゃった。
まぁ俺も見た目は彼女と同い年だからおかしくはないが、精神年齢四十越えには何かクルものがある。なんだろう、この感じ。ゾワゾワする。
「そうか・・・分かった。約束しよう。これからはキミが笑顔で過ごせるように努力するよ」
「フフ。ちょっとカッコつけすぎじゃないですか?」
「イケメンじゃなくて悪かったな」
こうしてウチにまた一人、女性が増えることとなった。
オリヴィエ達にも後で説明しなきゃいけないが、たぶん彼女達はすんなり受け入れてくれると思う。
今まで反対されたこともないしな。
いつかオリヴィエ達がNOという日も来るのだろうか?
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