第179話 聖地
「うーん、秘密基地がほしい」
「何を言ってるんだ、突然・・・」
こういうのは突然思いつくものなのだよ、アンジュ君。
それに、こう思ったのはここ何日かの生活も影響している。
「だって・・・このままだと俺は生殺し状態で発狂してしまうぞ」
子供達を保護してからまだ二日しか経っていないが、それから・・・いや、ラルフ君の治療の日からだから、もう三日も夜の戦いを休戦しているのだ。
子供部屋を用意はしたが、寝る時間になるとココだけは必ず俺達のベッドに侵入してくるし、さすがの俺でも彼女の前で大乱闘するわけにはいかない。
正直言うと、子供達の移住を提案したのも手狭になるという表の理由の他にこうなってしまうことを懸念した裏の理由が存在している。大人のとても汚い部分だが、真理でもあるので理解してほしいね。
今日の朝のダンジョンも子供達を連れていき、レベル上げをしたのだが、ココにはその際に密偵の職業を取得することに成功したので、今後はもっと俺達の部屋への侵入をスムーズに行ってくる可能性がある。
そうなったら俺はもう・・・下手したらタガが外れてココにまで手を出してしまいかねん。それだけはいかん。さすがにまだはやい。
新しく建設予定の家の完成など待ってられん。ダンジョンでそんなことをするというのはさすがに危険すぎるし、何故か不思議とあの中だとそういう気にならないんだよな。
「それは・・・私達だって・・・」
「憂慮すべき事態かもしれません、今でさえ四人でもかなりギリギリなのに・・・」
「旦那の欲が溜まりに溜まったら・・・」
「わ、私はご主人様のためならばっ・・・!!」
キミ達、人を性欲オバケみたいな言い方するのはやめないか。否定できないのが辛い所だけど、楽しんでるのは俺だけじゃないよね!?あれが演技だとしたら俺は世の中の何も信じられなくなるぞっ!
「ということで、今日はどこか静かな場所に秘密基地を作りに行きたいと思います」
名称は可愛い子供心いっぱいなのだが、その利用目的は実にR18で無垢で純粋な精神は皆無である。
しかし我が魂と玉思惟には死活問題なので可及的速やかに設営すべき事案なのだ。
この意見がこの場に居る誰からも即座に否定されないということは、きっとみんなにとっても悪くない提案なのだと思っておこう。男という生き物はその方が幸せなのだ。
「静かな場所・・・森の中とかですか?」
「森の中だとどこに造ったか分からないし、この森はそこまで静かではないので却下です」
「ではどこに・・・?」
ふっふっふ。貧弱貧弱ぅ。そんな貧相な発想力では革新的な秘密基地を生み出すことなど出来ないぞ!。
「今の俺達は飛ぶことが出来るのだ。ならば!それが出来ないと到達出来ない場所に・・・そう!あの絶壁にこそ我々のパラダイスはあるのではないか!?」
そういって俺は部屋から見える森の奥、少し霞んで見える山をビシッと指差すと、全員がそちらに視線を移す。
「あの・・・マーチグレイグ山脈の
へー、あの山ってそんな名前だったんだ。
ファストを囲むように生い茂るグラウ大森林の北側に東西へ伸びているのだが、その一部は森の中心部近くに出張り、遠目に見ると先の尖った鋭利な爪を天に伸ばしたような形状をした山がそびえ立っている。
街に居る時やこの二階程度の高さだとその全貌は見えなかったが、魔法で飛んだ時に森の広さとその中心部から勢いよく飛び出したような山の絶壁に感動した記憶がある。
「なるほど、その頂に空を制する竜の王が居るとされるあの山に・・・面白い」
え、そんなんあそこに居るん?じゃあここも危なくない?
