第183話 一塊
「おし!これで一応形にはなったかな?」
俺が風呂やトイレを作っている間、入口を作り終わったウィドーさんに今度は簡単な料理が作れるような台所の製作を頼んでおいたら、床と壁、台所と風呂トイレがほぼ同時に完成し、まだほしい設備はいくつかあるものの、一応の完成となった。
「凄いですね・・・入口すらなかったのに半日でここまで・・・」
「自分達で作っといてなんだけど、とんでもないさねぇ・・・」
「すべての作業が苦も無く行えるからな、集中力も異常に続くし、このくらいでは全く疲れないときたもんだ・・・ほんと、サトルの加護は凄いな」
「さすがご主人様です!」
「あるじやるぅ~」
やるぅ~て・・・ココって表情の変化は少ないけど、感情自体は凄い豊かだよな。そのアンバランスさがまた可愛いのだがね。
みんなそれぞれ担当していた仕事をしっかりと終え、全員があらためて部屋を見回してその感想を口にしていた。
現在の間取りはウィドーさん製作のおしゃんな入口を入って右側にトイレと風呂、左側に台所がある。入口を2mくらい進んだ先は奥行8m幅13m程の広いスペースがあり、ここにはテーブルを置いて食卓にするつもりだ。
そしてその更に奥行6m幅10mちょいの空間があり、そこにベッドを置いて寝室とする予定だ。
ベッドは一つや二つ置くとか言うのではなく、ダブルベッドサイズのものをいっぱい並べてその空間の半分をベッドで埋め尽くしたい・・・と考えていたのだが、購入していた4つでは予定の四分の一のスペースしか埋まらなかった。
充分かと思ってたけど、もっと買う必要があったか・・・。
ファストの在庫は全部買ってしまったから、明日にでもトレイル辺りに行って購入しよう。
ここまで立派な物を造ったんだ。一番大事な所を妥協するわけにはいかない。
「おし、じゃあ後は家具を設置して、今日はもう家に帰ろうか」
すぐにでも使用したい気持ちはあるが、今はココも居るのでそういうわけにもいかないからな。
俺は寝室にクローゼット、中央スペースにテーブルを二つくっつけて置き、台所付近にちょっとした棚を置いて今日の作業を終了とした。
外に出ると、もう夕陽が右手側で大地に接触しようとしていた。
中に居る時に暗くなってきていたのを感じていたからそれは分かっていたことではあるけど、地平線まで見えるこの絶景との共演は実に見応えがある。
「綺麗ですね・・・」
「太陽が世界の大地の向こう側に落ちていくのは当たり前の事ですが、こう見てみると不思議ですね。落ちるのはサトル様に教えて頂いた原理で説明できそうですが、半日経つと反対側から昇ってくるのは何故なのでしょう・・・?」
素直に絶景を楽しむオリヴィエと太陽を見てその動きに疑問を持ってしまうミーナ。
アンジュとウィドーさんはそんなミーナの言葉を聞き、その情緒のなさにやれやれといった様子でお互いを見合って苦笑いしている。
「太陽が沈んだり落ちたりするのはこないだの説明したことの延長線上にはあるにはあるが、ちょっとかなり難しい話になるぞ」
なんせ動いているのは太陽ではなく、我々の大地の方なのだからな。きっとそんなことを言ってもにわかに信じられないだろう。
この世界の常識はミーナのさっきの話からも分かる通りおそらく天動説であろうから、まずはその根底を覆さなければならないからね。
「・・・是非教えていただきたいです!」
学習意欲がすっごい・・・。
でも。俺は理解はしているけど、それを説明できるほどの知識があるかというと・・・ちょっと不安だなぁ。
まぁやってみて無理そうだったらシスにサポートを頼めばいいか。彼女ならフェルマーの定理だろうがドラゴン曲線だろうが懇切丁寧に教えてくれそうではあるしな。
「また今度な。おっし、魔法をかけるから全員集まってくれ」
範囲化の効果内に集まるよう俺が声をかけると、ココがまた背中に張り付いてきた。
「もう飛べるようになったんじゃないのか?」
てっきり練習の成果を見せたいのではないのかと思った俺がそう聞くと、
「ん-ん、ここがいい」
飛べない、不安だというのではなく、ただおきにのポジションを取りに来ただけのようだ。
