第182話 造成

「とりあえず俺は奥を掘り進めるからオリヴィエとアンジュは崩落しないように木で柱や梁を作って補強してくれ、ウィドーさんは入口をいい感じにしてほしい」


「分かりました!」


「こういったことは経験が無いが・・・やってみよう」


「いい感じにって・・・まぁやるだけやってみるさね」


それぞれが俺の指示通りに作業を開始する。

本来は掘る作業が一番大変で時間がかかるのだろうが、俺のステータス任せの力で岩は簡単に穿てるし、剥がすようにすると簡単に塊が落ちる。

それをストレージに入れれば掘った岩も邪魔にならないので、この作業はストレージを持つ俺がやるのが一番効率もいいだろう。


「しかし不思議な感覚だ。木がまるで生肉のようにナイフで削ぎ落とせる」


「下で木を切り倒すのも凄い簡単でしたね」


洞窟を崩落しないように補強する柱なんかは丸太のままでもよかったのだが、まだ拡張の方が間に合っていない状態なので、オリヴィエ達は柱や梁をナイフで掘ってその造形に凝り出していた。


「ううん、ここを木で壁を作って・・・扉や窓もほしいねぇ」


ウィドーさんは最初に少し入口を広げていたが、今は手を止めて頭の中で設計図を書き込み、完成形を思い浮かべてから作業に入るようだ。


それからはそれぞれが与えられた作業を黙々と進めていき、洞窟にはしばらくまるでどこかの工場のような音ばかりが響いていた。


俺が大雑把に空間を広げ、それをオリヴィエとアンジュが微調整しつつ柱と梁を這わせていくが、どうやらそれだけでは手が空くらしく、丸太を加工して床を板張りにしようとしていたが、さすがに掘りぬいた岩に直接敷くとどうしてもガタガタになってしまっていて苦労していた。


床は俺が後で魔法を使いなんとかすると伝え、彼女達の手すきの時間は木から板を作り出してもらうことにした。


ふと入口の方を見ると、まだ扉こそないものの、ちゃんとした玄関っぽいものが出来上がっていた。しかもなんかハイセンス。どうやって作ったん、それって感じのシャレオツな感じに仕上がっていた。


俺がやりたくて始めたこの秘密基地作りだったが、どうやらみんなも結構楽しんでくれているようだ。

アンジュとオリヴィエも、ただただ無計画に部屋を広げていた俺に、ここをもう少し広くとか、あそこは段差をつけて、とか注文を付けだしてやる気満々だ。


俺も掘り進めていくうちに造りたいもののアイデアが浮かんできたりして楽しくなり、あれもこれもと思いつくたびに間取りを追加していく。


「ただいま戻りました」


「あるじ!飛んだ!!」


ミーナが戻って挨拶をすると、その横をすり抜け走ってきたココが、俺の胸に飛びつき鼻息荒く興奮しながらなんとも短い報告してきた。


「そうか。一人でうまく飛べるようになったか?」


「うん!みてて!こうやって・・・こう!」


俺の胸から降りたココが、両手を広げて体を上下させたり胸を反ったり縮めたりしていた。

正直何をやっているのかは全然分からなかったけど、彼女なりに伝えたいことはなんとなく分かった。

要は・・・物凄く楽しかったらしいな。よかったよかった。


「ココちゃんはセンスがあって、飛行自体はすぐに習得出来ちゃいました。戻って来るのにここまで時間がかかったのは、終わろうという私の言葉をなかなか受け入れてもらえなかったからですね・・・」


そう苦笑いしながら俺に話すミーナ。たぶん楽しくなっちゃったココが戻ろうというミーナの言う事を聞かずに飛び回っていたんだろうという図が容易に想像できてしまうよね。じゃじゃ馬さんにも困ったものだが、ココには今の生活をとことん楽しんでほしくもあるので、俺からは何とも言えん。スマン。


「しかし・・・なんかここを離れたのはそう長い時間でもなかった気がしますが、凄いことになってませんか?


