第184話 家具屋

「サトル殿」


「うわぁ!びっくりしたぁ!」


秘密基地作りをした翌日、午前の第三回ブートキャンプで子供達のレベルを10まで上げて切り上げてきた。

10もあればさすがに日常の脅威は自分達で払えるだろうし、とりあえずはこの辺でレベル上げは止めてもいいかもね。あんまり力をつけさせすぎても良くない気がするしな。


そして今は秘密基地用のベッドを買いにトレイルまで来たのだが、家具屋に入った途端、突然後ろから名前を呼ばれたのだ。


後ろを振り返ると、そこにはなんとトレイルの領主で男爵のカルロがいた。

何で貴族のお前がこんなところに・・・と思ったが、そういえば西門から街へ入る手続きをしている時、周りがやたらと騒々しかったのは、そういうことなのかな?


トレイルには俺の素性がバレバレなので、そうなっても仕方ないかなと思っていたが、まさか領主に報告まで走るとは思わなんだ。


「なんだ、カルロか・・・どうしてお前がここに?」


「どうして・・・?」


あれ、この雰囲気・・・もしかしておこですか?プンプン丸なのかな?

カルロの目が少し怖い。口元も笑っているが、少し引き攣っているようにもみえるな。


「こちらから理由を言わねばなりませんか?」


「あ・・・い、いや・・・はい、言わなくて大丈夫です」


威厳のある男が静かに怒ると怖いね。圧がヤバいわ。漏れちゃいそう。

カルロがこの状態になっているのはやはりグラウデンで子爵を強制排除し、その後処理を全部まるっと余すことなく一言だけで押し付けた件・・・だろうな。いやぁ、自分でやったとこだけど、言葉にするとかなりエグイな。


それでも俺には出来ないし、やってもらわなきゃ困るからお願いするしかないんだけどね。


「それでは、その件の事に関連して伝えたいこともありますので、ご用事が済みましたら一度、領主館の方へお越しいただけると助かります」


言葉は丁寧でこちらの行動を尊重し、配慮しているような文言を使っているが、目の前の彼が見せる圧力は全然そんなことはなくて、口では要請の言葉を使っても、俺には「押し付けたんだから来ないと許さんぞ、絶対に来い」とハッキリ聞こえた。


「わ、わかった。ここでの買い物が終わったらすぐに向かうよ」


「・・・お待ちしております」


これがあの宇宙でロボット戦争している新人類達が感じているプレッシャーってやつか。俺のおでこの前に白い効果線が走って金属同士を擦り合わせたような効果音が鳴っているかもしれん。


カルロは俺に小さく会釈をすると、踵を返してこの場から立ち去った。


「・・・完全に怒ってたな、あれは」


「まぁあれだけのことを一言で押し付けたからな」


「ああなる気持ちも分かってしまいますね・・・」


アンジュとミーナもやはりカルロの圧は感じていたようだ。・・・まぁあれだけ分かりやすく前面にだしていたらな・・・。きっとカルロも隠すつもりはなかったのだろう。


「とりあえず目的の物を購入したらすぐに領主館に行こうか」


頷くオリヴィエ達と一緒に俺達はとりあえず気持ちを切り替え、この西門の門番に教えてもらった大きな家具店でベッドを見繕うことにした。


この店はファストの雑貨屋とは違って家具の専門店で、規模も全然違うので、多種多様な品揃えがあるが、店舗にある物は基本的にサンプルのようで、ここで注文したものを後日搬送してくれるというシステムらしい。


まぁ規模が大きいといっても前の世界のお値段以上を謳っている店や親子で喧嘩していたあの店などが展開しているようなもの程のものではなく、せいぜい

街の小型スーパー位の店舗なので、


秘密基地の寝室は部屋の半分以上をベッドで覆う予定なのだが、全体の間取りは決めているけどまだ部屋同士を隔てる壁は作っていないので、多少大きくても小さくても作る壁の位置を変更すればいいだけだからそんなに気にしなくても大丈夫だ。


なるべくフラットにしたいから高さは気にした方がいいかなとも思ったが、よく考えたらそれもベッドの足を切って調節すればどうとでもなることなので、パッと見て今秘密基地に設置してあるやつと似たような物であればいいので同じような物を選んで買った。

