第176話 子連れダンジョン

「みんな、ちゃんと俺の近くに居るんだぞ。怖くても決して離れるな。ちゃんと守ってやるから安心しろ」


「ご主人様は子供達に専念してください!魔物は私にお任せを!」


俺達は食事後にイデル以外の子供達を連れてダンジョンへやってきていた。


これは本人達にもちゃんと同意を得てのことだが、彼らが断るという選択肢を選ぶことは無いと思っていたので、それは形ばかりのものではあるが、本人の意志が介在するかどうかは色々な場面で重要となってくるはずだから、相手が子供ということで大人が勝手に決めるのではなく、ちゃんと選ばせることはとても大事なことだと思っている。それが例え半ば誘導されたものであったとしてもだ。


だが、イデルはまだ3歳と幼過ぎるので、彼のレベルを上げて力をつけさせると、それを制御出来なくて逆に危険なことになりかねないと判断し、今はイデルを連れてくることはやめておいた。


パーティーは八人までなので、今回のメンバーは俺とオリヴィエ、ココ、ネマ、ライ、ジンク、サン、ヒノの八人でパーティーを組み、アンジュは万が一に備えてパーティー外で護衛をしてもらっている。


サハスはどうやらパーティーの枠には含まれないようなので、今は子供達の後方を警戒してもらっている。枠を使わないのはかなり便利な職業だけど、たぶん獣使い単体だと、レベルアップしてものステータスの伸びが悪いとかそういうパターンなんじゃないかと思っている。そうじゃないと強すぎるしな。


でもそのデメリットもマルチジョブを持つ俺ならば他の職業で補えるからな。今後マストでつけておくものになりそうだ。


ミーナとウィドーさんにはやってもらいたいことがあり、今はファストの街に行ってもらっているので、別行動となっていてここには居ない。


子供達の職業は事前に俺が提示したものの中から本人達からなりたいものを選んでもらっていて、既にいつもの方法で取得済みである。

ネマは僧侶、ココは戦士、ライは剣士、ジンクは槍使い、ヒノは格闘家、サンは弓使いと全員違う職業を選んだ。


武器や防具は俺達のお古や、グラウデンで購入していた物を使っている。

つまり、俺は最初から彼らをダンジョンへ連れてくるということを保護した時から考えていて、その準備もしていたのだ。


ただ、メイスはグラウデンでは売ってなかったので、ネマはウィドーさんが使っていた物を借りている。


この世界での安全はレベルを上げることが一番だからな。

いくら周りの環境を整えたり護衛したりしても、それらには限界があるし、あまり過保護にすると彼ら自身の自由も奪いかねない。


幼い子達をダンジョンに連れてくるなどと非難する者もいるかもしれないが、この世界で危険なのは常に警戒しているダンジョンの中よりも、むしろ普段の生活の中にあると思っている。


俺達だって常に彼らの傍についてあげることなどは出来ないし、必ず彼らだけで行動したり生活する場面が必ずやってくる。

そして、そういった時に身を守れるのは、結局自分達の力だけだ。ならばその力をせめて自衛できるものに引き上げるというのは、彼らのためであり、俺の責務でもあるのだ。


彼らのレベルを上げるにあたって、前もって心に留めてほしい心構えなどを全員に伝えたが、俺の言葉では良く分からなかったみたいで、ネマがみんなに分かりやすいように噛み砕いて伝えてくれた。


力を持つという事、それに伴う責任、むやみやたらに人へ使ってはいけない強者としての心得など、実に分かりやすい言葉に変換しつつ、俺の伝えたかったことはしっかりと伝わるように教授していた。