「竜はその生涯のほとんどを寝て過ごしていると言われていますし、山に住むような上級の竜種は人を故意に襲うことも無いという話です」
「へー、じゃあ俺達が倒したアースドラゴンは上級じゃなかったんだ」
「そうだな。土竜は天竜などからは竜と認められてないという話も聞いたことがある」
あれでも結構な迫力があったのに、アイツは他の竜から認可を受けられない可哀想なやつだったのか。
そんな奴の居る場所に勝手に俺達の楽園を作ったら怒られるかな?でも、東西にずーっと伸びる山脈のうち、龍籠山・・・だっけ?そこだけ南側に張り出しているからここから飛んで行くのに丁度いい位置にあるんだよなぁ。
まぁそっと作ればバレないだろ。それに、土竜を竜と認めないとかいう知恵が働くような相手ならば、もしかしたら言葉の通じるやつかもしれん。
そうじゃなくても危なそうだったらすぐ逃げりゃ大丈夫だろ。たぶん。
「あそこって掘れるかな?スコップじゃさすがに無理だろうけど、つるはしみたいなんがあればいけるか?」
「ほ、本当にあそこにそんなものを作る気なのかい・・・?」
「大丈夫です!竜にご主人様の行動を制約する権利などはありません!」
なんでそんなに強気なのか分からんが、まぁ一理ある。
この世界を謳歌することに決めた俺の行動原理はやりたいことをやる、だ。でっかいトカゲなんぞに邪魔されてたまるかってもんだ。
「本当に危なそうだったらすぐに撤退するさ」
「ま、まぁ旦那が決めることに異議は唱えないよ・・・アタイも・・・だしね」
拒否反応というよりは少し呆れ気味な感じではあったが、ウィドーさんも反対はしないようだ。どうやらゲージが増えているのは俺だけではないらしいぞ。ウフフ。
「よし、それじゃあ早速準備をして出発だ!」
最近この世界を真面目に行き過ぎていた気もするし、こういったお遊びをしたっていい。むしろもっとするべきだ。ストレージを手に入れたのだから今は毎日ダンジョンへと潜る必要もないしな。
今朝の第2回ダンジョンブートキャンプが開催された結果、子供達のレベルもココこそ一度職業を変更したからまだレベル5だが、他の子はレベル7まで上がったから、もう日常的な脅威は自分で対処できるだろう。
最初はおぼつかなかった戦闘も、アンジュのおかげ(せい)ですっかりみんな立派なファイターになってしまったからな。
その辺の冒険者を圧倒するくらいにはなってんじゃないかな?
子供達の中ではやはりココのセンスが圧倒的だ。
レベルは他の子達より低いが、きっと本気で戦ったら彼女が勝つと思う。このままレベルを上げ続けたらオリヴィエのようなお化物様2号が爆誕してしまうかもしれん。別に何かに困るというものじゃないからいいけどね。
俺達は一度ファストの元ウィドーさんの勤め先であった雑貨屋へと行き、つるはしなどの必要になりそうなものからそうじゃなさそうなものまで色々と購入した。この店にはお世話になってるしな、店主へのお祝いの意味もあるし。
というのも、店頭には見慣れない羊人族というモコモコした白い髪の若い女性が立っていたのだ。たぶんこの娘が以前ウィドーさんの言っていた店主とデキているという人だろう。きゃつめ、いいの見つけやがったな。まぁウチのビューティフォー達には及ばないがなっ!
道具を揃えて家に戻ったら子供達用だったパーティー編成を元の形へと戻そうとしたら、ココだけが頑としてパーティーから抜けることを拒否し続けたので、仕方なく彼女だけそのままにした。
なんで断るのか理由は言ってくれなかったけど、俺がパーティー脱退申請を出す度にその場で床に仰向けとなり、絶対に動かないぞという強い意思表明の絶対拒否姿勢をあれほど毎回続けられたら受け入れるほかあるまい。
ちょっとその行動が面白くて、後半はわざと脱退申請を出していたというのはここだけの秘密だ。ココだけにな。
まぁ枠に空きはあるから無理に抜けてもらう必要もない。不都合がない限り居たければ何時までもいるがいいさ。
すべての準備を整えた俺達は、フライの魔法をかけて目的地の龍籠山へと向かった。
明日の聖(性)地、我々のパラダイス建造へ向け・・・いざゆかん。
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