第181話 合流

「おお・・・なんか凄いことになってるね・・・」


しっかりと枝を落とした丸太が積み上げられているのは俺がお願いしたことだからまだ分かるのだが、その場所以外の場所にポツポツとまばらに、ダンジョンで見たことある魔物の死骸が転がっていた。


大多数は7層辺りで見かけたブライトブルやファングハウンドなどだったが、よくよく見ると見覚えのないタイプのやつも混ざっていた。

あれは1層に出てくるコボルトの上位固体かな?体毛の色と大きさが違うからたぶんそうなのだろう。


「木を切り倒すとどうしても音が立つからな、こうなることは分かっていた」


まぁそうだよね。強いモンスターってことはそれだけ好戦的でもありそうだし、そんなのが生息する地域で急に木々が次々に倒れる音が鳴り響いたら集まってきてもしょうがない。


「もうちょっと歯ごたえのある魔物が来てほしかったです」


「いや、今日は魔物を倒しに来たんじゃないんだから来ない方がいいさね・・・」


顎に指を置いて斜め上を見上げながら残念だというような表情を見せるオリヴィエに真っ当なツッコミをいれるウィドーさん。

今思ったのだが、ウチの真面目・・・というと語弊があるな。なんというかこう、真っ当な一般人のマインドを持っているのは子供達を除いたら人族の二人だけなんだよな。


オリヴィエは言わずもがなだけど、アンジュもこと戦闘になると変な癖の強いキャラが前面に出てくるし。

人族以外って変わり者が多いのか・・・?いや、たった二人がそうだったからって全体の印象をそっちに傾けるのはよくないか。


なんとなく他の狐人族とエルフのみなさんに怒られる気もするしな。


「そういえば、あそこに転がっているブライトブルとかってダンジョンじゃない場所だと死体がそのまま残るけど、あれって食べたり出来ないのかな?牛みたいな感じだし」


あの断面は霜降りこそないけど、立派な赤身肉に見えるからいいステーキになりそうだけど。


「魔物の体は素材としては有用ですが、食用にはなり得ないと聞いています。理由は判明していないですが、魔物を食べた人は必ずと言っていい程体調に異変を起こし、最悪死に至るそうです」


へぇーなんでなの?


「魔物の体には通常の物質と濃い魔素の半々で構成されておりますので、その物質に溶け込んだ魔素を直接体内に取り込むと、魔素が体組織に溶け込もうとします。ですが、魔族以外の種は魔素を体組織に取り込むと中毒症状を引き起こします」


なるほど、わからん・・・けどなんとなくはわかった。

要は魔素は人の体には毒ってことね。魔族以外・・・とかいうワードがちょっと気になるけど、詳しくは聞かないでおこう。

たしか獣使いの説明の時にも同じ単語が出てきたよな。あの時は色々なものを一気に提示されたから全部は覚えてないけど、竜種とか魔族とかインパクト強めのやつはさすがに覚えてる。


魔族は世界によってかなり立ち位置が変わる種族ナンバーワンと言っても過言ではないだろうが、この世界にも居るという彼らがめんどくさい存在でないことを願うばかりだ。


下の世界にいてこの世界の事を虎視眈々と狙っているというありきたりな悪役ポジはやめてくれよ。戦争とかマジ勘弁だ。


「魔物が食べられないのは残念だけど、素材として利用価値があるなら一応ストレージに入れておくか」


このまま放置していてもまた新しい魔物を呼び寄せる引き金にもなりかねないしな。


俺は倒れている魔物達を掴んではストレージに放り投げというのを繰り返し、数分でその場のすべてのモンスターを掃除した。


「サトル様のストレージは凄いですね。容量に限界はあるのでしょうか?」


「うーん、ハッキリとしたことは言えないけど、なんとなくまだまだ入る気がする。あくまで俺の感覚だからいきなり限界を迎えるかもしれないけどね」


まぁそうなったら要らない物を捨てまくればかなりの容量を確保できるだろうけどね。

最近は便利だからと何でもかんでも突っ込みまくっているからな。ゴミといってもいいようなものもたくさん入っている状態だ。


魔物を入れ終わったら次は下に残ったみんなで用意してくれた木を収納する。


「よし、これで全部だな。そしたら上にみんなで行けるちょっとした場所を確保しておいたから、そこに移動しようか」


そういってみんなを俺の周りに集め、ココがまた俺の背に張り付いたのを確認したら、範囲魔法化でフライを使ってこの場の全員にかけ、飛び上がる。


魔法を使った時にココも範囲内に居たせいで彼女にもかかってしまい、魔法の効果で得た浮遊感により、背中から離れてしまいそうになったため、俺の首にしっかりと腕を回して体をロックするココ。


それでもやはり下半身がフワフワと浮かんでしまっていて怖がっているかなと思ったが、後頭部に放たれる鼻息は実に楽しそうだったので、このまま上に飛ぶことにした。


ココは戦闘もセンス満開の動きをしていたし、高い場所も怖がるどころか楽しんでしまっているので、ちょっと練習すれば一人でスイスイ飛べるようになるだろうな。


上に着いたらまだ全員で作業する程のスペースもないし、ミーナあたりに先生になってもらって空を飛ぶ訓練をさせてもいいな。


そんなことを考えながらもグングンと高度をあげ、さっき見つけた場所へと向かうと、直線的に向かってきたのですぐに目的地が見えてくる。


そのまましゃくれ顎状の岩に全員が着地すると、やはりまだこの人数では狭すぎるな。


「見晴らしは素晴らしいですが、ここで全員が作業するのは少し無理がありますね」


ミーナが当然の指摘をしてきたので、俺はさっき飛びながら考えていたことを伝える。


「そうだな、だからミーナにはこの場所を拡張するまでの時間で、ココに空の飛び方を教えてやってくれないか?」


「!?」


俺の言葉にココは目を見開いてこちらに顔を向ける。


「ココも一人で飛べるようになりたいだろ?」


その言葉にまるでヘッドバンキングをするかのように激しく頭を上下させるココ。凄い動きだな。それ、脳揺れない?


着地時に切ったフライの効果をかけなおす為、ミーナとココに一人ずつ再びフライを使う。クールタイムはかかってしまうが、この狭い場所では範囲化を使うと全員にかかってしまうからな。


先にかけたミーナが飛び出すと、それをワクワクした顔で眺めていたミーナが俺の方に期待の表情を向け、まだかまだかとせがむように短い間隔で鼻息を吹きだしている。


クールタイムが開け、ココにフライを使うと、小さいからだがその場で浮き出す。


「おおー」


自分でなんとか制御しようと努力しているようだが、その方法がわからずただその場で手足をバタバタさせているだけのココだったが、それでも凄い楽しそうにしている。


「ココちゃん、手を」


空中でクネクネしているココに、ミーナが手を差し伸べると、素直にそれを掴んで彼女のリードでシャクレ岩から飛び立っていく二人は、少し離れた場所で制止すると、なにやらミーナからレクチャーを受けているようで、ココは彼女の顔を真剣な目で見つめつつ、たまに小刻みに顔を上下させて頷いている。


「まぁあっちはミーナに任せてこっちはコッチで作業を進めようか」


スペースが無いからそれを理由にココを飛行訓練の時間としたのに、いつまでも彼女達を見ていたら本末転倒だからな。

さっさとこの場を拡張してしまおう。






さて、どんな感じにしようか。


まぁある程度広い空間さえ用意してしまえば、家具はストレージに入っているからどうにでもなりそうだけど、折角だから色々工夫をして少しでも快適な場所にしたいなー。


妄想が膨らむぜぃ。

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