第173話 お世話

「フフ・・・フフフフフ」


「子供・・・アタイと旦那の・・・」


「まずは私の子を里長に・・・いや、種族の長も夢では・・・」


あれからオリヴィエとウィドーさん、そしてアンジュの様子がおかしい。


オリヴィエは突然前触れもなくニヤケはじめるし、ウィドーさんは時たまボーっとして呆けて天井を見上げている。

アンジュに至ってはたまに、とか突然とかではなく、もうずっとなにやら物騒なことをブツブツ呟いている。ちょっと・・・いや、かなり怖い。


大体オリヴィエが食事中に他の事を考える時点でかなり異常な事態ってことが見て取れるよね。


「あれだからな・・・シスも行っていた通り、今すぐは無理だからね。それが来週かもしれないが、もしかしたら数年先ってこともあり得るってことは頭に入れといてくれよ」


この辺に念を入れとかないと色々怖い。具体的には夜分の俺がアブナイ。色情魔さんをフル活用しても、やる気に満ちた彼女達に多勢に無勢で干からびる可能性すらある。


「大丈夫です!私達はずっとご主人様と一緒に居ますので!」


「エルフにとっての数年など、待ち遠しいと言うほどの時間ではないさ」


「アタイの場合は今すぐにでも・・・へへ」


ま、まぁ喜んでもらえてるなら別にいいか・・・。俺にとっても嬉しいことであるのは間違いないしな。ポジティブにいこう。


俺達がそんな話をしている際中にも、テーブルの反対側では、


「コラーッ!ライ!それはジンクの分でしょ!」


「えーっ、だって・・・」


「だってじゃないのっ!ジンクもちゃんと言わなきゃダメよ」


「ボ、ボクは別に兄ちゃんが喜ぶなら・・・」


「そんなことを言っているからライが・・・」


ネマはやはりこの子達のお母さん的立ち位置らしいな。まだ13歳だというのにとても面倒見がいいのがこの数時間を一緒に過ごしただけでもよくでも伝わってくる。


「・・・サトル様、これからのことですが・・・彼らをウチに招くというのに全く反対はしませんが、この人数となると、あの家では少し手狭にならないでしょうか?」


さっき俺が作って出来立てをストレージに一時保管していたホットケーキをお代わりのために取り出して皿に乗っけたものを、ミーナが子供達のために切り分けつつ、今後のことを話してきた。


今のところ冷静に物事を考えているのは彼女一人である。あとの三人は心ここにあらず状態なのでそっとしておこう。


「それに関しては少し考えていることがある。準備に時間がかかるからしばらくはウチで暮らしてもらうことになるけどね」


ただ、これには相手の同意も必要なことだから、まずは話をしなくちゃならないんだけどね。

なんにせよしばらくはウチに居てもらうことになるだろう。


とりあえずは二階の空いている二部屋を新しく寝室にして、一階の一部屋は応接間にするつもりだったけど、予定を変更して普段過ごしてもらうリビングルームにしようかと思っている。


家で長い時間を過ごさない俺達と違って、彼らは家に滞在する時間が長くなるだろうからな、今まで要らなかったリビングだが、こうなった今は作る必要があるだろう。


とりあえず、明日になったらこの街で寝具や必要な家具なんかを購入しよう。ベッドなんかは人数分揃える必要は無いかもしれないけど、今は使わなくてもストレージに突っ込んでおけるから少し多めに買っておくか。食器や調理器具、服なんかも買わないとね。


そうして俺達は宿り木亭で夜を過ごし、次の日は俺とミーナで買い物に出かけた。

惚け三姉妹はなんかやたらと子供達の面倒を見たがっていたので、ついて来たがったココだけを連れて、残りは全員宿へ置いてきた。あの三人、気合入ってたけど子育ての練習のつもりなのだろうか・・・。気がはやいねぇ。


