第186話 相

「お願い?」


退席しようとした俺を引き留めるようにかけられたことばに疑問を投げ返す。

何だろう。金はあるけど貴族に貸すほどには無いぞ。そもそもウチの全財産はキミから貰った報酬分くらいなもんだ。

そろそろダンジョンアイテムとか売りにいかんとな。


「本来は私の指揮で行うはずだったある大規模盗賊団の討伐作戦が、何故か突然忙しくなったせいで行うことが困難となりました」


だから「何故か」の部分を強調しないでくれ。スマンて。


「既にかなりの被害が周辺の村々で出てしまっています。そこで、申し訳ないのですが私からの直接指名という形でギルドに依頼を出しますので、それを受けて頂きたく・・・」


うん。要するに、「お前のせいで本来行えなくなった討伐が出来なくなったんだからてめーが解決しろよ」ってことね。

めんどくさいという気持ちもあるけど、それより今は申し訳ないという気持ちの方がさすがに強い。被害も出ちゃってるってことなら余計にな。


「・・・分かった。俺達でサクッとやっつけてくるよ」


「おお、それはありがとうございます」


こいつめ、言葉と表情が全然合致していないぞ。当然だって顔しやがってぇ。まぁ今回はほぼ俺のせいではあるから別にいいけど。


「それで・・・そいつらはこの辺で活動しているのか?」


「いえ、デダント盗賊団は現在、北のグレイグ渓谷を中心に活動していると報告があり、拠点もその周辺にあるのではないかと推測されています。活動地域をまばらにしてわかりにくくしている」


「デダントだと?・・・あいつらはそんなに大きな盗賊団ではなかったはずだぞ」


さすが盗賊団キラーアンジュ。詳しいな。


「やつらはガンダー盗賊団の壊滅をうけ、その残党を吸収して一気に規模と活動範囲が拡大したんだ」


ん?ガンダー盗賊団ってなんか聞いたことあるような・・・。なんだっけ?


「なんかどっかで聞いたことのある名前だな」


「・・・私が壊滅させた盗賊団だ」


ああー。アンジュが一人ゲリラで恐怖に陥れた挙句、その場の全員を皆殺しにしたっていう・・・あらためて言葉にするとめっちゃこえーな。


「盗賊団とはそういうものだ。やつらは一つ壊滅させてもどこかのろくでもない組織にまた群がり、活動を再開する。だが、だからといって放置するわけにはいかない。それが領主としての務めだからな」


この世界の仕組み的に職業落ちとなってしまった者達は社会復帰が非常に厳しそうだからな。そう考えると、ココがそんなことになる前に救えてほんとに良かった。あの子がそう言った場所に居るなんて、今は想像すらしたくない。


「そしたら俺達はこの後ギルドに行って依頼を受注してきたらいいか?」


盗賊団がどれほどの規模なのかは分からないが、ドラゴンも倒してしまう今の俺達が人種に手こずるなど考えられないからな。やるならさっさとやってしまおう。


「まだ私が依頼をしていないので・・・一番早いのは一緒にギルドへ行けば・・・」


「よし、行こう」


「え?・・・一体何を・・・」


俺は席から立ち上がってフライの魔法を全員にかける。みんなも俺の意図を理解し、次々に席から立ち上がってカルロを小脇に抱えて部屋の窓を開け、桟に足をかける。


「ちょ・・・ま、待て!まさか・・・」


脇腹付近からの制止は無視し、そのまま飛び立つ。


「ぬおおおおぉぉぉーーーー!!」


カルロみたいなタイプの男でもやっぱり最初はこんな感じになるんだな。でも、おっさんの野太い悲鳴は聞き苦しいから黙ってどうぞ。


俺達は前に訪れたダスティンがマスターを務めているトレイルの冒険者ギルドへ向かって飛行する。

トレイルは規模も大きく建物の様式も似通っているので、一見特定の建物を探すのは大変なように感じるが、街には動脈のように太い道が東西南北に真っ直ぐ走っていて、冒険者ギルドはその道沿いにある上、他の建物と違って特徴のある造形をしているので、空から発見するのは割と容易だろう。


