第189話 北西へ

「一応確認したいのですが、村の護衛などではなく、本当にデダントの討伐を行うのですか?」


「そうだ」


村長は口にしなかったが、たった四人で、という言葉を頭につけたかったのだろうな。

デダントという盗賊団が何名で構成されているのかは知らないが、恐らく普通は四人プラス一匹で対処するような相手では無いはずだ。


カルロは俺達の実力を知っているからそれでも問題ないと分かっているから依頼を出したのだろうけど、それを知らない村人側からしたらそんな人数で何をしに来たのだと思ってしまうのは当然だろう。


「はぁ・・・そうですか・・・」


「盗賊団の拠点について何か知っていることはないか?」


俺達がいくら口で大丈夫だと言っても信じてもらえるはずもないので、話を先に進めることを促す。俺もさっさと片付けて帰りたいしな。


「残念ながら・・・私共には捜索する力も余裕もありませんので・・・」


「まぁそうだよな・・・。詳しそうな人に心当たりとかも無いのか?」


俺がそう訊ねても村長は首を振るばかりでそれ以上の新しい情報は得られなかった。

それならもうここに居てもしょうがないな。


「そうか、ありがとう。後はこっちで・・・」


「オレ知ってます!!」


村長宅の扉が突然勢いよく開き、外から赤髪の少年が叫ぶような声を発しながら入ってきた。


「カイト!?」


村長にカイトと呼ばれた少年は扉付近に立ち、真剣な表情でこちらを見ている。

歳は鑑定によると12歳で、見るからにわんぱくそうな釣り目に綺麗な鼻筋をしているので、成長したらかなりのイケメンになりそうな雰囲気がバリバリ出ている。羨ましき未来ある子。まぁ俺も17歳らしいんだけどね。


「キミは盗賊団の情報を何か知っているのか?」


「・・・あいつらが帰っていった場所を知ってる」


「なっ!?」


おお、ちゃんと情報を持っている人が居るじゃないか。


「何故少年がそんなことを知っているんだ?」


アンジュの言う通り、たしかにそうだな。村長もビックリしているということは彼も知らなかったんだろうし、どうしてこの少年がそんな情報を持っているんだろう。


「オレは一昨日この村に来て姉ちゃんをさらっていったあいつらの後を追ったんだ」


一昨日て・・・随分ホットだな。

あー、だから入口の村人もあんなに怯えてたんだな。お前等また来たのかと。来たばっかじゃないかと。


その際にこの子の姉が盗賊共にさらわれちゃったのか。

カイトと呼ばれた少年は俯きながら悔しそうに顔を歪めながらも話を続けた。


「あいつらは山の北側にある洞窟を拠点にしている。見張りが居たから中まで入れなかったけど・・・」


中まで入るのはさすがに危なすぎるだろ。引き返して正解だ。そのおかげで有益な情報も得られたしな。


「その場所って口頭で伝えられるか?」


「・・・難しいと思う。ここから北西に行った場所にある道も何もない森の奥だし、山沿いに歩いても見つかりづらい小さい山道の先にあったから・・・」


なるほどね、それならその道が見つからない限りは山沿いを捜索しても見つからないってことか。

その道って言うのも恐らくはそれとわからないように偽装しているはずだし、拠点で使っているような洞穴ばかりを探していると、そういった別ルートは意識の外にはじかれて発見しにくいものになるのかもしれない。