どのベッドもヘッドボードが付いているが、これも設置する時に切ってしまえばいいだろう。木材の加工はもうお手の物だしな。


ベッドを選んで店員にこれを20個と伝えた時はビックリされたが、俺の正体を知っているこの街の住人は変に何かを納得した様子で特に質問などをすることもなく注文を受けてくれた。どういう解釈をしているのか気になるが、わざわざ聞くことでもないしな。


秘密基地で20個全部は使わないけど、ストレージに入れとけば便利なものの一つではあるので余分に購入した。こんなんいくらってもいいですからねを地でいけるストレージは凄いよな。便利すぎ。


ついでに他にも食器棚やクローゼットなどを買い、俺のストックに加えておく。

もう少し丁寧に店の中を見て回りたい気持ちもあったが、さすがにあの状態のカルロを待たせるもの悪いので、この辺にしておこう。

現物は後で搬送すると言われたが、在庫は別の場所にある倉庫へ行けばあるということだったので、後で取りに行くと伝えた。


家具屋での買い物を切り上げ、その足で領主館へと向かう。

ここから領主館までは遠くはなく、歩いて十分程の場所にあるのでわざわざ飛ぶ必要もない。

俺のことが知れ渡ってしまっているこの街だとしてもむやみやたらに驚かせてもね。俺だって自重するときはするのだ。


「あ、しとさまだ!」


「コラ!あ・・・申し訳ございません、この子にはきつく・・・」


手を繋いで歩いていた通りすがりの親子の子供が俺の事を指差して嬉しそうに声をかけてきたが、俺が使徒ということを秘密にしたがっているということを知っているだろう親がそれを見咎め、俺に謝ってきた。


「いや、大丈夫だぞ。ほら、君にはこれをやろう。熱いから気をつけろよ」


「わぁ~!ありがとう!!」


親に怒られてしょぼんとしていた子供にストレージから今朝食べ歩き用にと密かに作ったソース付け済み串揚げ(豚)をあげると、嬉しそうにしてそれを受け取った。親の方にも一つあげる。


「あるじ!なにそれ!?」


「お、ココも食べるか?あ・・・みんなも一個づつどうぞ」


親子に渡した串を見た俺と手を繋いでいるココがそれを見逃さずに声をあげてきたので、彼女にも同じものを渡したのだが、後ろからついて来ている他のメンバーも羨ましそうな目を向けてきたので、結局全員に配ることになった。


俺も自分の分を取り出し、三連になっている揚げ豚肉の一番上を串から口に咥えてこしとった。うん、上手い。

ソースもつけたばかりの物をすぐストレージに入れたから揚げたてサクサクだ。


俺の食べ方を見たみんながそれを真似をして同じ食べ方で食べ始めた。


「はふはふはふっ。・・・んふぅ」


「おいひいれふぅ~~!」


「細い木の棒に刺さっているからこうして手で持って食べられるのか・・・」


「これはオルセンに知られたらまた食いついてきそうだね」


「なんと・・・とんかつのようで全然違いますね」


これはオークのレアドロップである霜降り豚肉をつかっているからな。普通のドロップ品である豚肉はロースのような肉質なのでとんかつに最適だが、脂身の多く柔らかい霜降り豚肉はこういった食べ方の方がいいんじゃないかと思って試しに作ってみた。串も自作のものだ。


製品としてちゃんと作られたものは臭いなどはほとんどないが、俺が作ったのはほぼ生木を削ったものなので、やっぱり少し木の臭いは気になる。

問題になるほどのものじゃないけどね。






「おかあさん、これおいし~ね~」


「ほんと、こんな貴重そうなものを・・・ありがとうございます!」


この材料はダンジョンの8、9層のレアドロップだから確かに貴重っちゃ貴重なのだろうけど、レベル上げついでにとれたものだから気にするな。


という気持ちを篭めて手を挙げ、親のお礼に答えた。


さ、領主館はもうすぐだ。

残りの串揚げもさっさと平らげてしまおう・・・アチアチッ。

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