第175話 新メニュー
「おーっし、じゃあ後はここにベッドを置いて・・・と、これで完成かな」
オリヴィエ達の掃除を手伝って終わらせてから、最後の一部屋にみんなで家具を運び込み、配置を済ませたら俺が仕上げにベッドを置くことで寝室が使える状態になった。
前の部屋でネマに怒られたばかりなのに、懲りない子供達はまたボヨンボヨンしている。このベッドってスプリングとか入ってないと思うんだけど、なんであんなに跳ねるんだろうね。不思議。
「腹減ったな。そろそろ飯の準備をしようか」
あ、俺の言葉でベッドの上の小粒達が一斉に止まったわ。こっち見てる。
一瞬だけ動きの止まった子供達だったが、すぐに動き出して俺の足元に群がって全方位囲みだした。
「ご飯!?カツサンドある!?」
「僕はホットケーキが食べたいな」
「ふわふわパン、また食べたいなぁ」
「私は絶対とんかつがいいわ!」
「ぽえとさあだ」
全員が一斉に昨日食べて美味しかったものを催促してくる。
みんな違ってみんないい。まぁ今日はちゃんとうちの台所で料理出来るからストックメインだった昨日よりもメニューは増やすつもりだから覚悟しておけよ。
「そしたら全員下の食堂で座って待っててくれ。いい子にしていたら美味しいものをいっぱい持っていくぞ」
「「「「「はーーーい!」」」」」
全員の返事が見事にハモったかと思うと、わーーっと諸手を挙げて一斉に一階へと駆け降りていく。転ぶなよーって俺が思ったのと同時くらいに、ネマの「コラーッ!走ったら危ないでしょー!」っていう母ちゃんボイスが聞こえてきた。
そんな風に部屋から出ていった子供達を優しい目で見送っていたら、おれのズボンの裾が引っ張られる感覚がした。
何だと下を見ると、ココがまだ残っていて俺のことを見上げている。
「ん?どうした、ココ」
「あるじ、おてつだい?」
相変わらずの言葉足らずな無表情ではあるが、何故か彼女の言いたいことはハッキリと伝わってくるから不思議である。
どうやら今回は手伝いは必要か?というものではなく、お手伝いをしてもいいか?という問いみたいだ。
「いいぞ、一緒に台所に行こうか」
「んふー」
俺から許可をもらうと、凄く満足そうな笑みに加え、やる気に満ちた鼻息を発したココは、俺の手を握って一緒に一階の台所へ向かう。
「ちょっと羨ましいですね・・・」
「むぅ・・・小さい子の特権ですね、仕方ありません」
後ろから続くオリヴィエとミーナが何かを羨む声が聞こえてくるけど、何の事だ?小さい子の特権って・・・あ、この手繋ぎのことか?
以前に少し街中で繋いだことはあったけど、たしかにココのように日常的にやっているようなことではないけど・・・。
今度買い物に行った時でもいきなり繋いでみようかな。
みんな揃っている時にやると二つしかない俺の手が足りなくなるから、少人数で出掛けた時にでも、ね。
「んんんんんんっ!!おいひいれふぅ!」
初めて作った新メニューを食べたら久しぶりのオリヴィエ節が出た。
「以前いただいたホットケーキのようなのに全く甘くなくて・・・これはデザートではなく主食なのですね。フワフワシャキシャキで経験したことのない食感で美味しいです」
匙で器用に切り分けたお好み焼きをすくって口に運び、初めての食感に感動しながら批評をするミーナ。
お好み焼きは鰹節がないのが悔やまれるが、自作の中濃ソースとマヨネーズの組み合わせが最強のハーモニーを生み出してかなり上手くできた。
ソースは出来るかどうか不安だったけど、作り方をシスに聞いてみたら、なんと俺でも知ってるクッキングアプリ見たいにウィンドウに手順とレシピを表示してくれたので、それに従うだけで意外に簡単に作れた。材料は多かったけど、工程としてはほぼ煮込んでこしてという単純なものだったので、他の料理を作りながらでも作製できた。
ちなみに今回作ったお好み焼きは豚肉の薄切りをふんだんに使った豚玉である。