子供達もちゃんと真剣に俺とネマの話を聞いてくれたので、分かってくれていると思う。

子供故の間違いは今後あるだろうが、その時は俺達が随時叱ってやればいいだろう。・・・ちゃんと叱れるかな、俺・・・。不安だ。


「すげぇ・・・オリヴィエ姉ちゃんハンパねー!」


「ライ兄ちゃん!動きがすっごい速いよ!」


「はわわわ・・・ねぇ見てヒノ、お姉ちゃんたまに消えるよ」


「なんか、滅茶苦茶強くない?人ってあんな動きが出来るの?」


俺の周りで各々武器を構えながらオリヴィエの戦闘を見た子供達がその凄さに圧倒され、口々に驚嘆の声を上げている。


「あ、あの・・・オリヴィエさんって何者なのですか?」


俺のすぐ傍でメイスを重そうになんとか持っている状態のネマがオリヴィエのことを聞いてきた。


「凄いよね。あれで魔物と戦い始めてまだ三週間経ってないんだぜ」


まぁオリヴィエの場合は低レベルの時からヤバい動きをしていたけどね。あれは真似できんよ。天才の類ですね、彼女は。


「さ、三週間・・・」


「アレは別物だけど、みんなも少し頑張ればここの魔物くらい余裕で倒せるようになるぞ」


なんせ経験値20倍だからな。人数で割ると2、5倍になっちゃうけど、俺らの討伐スピードは普通の人と比べられない位速いし、そこにオリヴィエとサハスの索敵能力が合わさるから更に加速する。


「ホントに!?すっげぇ!」


ライは強気な性格で物怖じしないのはいいけど、その分無謀なことをしそうでちょっと怖いな。


「兄ちゃん、アブないよぉ」


俺的にはこのジンクくらい臆病な方が安心できる。この子達には戦力としての力よりも自己防衛力だからな。

力不足の時に突っ込まないよう釘を刺しておかないとな。


「傷ついた程度なら俺の魔法で治せるが、死んでしまったらそれまで。生き返らせることは出来ないからな。命は大事にしろよ」


「「「「ハーイ!」」」」


綺麗に揃うね。いつもネマに何か言われた時に同じような反応を返しているのかな。慣れてる感があるし。


今は3層で戦っているのだが、もうこの層の魔物ではオリヴィエの相手にすらならず、なんとも危なげない戦いが続いている。

俺が魔法で援護するまでもないくらい余裕だ。


もっと深い層に行ってもいいのだが、レベルの低い子供達が居ると移動に時間がかかるし、6層以降のモンスターはスキルで遠距離攻撃をしてきたりするからいくら護衛しているとはいえ、命をかけた状態でリスクをとるのは危なすぎる。

だが1層や2層ではたまーに狩りをしているパーティーが居るし、なにより魔物の歯ごたえが無さ過ぎるということで、人が激減し、尚且つ一段階敵が強くなる3層まで来たというわけだ。


子供達はレッドスパイダーやフォレストハウンドは大丈夫そうだったのに、ホブゴブリンやスケルトン、ゾンビなどには結構ビビっていた。

やっぱり動物系よりも人型の方が怖いらしい。ゴブリンは子供への脅かしにも使われるくらいだしな。


戦闘はすべてオリヴィエに任せても問題は無かったのだが、あまりに暇だったので魔法で援護したら、子供達の歓声と賞賛が飛んできた。ちょっと気持ちいいかも。


これまでもフライや風呂作りで魔法は見せていたが、やはり攻撃魔法というのはインパクトが大きいみたいだ。


殲滅スピードが速いため、敵と戦っている時間よりも次の魔物の場所へ移動する時間の方が長くなり、最初は歩みが遅く、すぐに息が切れてしまっていた子供達も、次第に息が切れないようになってきた。


レベルを見ると、既に全員が5まで上がっている。

パーティーの人数が多く、魔物を倒してから次のポイント移動までに時間がかかる分、今までよりも時間はかかったが、順調ではある。


ダンジョンに入ってから大体四時間位かな?

休憩をはさみつつだったけれど、ほとんど走りっぱなしだった子供達にもさすがに疲労の色が見える。


「よし、今日はこの辺にしておこうか」


ウォーキングウッドを一刀両断にして黒い霧に還元させたオリヴィエに狩りの終了を告げる。


「そうですね、いつもよりは少し早いですが・・・頃合いかもしれません」


お腹をさすって腹時計を確認しつつ、子供達の様子を確認して撤退に同意するオリヴィエ。


「最後に1層で子供達に戦ってもらおうかと思うんだが、どうだろう?」


「1層ならば魔物も単独でしか出現しないから、私達がしっかり見てさえすれば大丈夫だと思うぞ」


「私もしっかりお守りします!」






少し不安ではあるが、いつか通る道だしここは頑張ってもらおう。

アンジュとオリヴィエも同意してくれたし、彼女達と俺が見ていれば危ない場面になってもきっと大丈夫。


「アン!」


あ、もちろんサハスの護衛にもちゃんと期待しているぞ。

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