思った通り冒険者ギルドはすぐに俺の目にとまり、その正面入り口に降り立つ。

その時に目撃された住民には驚かれたが、その正体が俺だとわかるとみな一様に何かを納得して騒がずいてくれた。

カルロの統治が良いのか知らんが、ここの住人はみんないい性格をしている気がする。いいというのは皮肉ではなくそのままの意味だぞ。カルロは前者寄りだがな。


今回ギルドに来るのにフライを使ったのも、早く用事を済ませたかったってのが一番だけど、さっきちょっと俺に嫌味っぽい事を言ってきたことに対する俺からのささやかな反撃だ。

戦闘慣れしているやつでもいきなり空に連れていくとどうなるかはラルフ君で実証済みだったからな。それを今回もやってやったわ。


「おっし、着いたぞ」


片腕で抱えていたカルロを解放して地に足を着かせるが、よく見てみると少し膝がプルプルしていた。最後の降下時にスピードを上げてやったのが効いたかな?ぷくくぅー。


「サ、サトル殿・・・このようなことは事前に断りを入れていただけると・・・」


「ああ、スマンな今回は依頼内容的に早い方がいいと思ってな」


さっきやられた台詞の一部をわざと強調させるということを全く同じ言葉でやり返してやった。

カルロが少し睨んできたが、まぁこのくらいはお茶目の範疇だろう。ただの平民が貴族にやったら無礼討ものだが、俺は他称使徒様なのでこんなことをしても大丈夫なのだ。がははー。


「・・・ではご要望通り、早急にギルドに依頼を出しますので、可及的速やかに解決して頂けることを願っております」


そう言って、カルロは足早にギルドの中へと入っていく。


こいつめぇ・・・俺の言葉尻を捕らえて上手く自分の利に変えるとは・・・やるじゃないか。これで俺達はすぐにこの依頼に取り掛からなくてはならなくなってしまった。ちくそう。


「フフフ、一本取られたな」


「さすがは男爵位という身ながらにこのトレイルという要所を任される領主様ですね」


「私はご主人様も負けてなかったと思います!」


「いや、どう考えても今回は旦那よりもあのお貴族様の方が上手だったさ・・・」


「あるじ、まけた?」


オリヴィエの不平等判定が逆にツラい。この場面は他の女性陣のようにハッキリ言ってくれた方が、ダメージは少ないと思うぞ。


ま、まぁこんなものは冗談の言い合いみたいなもんだ。お互いに本気で憎み合っているわけでもないし、そんなに気にしてなんか・・・ないんだからねっ!

少しだけ目尻に浮かんだ水分を悟られないように俺はカルロに続いてみんなより先にギルドへと入る。


この街の領主であるカルロが先に入ったということもあるだろうが、俺達はここでもすぐに注目を集めてしまったが、特に声をかけられるということもなかった。

どちらかというとなんかキラキラとした目で見つめられた気がしたが、むさ苦しさ抜群のメンズどもが大多数だったので、全く嬉しくはない。むしろやめていただきたいくらいだ。


その後の手続きは、もはやただギルド員が見守る中でさっきの討伐依頼の話を繰り返しただけなので、すんなりと手続きは終了した。

依頼者と受注者が同じ場所にいるからな。こんなもんだろう。






「それでは、カルロ様からの指名依頼をサトル様が受領したということを確認いたしました」


受付嬢の女性が手続き完了を知らせた後、少しの沈黙後に唇を少し結び、


「・・・デダント盗賊団は犯罪集団の中でも特に凶悪な行為に及ぶ者達です。今までは規模も小さくその被害も限定的なものでしたが、今回はその勢力を大きく伸ばし、かなりの凶行に及んでいるようです。どうか、被害地域の方々のため・・・よろしくお願いいたします」


と、彼女からも盗賊団の討伐をお願いされてしまった。

おそらくこういった組織に居ると、被害状況など色々なものを見聞きするのだろう。知っていてもそれに対処できない歯痒さが彼女にあったのかもしれない。


受付嬢の言葉を受け取った俺達はその想いも背負い、今回の依頼を完遂すべく、ギルドを出た。

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