「そうか・・・ならそこまで案内してもらうことは出来るか?」


「もちろんだ!村からの方角もバッチリ覚えてるぞ!」


素晴らしい。村長の反応を見て自力で探すことも覚悟しなきゃいけないかと思ったが、この少年のおかげで盗賊団の拠点を捜索する手間は省けそうだ。


「よし、じゃあ一緒に行こう。誘拐されている人がいるのならすぐにでも出発した方がいいよな?」


「ああ!頼む!姉ちゃんが掴まってるんだ!」


俺が案内を頼むと、少年はそれを待ってましたとばかりに返答してきた。

普通ならこんな少人数でどうにかなるはずもないのはこの子も分かっているのだろうが、今は身内が捕まっている状況なのだ。藁をも掴む思いなのだろうな。


俺がそんなカイトを連れ、盗賊団の拠点捜索に出発するために外へ向かおうとすると、


「お待ちください!本当にそんな人数で討伐に向かうのですか!?下手に刺激したら捕まっている者達の身が危ないのでは!?」


と、村長が俺達の行動に異を唱える。

たしかに村長の意見も分からなくはない。通常の思考回路だとも思うが、今は彼に俺達の実力を見せたりして納得してもらうことにあまり意味はない。

そんなことをしている時間があるならさっさと解決して結果で示した方がはやいしな。


だから申し訳ないが今は「大丈夫だ」というなんの説得力も無い台詞でスルーさせてもらう。

今はあなたの心労よりも救出を優先させていただきます。

ウィドーさんは優しいから「安心していいさね」と声をかけてあげているが、やはりそんな根拠のない言葉だけでは納得できず、まだ抗議している。


村長視点ではただ無策で突っ込む無謀な若者達にしか映ってないだろうからしょうがない。彼にしてみれば一昨日に襲撃を受けたばかりのやつらに再び報復されかねない行為だし、村民である少年もむざむざ殺されに連れていかれているって場面だしな。説得しようとすれば、それなりの時間も手間もかかるだろう。だからこそこそ俺はそれを諦めて一言でかたづけたんだしな。


「よし・・・キミはカイトと言ったな。しっかり掴まっていろよ」


村長の制止を半ば無視して外へ出て、カイトの襟首を掴んで持ち上げ、俺の背に乗せる。


「えっ・・・?え?」


困惑するカイトも抗議を続ける村長も無視し、俺はフライの魔法を使ってこの場を飛び立つ。


「「ええええぇぇぇぇぇーーーー!?」」


背中と足元から同時に驚きの声があがる。

俺の首はカイトの腕で強く締められて少し苦しかったが、少年の力でどうにかなるほど低いレベルではないから問題は無い。


村長の声は高度を上げる毎にどんどん遠ざかっていく、とりあえず急に空を飛んで少年も怖がっているだろうし、少し慣らしてから案内をしてもらうとするか。


「いきなり飛んですまんな。怖いだろうがなんとか・・・」

「すげえええぇぇぇーーーーーーー!!!!」


俺が彼の身を案じて声をかけている最中にカイトは俺の両肩に手を置いて身を乗り出し、恐怖ではなく、感動の声をあげた。


こいつ・・・中々に肝が据わっているな。

でもそんな姿勢でいたら落ちちゃいそうだからやめなさい。


「あぶないぞ、ちゃんと掴まっていろ」


俺は彼の胆力につい笑ってしまったが、このままでは本当に危険なのでカイトに注意した。

それを聞いたカイトも素直に俺の背に戻り、自分の体をしっかりと固定する。


「すげぇすげぇ!飛んでるぞ!兄ちゃん達は何物なんだ!?」


「今はそんなことよりキミの姉ちゃんを助けることの方が先なんじゃないか?」


別にどこかの組織に属しているわけでもないから何者だとか言われても答えに困るしな。使徒は他称なので、自分からは言いたくないしね。

あんまり堂々と公言し続けるとなんか本物から怒られそうな気もするし・・・。ありそうで怖いよな、こんな世界だと。


「そうだった!すまない!」


素直でとてもよろしい。


「盗賊団のアジトは北西って言ったたから方向はこっちで合ってるよな?」


俺達はトレイルからほぼ真っ直ぐに北へ飛んできたから、北西は俺達が入ってきた門から見て左手奥側のはずだ。


「うん、大丈夫。このまま真っ直ぐ飛んで!」


前のめりになりすぎて、もう後ろというより俺の顔の横に顔を並べているカイト。近い。あと、ちょっとうるさい。

まぁでも怖がり過ぎて案内が困難になるよりはいいか。






俺達はカイトの案内でデダント盗賊団のアジトへと向かった。

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