ミーナと色々相談しつつ、色々な店を回って片っ端から購入してストレージに突っ込んでいたら、ちょっとした話題になってしまった。


うーん、やっぱりこういう能力って隠した方がいいのかなぁ?でも、大きいものとかだと運んでもらわないといけないし、細かい物だって買うたびに路地とかに入ってコソコソするのもねぇ・・・。


小さい物だったら袋とかに入れるフリをすることも出来るけど、今回のように大量に購入して全部袋に入れていたら結局怪しまれるし、だったらいっそのこと隠さず大っぴらにした方が逆にめんどくさくないと思ったんだけど・・・この意見も今後の状況次第であっさり変わる可能性もある。


一貫した意見は大事だけど、それに引っ張られ過ぎて自分の行動を制限していたら意味無いしな。


毎回ミーナが提案する量の数倍購入しているので、最後の方は少し彼女に呆れられ気味だったが、未だにストレージの限界は見えないし、溜め込んでいても特に不自由はないからな、


金に困る気配も全くないから、今は折角の便利機能を更に便利にすべく、ストレージ内に色々な物を突っ込んでおきたいお年頃なのだ。

穴が空くなら入れておきたいだろ?男としては(真顔)。


そんなこんなでグランデン中の店を荒らしまくってすっかり有名人になった頃、俺達は宿に戻って子供達に買ってきた服に着替えさせ、ファストの家へと戻ることにした。




「あるじ!もっとはやく!!」


俺の後頭部に激しい鼻息を吹きかけながら、興奮したココが背中ではしゃいでいる。


「お嬢様の期待にお答えしたいのは山々ですが、これ以上速度を出しますと、

他の子達が美味しく食べていた物がウチの女子達の背中にぶちまけられかねませんので・・・」


空を飛ぶことに興奮しているのはココ一人で、他の子達は全員滅茶苦茶怖がっているんだ。勘弁してやれ。

あ、一人だけ・・・いっちゃん小っちゃいイデルがココと同じくらい喜んでるわ。あの子は大物になるかもしれんな。


フライで帰る際に、全員を運ばなくてはならなかったので担当をどうしようか検討しようとしたところで、ココが真っ先に俺の背中に張り付き、そのまま頑として離れる気配が無かったので俺がココを背負い、まだ飛ぶことに不安の残るウィドーさんはミーナにサポートしてもらいながらイデルを抱え、ミーナはウィドーさんのサポートをしながらサンを背負った。

次に安定して飛行できるオリヴィエが一番大きいネマを背負って、アンジュがヒノを背負うことにした。


残りのライとジンクも他のメンバーに任せてもよかったのだが、9歳という微妙なお年頃で恥ずかしそうにしてたので、しょうがなく俺が片手に一人ずつ抱えて飛ぶことになったのだ。


最初は怖がっていたライとジンクも、家に着くころには普通に飛ぶ分には景色を楽しむくらいには慣れていたが、ネマとヒノは最後までダメそうだった。

おっとりしているサンが到着した時には意外にも平気そうにしていた。

イデルなんか地面に着いたとたんに「もっあい!もっあい!」と突然のイースター島信棒者になったのかと思ったが、どうやらもう一回とせがんでいるようだった。


だいぶ慣れたとはいえ、まだ俺達の中では一番不得手なウィドーさんはサポートしていたミーナも子供を背負っていたため、行きよりも手厚いサポートを受けることが出来ずに旅程のほとんどを単独で飛行しなければならなかった上、小さいイデルを抱えているというプレッシャーもあったのでかなり疲弊していたからイデルのアンコールには苦笑いするばかりで応えることは出来なかったようだ。


子供達を伴った復路は行きのものより時間がかかったが、行きのように途中で寄り道をすることも無かったので体感では二時間程で到着したと思う。






さて、色々あったが二日ぶりに家に戻ってきた。

・・・ってかこの家を出たのはたった二日前なのか・・・、グラウデンでの出来事の密度が濃すぎてもっと長く居たように感じるが、宿り木亭には二泊しかしてないから間違いはない。


しばらくのんびりしたい・・・けど、そうも言ってられん状況なのよねぇ。

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