第192話 ユウキ

声がしたこの部屋で最後の一つとなる牢へ行くと、そこには・・・


「じょ、女子高生!?」


どこからどう見ても高校の制服を着た女の子が部屋の隅で震えていた。


胸ポケットに校章と思われるワッペンがついたブレザータイプの上着とワイシャツにミニスカートを履いたその女の子は、俺が牢の前に立つと、こっちを見てはいるのだが、どうも少し様子がおかしい。


こちらを向く視線の方向も少しおかしいし、焦点もあっていないため、こっちを見ているようで見ていない感じがする。


「え?・・・何?もしかして・・・助けじゃないの・・・?」


よく見ると、彼女の耳から血が垂れた跡がかすかに残っている。

たぶん鼓膜が破れてしまって音が聞き取りづらいのだろう。

鼓膜は破れても完全に聴力を失うという事でもないし、また再生する組織ではあるが、治療もせずに放置しているような今の状況だと後遺症を残してしまうかもしれない。詳しくはないけど、こんな不衛生な場所に居ること自体よくないだろうことは素人にだって分かる。


だが、なんでこの世界に女子高生が居るんだ?

もしかして俺のように・・・いや、俺は元の世界の服装なんて着てなかったし、俺とは全然違うか・・・。そもそもなんか知らんけど若返ってるしな、俺。


それともこの世界にも日本の高校の制服に酷似した民族衣装でもあるのだろうか?

うーん・・・ちょっとそれはさすがに考えづらいから、やっぱり・・・。


「キミも日本から来たのか?」


「ひっ!いや・・・!こないで!」


異世界転移してきたのか聞きたかったが、やはり今のままでは意思の疎通がとりづらいな。


「ヒール」


鼓膜はリカバリーかと思ったが、元々自力で再生する組織なんだったらヒールでいいのではと思って試しに使ってみると、色を失ったかのように瞳孔が開きっぱなしだった瞳もしっかりとこちらを認識できるようになったようだ。


「え?え?目が・・・」


「どうだ?これで声もちゃんと聞こえるか?」


「聞こえる!どうして・・・?」


しっかりと俺の事を捕らえた瞳でまっすぐこっちを見つめ、俺の声も彼女の耳に正確に届いたようだ。


「回復魔法を使ったんだ。まだどこか痛むところとかあるか?」


「魔法!?この世界にもあったの!?」


女子高生は俺の質問にも答えず、魔法という言葉に食いついた。

しかし・・・この世界・・・か。


「キミ・・・名前は?」


「私は千石・・・いえ、ユウキ センゴクって言います」


センゴクユウキか・・・最初に名字を先に言おうとしたし、名前も完全に日本のものだからやっぱり彼女は異世界転移してきたということで間違いないだろう。


・・・もしかしてこの世界って俺みたいなチート持ちが結構いるのかな?

だとしたら他称だとしても使徒と認めたのはまずかったかな?もし俺と同じようなボーナススキルを持った人間が他にも居たら・・・ん?その時はそいつも使徒ってことにすればいいのか?でも・・・。


彼女を鑑定しても・・・ん?これは・・・なるほどね。


まぁそんなことを今考えてもしょうがないか。

たしかにこの子のことは気がかりだが、他にも助けなきゃいけない捕まっている人が居るかもしれないしな。


気になることだらけだが、後にしよう。


「俺達は領主の依頼でここの討伐を依頼された冒険者だ。まだ盗賊共が残っているかもしれないから俺は他を見てくる。オリヴィエに残ってもらうから、彼女から離れるな。キミたちも・・・いいね?」


「あ・・・はい」


女子高生と先程救出した二人にそう告げると、全員が素直に従ってくれた。


「それじゃオリヴィエ。彼女達を頼む」


「了解です」


俺の指示を自信たっぷりに受領するオリヴィエ。

彼女に任せておけば天変地異がおきても何とかしてくれそうだから心強い。ここの防衛はオリヴィエ一人いるだけで下手な街よりも強固まである。


その後は他の牢で狼藉中の盗賊を駆逐しつつ、新たに十四人もの女性を発見しウィドーさんと手分けして治療を行っていったが、そのうちの五人は既に手遅れだった。

状態から見るに、突入が遅れたからとかいう次元のものではなかったが、やはり助けられなかったという事実はやるせない気持ちになる。


だが、二人目に助けた女性のように、かなり酷い状態であっても、ヒールとサナトリウム、リカバリーのコンボはやはり凄い効果で、わずかでも息があるなら治療することが可能だった。