あんなに飛ぶことを楽しんでいたのだからてっきり一人で飛びまわるものだと思ってたんだけどな。
「そうか、飛びたくなったら・・・ぬおっ!」
張り付いたココに話しかけていたら他の女性陣も何故か俺に張り付いてきた。
いや、全員を運ぶのはさすがに無理だぞ。
「おいおい、全員は・・・」
断ろうと思ったが、彼女達が一様に見せているやるせない表情を見てしまったので、無下に出来なくなってしまった。
「・・・わかった、じゃあこうしよう」
俺はオリヴィエとミーナを胸に抱きよせ、右手にアンジュ、左手にウィドーさんの手を繋いだ。
もう何が何だか分からない全身に女性を纏うフェーメルフルアーマーサトルが完成したような状態となってしまったが、まぁこの状態でも全員にフライをかけてしまえば特に重さも感じないし、彼女等程度の重さであれば魔法がなくても今の俺なら運べないことはないから問題はないけどね。
窮屈ではあるが、それが故の幸せを全身に感じることが出来るのは・・・一旦最高ではあるか。
俺はその状態のまま全員に魔法をかけ、ファストの家方向へ飛び立った。
一塊になった俺はそのまま温もりを全方位に感じつつ飛び続けたが、こんなに密集しているのにその間は不思議と誰も喋らず、全員が目を閉じていた。
少し微笑みを浮かべているので眠っているわけでもないようだが、表情を見る限り不満があるということでもないようなので俺も黙って飛び続けた。
最初は手を繋いでいた状態のアンジュとウィドーさんも途中から俺の腕に抱き着くように密着してきたので、家に着いた頃には俺は完全に身じろぎ一つできない、まさに全身ホールド状態である。
家までは全力でスピードを出せば三十分もかからない位で到着するのだが、今はそんな気分でもないので、右手に沈みゆく太陽を眺めつつ、ゆったりとした速度で飛行する。
沈みかけの太陽はすぐにその姿を隠してしまったけれど、その後の余韻のような紫の景色も素晴らしかったし、沈黙の中でも特段退屈と感じることもなく、むしろ幸せがこんこんと湧き出るように俺の中で溢れていた。
穏やかな時間が流れる中、月夜となった景色の向こうに、ファストの街と森の近くでポツンと建つ俺達の家が見えてきた。
二階の木窓から漏れる灯りに人影のようなものが揺れている。
あれは俺達の寝室ではなく、新しく物置部屋の横に新設した部屋の方だな。
もうすっかり陽は落ちてしまっていて、満月に近い明かりはあるとはいえ、遠くの窓の人物を判別できるほどに照らすほどの光量ではないので、そこを凝視しつつ近づくと、
「ギャーーー!!変な魔物が飛んできたああぁぁーーー!!」
「に、兄ちゃん・・・!!落ち着いて・・・何を・・・ワアアァァーー!!」
「な、ななな何アレ!?でっかい腕と体が・・・」
「ヒエッ・・・ヒノーー!!分裂した!!おっきいのと・・・なんか小っちゃいのもいるよぉーー!」
部屋で窓を開けて外を見ていたライが最初に一塊になって飛行する俺達を発見し、その異様なシルエットに俺達を魔物と勘違いしてしまったようだ。
叫ぶライに近くに居た子達も次々に俺達を直視し、同じ勘違いをして驚く。
驚かせてしまったと思ったみんなが次々に俺から離れたが、一体の魔物だと思っていた子供達にとっては逆に恐怖を助長することとなってしまう。
部屋の中は各々が走り回って叫ぶというまさに阿鼻叫喚状態となってしまったのだった。
「どうしたのみんな・・・!」
大騒ぎする子供達の声を聞き、イデルを抱いて駆け付けてきたネマが子供達が指差す窓の外に目をやり、外の俺達と目が合う。
「あ、帰ったんですね。おかえりなさい」
一塊になっている状態を見てない変な先入観のないネマは、俺達のシルエットを勘違いすることはなく、そのままこちらに挨拶をしてくる。
それを聞いた瞬間、あれだけ大騒ぎしていた子供達の動きがピタリと止まって、こちらを目がテンになってみている姿は、なんとも愉快なものであったとさ。
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