報告が終わって改めて中の様子を見まわしたミーナが所感を述べる。


「たしかに・・・。落ち着いて見てみると、なんかとんでもないものを作っている気がするな・・・」


「床面積で言ったらファストの家と同じ位ありませんか・・・?コレ・・・」


そう・・・かも?

いや、向こうよりちょっと狭いんちゃうか?


「私も夢中で作業してました・・・。こういうのは村ではよくやっていたので、その頃を思い出して楽しくなってしまいましたね」


柵を作っていた時も思っていたが、なんかオリヴィエはやたら道具使いが堂に入っていると思ったら実際に慣れていたのね。


洞窟の中は今、仕切りもなく柱と梁だけがある状態だからだだっ広く見えるだけで、実際はファストの家の三分の二ほどの面積ではなかろうか?

・・・それでも充分広すぎるけどな。まぁ掘ってしまったものは仕方ない。岩だから埋め戻しも出来ないしな。


こんなんなるまで気が付かないなんて、全員自分で思っているよりも一心不乱になっていたのかもしれないね。

もう少年心をくすぐる秘密基地ってよりも立派な別荘になってしまうかもしれない。・・・まぁ別にそれはそれでいいか。


「よし、さすがに広げるのはここまでにして、色々仕上げていこうか」


俺は岩肌丸出しの床を改善するため、魔道士を得たことで形状維持が出来るようになったストーンウォールを縦ではなく横方向に出すことで平らな床を作り出した。


これじゃウォールじゃなくてフロアだろと思ったけど、出す方向が違うだけで魔法名が変わるのは不便すぎるしな。斜め四十五度はどっちなんだ問題もあるしね。


「おぉ~、ツルツルー」


コラコラ。俺が出したストーンウォールの上で転がるんじゃありません。

魔法で出した床はモノリス程ではないにしろ、人工的に切り出した石材のように真っ直ぐなので床に実に丁度いい。

このままでも全然いいけど、オリヴィエ達には大量に板材を作ってもらったし、この上に板張りしよう。


あ、根太を石の上において石と板材の間に空間を作っておいた方がいいかも。掘ってるときに妄想した造りたいものには配管も必要だから床下にそれを通せるしな。


俺は少し考え、まずは洞窟内の間取りを大まかに線を引き、床張りをする場所としない場所を決め、オリヴィエ達に指示をして貼ってもらう。


この世界で、鉄製の釘は安価で売っていないので、基本的に固定はすべて自作の木釘だ。

だけど木釘に必要な仮穴は雑貨屋で買ったキリのような道具とステータスの力によって簡単に空けることができるので特に問題にはならない。


こんな無茶な使い方をしたら道具の方がイカれると思ったが、どうやら武器や道具には所有者の装備品扱いになるらしく、レベルが高いものが使うと通常よりも強化されるらしい。なんとも便利な話だ。


二人に床を作ってもらっていると、ミーナとココも仕事を欲しがったので、二人には壁の板張りを頼んだ。

壁は上に立つ床と違って力がかからないので、多少の凸凹があっても特に問題はないから魔法で均すことはしない。俺は俺でやることがあるからな。


最重要設備である寝室は床と壁さえ貼り終わればストレージのベッドを出すだけなので、俺は次点の風呂製作に乗り出す。

風呂はウィドーさんの手によってどんどん装飾が豪華になっていく入口から入ってすぐ右側の場所に造ることにした。


何故そんな場所に・・・と思うかもしれないが、折角の絶景だからな、外の景色を見れるようにしたいだろ?

そうするには洞窟の奥側では実現できないし、排水の問題もあるので入口側に造るというわけだ。






同じ理由でトイレも風呂のすぐ近くに造ろう。

今回はゼロから造るから最初から水洗トイレにもチャレンジしちゃうか。


なーに、イメージはもう出来ている。

なんとかなるさ。

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