「俺も・・・俺の腕も治してくれぇ!んぐ・・・んんー!!」


デダントは両腕を切り落とした状態のまま回復し、うるさかったので猿ぐつわをして強制的に黙らせ、傷も全回復してしまったので、とりあえず太腿を一刺しする。ちょっとグリグリもしておこう。


「ん゛ん゛ん゛~~~~~!!」


こいつは捕まった後にも正式な罰が下されるはずだが、こいつのやったことを考えればそれにいくら追加しても足りない位だと思っているから、いくら痛めつけても心は痛まない。この場の誰も止めないしな。


「サトル、この洞窟内をくまなく捜索して見たが、どうやらこれ以上の盗賊も捕らえられている者も居ないようだ」


「そうか、ありがとうアンジュ」


このアジト内に見落としがないか見回ってくれていたアンジュが報告に戻ってきた。

もしかしたらこの拠点にいない盗賊団の一味がいるかもしれないが、とりあえずここにいるやつらは全て討伐出来たようだ。

連れ去られた人もすべて救出した。俺達に出来る事はすべてやっただろう。


「よし、それじゃ・・・」


「あ、あの・・・!」


「ん?」


俺が撤収を呼びかけようとした時、例の女子高生が話しかけてきた。

タイミングからして機会を窺っていたように感じたから、ここでの俺達の仕事が一段落つくのを待っていたのかもしれない。


「ごめんなさい・・・間違っていたら忘れてほしいのだけれど・・・」


「日本から来たか・・・ってことか?」


「・・・!?やっぱり!!」


まぁさっきからアンジュが俺の名前を呼んでいるし、顔もこの世界ではあまり見ないまんま日本人だからな。この世界にも大和っていう国があるからこの地方という方が正しいかもしれないけど、俺はまだ大和に行ったことないし大和の人にもあったことないからな。

知らないってのは俺にとっては無いのと一緒なのでそんなことを正確にする必要もないだろう。


「キミとは少し違うかもしれないが、たぶんキミと同じような場所から来たという事は間違いないと思うぞ」


もしかしたら俺と違う世界のパラレルワールドからってことも考えられるけど、彼女の制服を見るにそれでも似たような世界の日本なのだろうとは思うし、異世界に来たという共通点は変わらないからな。同じといってもいいだろう。


ただ、彼女の鑑定結果を鑑みると、少し俺と状況が違うんだよな。

俺はもう一度彼女に鑑定を使ってステータスを確認してみる。



  名前

   センゴク ユウキ(奴隷)


  性別

   女


  年齢

   17


  種族

   人族


  職業

   剣士 Lv 2

   なし

   なし

   なし


  ボーナススキル

   マルチジョブ(4th)


  所有者 カデナ



何故か奴隷になっているというのとか、マルチジョブのボーナススキルがあるのに剣士以外の職業がなしになっているのは何でなんだろう。


たぶんそのせいで彼女はこんな窮地に陥っているといっても過言ではないかもしれない。

だけどマルチジョブだけあっても俺のように経験値倍増もないからあってもレベルを上げるのは大変そうだな・・・。


他のボーナススキルもないし・・・ってあれ?

もしかして、職業がないのってPT設定変更がないから変更出来ないのか?

クイルって第一職業しか表示されないから、変更もそこしか出来ないってことも考えられるな。


そもそも鑑定がないから自分のステータスが確認出来なくてマルチジョブがあることも職業欄になしというものがあるのすら気が付いてない恐れもあるな。


ってことはこの子はこの世界に来てからチートなしで今まで過ごしていたということになる。

レベルも1上がっているから魔物もかなり討伐したのだろう。


たしか俺がレベル2になったのはゴブリンを4~5匹倒してからだったと思う。だがそれはあくまで経験値が20倍された状態なので、彼女は少なくともゴブリン80匹以上分の経験値を取得した計算になる。






・・・改めて俺が得ていた恩恵は物凄くありがたいものだったのだと実感するな。

もし俺が彼女と同じ状況だったら、オリヴィエを助けるどころか、ファストに辿り着く前に死んでいた可能性の方が高いように感じる。


しかし・・・なんで同じ世界から来たのにこんなにも差があるのだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る