「今日のとんかつは今までのものより肉汁が凄くないか!?歯ごたえも何か・・・これはっ!?肉を薄切りにしてあるのか!!」
「今までのも食べ応えがあって美味しいけど、こっちは全然違う印象だね。同じ材料なのに、こうまで違いを出せるなんて、凄いねぇ。こっちのソースをかけても」
気合入れてミルフィーユとんかつを作ってみたけど、かなりの好評を得ているようで安心した。
ソースが完成したことでいままで肉の旨味重視だったとんかつも、これでようやく本来の実力を完全に出せた感じがある。
子供達も一心不乱といった感じで食べているが、ココだけは何やらどれを食べようか真剣な表情で悩んでいる風に見えた。
これは・・・たぶん自分の限りある胃の容量に何を詰め込むのか考えているようだ。あの無表情のココが口を尖らせて目を左右に泳がせている様子は実に微笑ましい。
今日は新メニューだけじゃなくて今まで作ったものもほとんど出しているからな。人数も増えた分作るこっちも楽しくなっちゃってるからしょうがない。
だっていい反応すんだもん、みんな。
「んん!?このパン・・・触った感じは硬いと思ったけど、そんなことなくてしかもとっても甘い!!」
ネマがデザートにいいかなと思って作った揚げパンをかじって驚いている。
その言葉に反応したココが目を見開いてネマの顔を素早く見てから揚げパンを睨みつけ、端っこからまた細かく齧り始めた。
すると、
「!?」
少し進んだところでその動きはまた目を見開いて止まり、パンから口を離すととても幸せそうな顔でゆっくりと咀嚼を再開しはじめた。
どうやら気に入ってもらえたようだけど、それデザートだからちゃんと他の物も食べなさいね。
お好み焼きは作りながら食べたいところだけど、さすがに鉄板はあっても丁度いいとろ火を作り出す設備は即席で作れないので、今回はあらかじめ焼いたものを無くなる度に俺がストレージから取り出した。
目の前で調理するのもお好み焼きの醍醐味だから、いつか設備を整えて鉄板焼きを実現したいな。テーブルの上で安定した火となればやはりアレかな?
俺が更なる食の楽しさに思いを馳せていたら、イデルがトコトコと自分のお皿を両手に持ってこちらに来てそれを差し出し、
「ぽてさらおかーり!」
と、俺に可愛い要求をしてきた。彼の眼差しは真剣である。これを拒否すればこの場に伏して泣き叫ぶことも辞さないぞという強い意志を感じる。
ってか、そんな感じでこなくてもおかわりくらい普通にあげるからね。安心なさい。
俺はストレージから山盛りになったポテトサラダを匙で適量掬い取り、イデルの取り皿へ移すと、嬉しそうに自分の席へ戻っていった。イデルはほんとにポテサラ好きなんだねぇ。でもそればっか食ってると栄養が偏るからちゃんと肉も食えよー。
「ちょっとサン!こっちも食べてみなさいっ!とっても美味しいんだから!」
「うん、ありがとうヒノ」
この二人は特定の料理にこだわりを持つということもなく、どれも美味しそうには食べているが、ヒノが食べたものをサンに勧めて横流しするということを繰り返している。
一見ヒノが無理矢理食べさせているようにも見えるが、サンも全然それを嫌がっているということはなく、むしろヒノの行為を喜んでいる節すらある。
ライとジンクは会話もなく食べ進めているが、ライは取り皿を口元に持っていってガツガツ食べている一方、ジンクは大人しそうに食べているように見えるが、よくよく見てみると、口に運ぶ匙の回転数がとても速く、食の進み方としては豪快に食べるライと変わらないものとなっていた。
みんなとても個性的でいいね。
そして俺は今後も彼らを守らなくてはならない責任がある。
これは保護した者が負うべき義務ではあるが、こういった楽しみをくれるのであれば、そんなものは安いもんだ。
俺にドンと任せろ、やぁーってやるぜぃっ!
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