第172話 子
「ジンク!こっちも食べてみろ!凄いぞ!」
「あむあむ・・・ありがと、兄ちゃん」
オレンジ髪のジンクとライは二人共9歳の男の子で、顔立ちが凄い似ていると思っていたら、どうやら二人は双子ということらしい。
顔は同じだが、強気な性格をしている兄のライと、正反対に弱気なジンクは表情が顔に現れていて親でもないのに見分けるのが容易だ。
「ヒノ~、フワフワしてておいしいねぇ~」
「ちょっとサン!そればっかり食べてないでこっちも食べなさい!とってもおいしいんだからっ!」
紫髪のサンと赤髪のヒノも共に6歳の女の子だが、こちらは特に双子だとか兄弟ということではないようだ。そもそもジンク達と違って顔の雰囲気が全然違うしな。
「ねまー、こえー」
「ん?どうしたの?イデル。・・・あ、食べた」
匙に乗せたポテトサラダをネマに見せつけてから口に運ぶという謎行動をしている他の子より更に小さいこの男の子が3歳のイデルで、この中では最年少だ。濃い緑色の髪色をしていて美味しそうにポテトサラダを頬張っている。
「ホラ、口の周りにいっぱいついちゃってるよ」
そんな子達をまとめているのがあの地下に降りて初めに声をかけてきたネマだ。風呂に入る前から少し垣間見えては居たが、汚れを落とすとやはりかなり綺麗な容姿をしている。痩せてはいるが、13歳にしては出るとこ出ていて体は既に女性のそれだが、幼さも併せ持つ微妙なお年頃だね。
ちなみに全員人族で獣耳を生やしているのはココ一人だ。ファストもトレイルでもケモミミの人達は居るには居るが、圧倒的に人族の方が多い。
これが世界的な割合なのか、この国だけなのかは知らない。後で聞いてみようかな。
「あるじ」
俺の横でカツサンドを端からかじり進めていたココが、こちらを見上げて俺を呼んだのでそちらに目をやると、
「やくそく、ありがとう」
と言って笑顔を見せてきた。
もしこれがこの気持ちを湧き出させるための計算だったとしたら、きっとココは傾国の幼女となり得る素質を持っているといえるほどの威力がこの笑顔には秘められているが、おそらくこれは天然のものなのでこの帝国が彼女によって傾くことにはならないだろう。よかったな、皇帝。どんなやつか知らんけど。
俺は最初、ココが俺に求めた約束とは自分のためにカツサンドを提供してほしいと言っていたのかと思っていたのだが、彼女は最初からもらったものをみんなで分けようしていたのだ。
だがカツサンドの美味しさに思わず全て平らげてしまったため、みんなに渡す分をもらうのを、俺と「約束」した。
自分だってこんなに痩せ細っているというのに、貰った食べ物を仲間に分けるという優しさは、言葉にするのは簡単だろうが、実際にその状況になって自分がそれを出来るかといったら・・・全く自信がない。
腹が減っている状態が日常という状況でそんなことができるか?俺はできん。絶対独り占めする。
ちなみに、今は宿り木亭に併設してある食堂を利用させてもらってみんなで食事を取っている。
本来は持ち込みなどはせずにここの料理を購入して食べる場所なのだが、亭主に迷惑料として追加の料金と俺達が食べているものと同じものを分けたら、快く場所の提供を許可してくれた。
「ほらほら、慌てず食べるんだよ」
「このとんはふはさいほうでふよ!」
「オリヴィエさん!子供達にとんかつばかり薦めないでください!」
「ふふ、賑やかなのも悪くないものだな」
うちの四天使達も全員が子供達のことを優しい目で見つめてめんどうを見てくれてる様子を見ると、とてもほっこりする。
「いいねぇ、そのうち俺もこんな子を持つことができるのかなぁ?」
まぁやることやっているわけだし、そのうち必ずそうなるとは思うけど、この光景を見るとそう呟きたくもなるよね。
だが、その俺の発言を聞いたオリヴィエとアンジュは少し残念そうな顔をして、珍しく口の中の物を嚥下してから話し始めた。
「そうですね・・・私はご主人様の御子を産むことが出来ないのが残念ですが、ミーナかウィドーさんが授かった時は私も子育てをお手伝いします!」
「そうだな。まさか自分が人族で無かったことを悔やむ日が来ることになるとはな・・・」
「え?まさか他種族間では子供を作れないのか?」
「はい・・・人族に限らず、エルフはエルフと、狐人族は狐人族とでなくては子は為せません」
ミーナも二人の事を思ってか、どこか申し訳なさそうな顔をして俺に説明する。
そうなのか・・・種族が違うと言っても見た目が少し違う位だから外国人と同じような感覚でハーフの子みたいなのが産まれるのかと思ってたわ・・・。
そうかぁ・・・二人とは子作りという行為は出来ても本質的な意味でそれは為されていなかったのね・・・。いますぐ欲しいという感じではないが、なんかちょっとショックかもしれない。
「マスター」
ん?なんだ?シス。
「サポート範囲外です。・・・今は不可能ですが・・・サポート範囲外です」
・・・なるほど。ありがとうシス。実に分かりやすい。
本来教えられないが、彼女の出来る範囲で俺に伝えるということを実現してくれている。今は・・・という単語が出た時点で、そういうことなのだ。
「どうやらシスによると今は出来なくても、もしかしたら可能になるかもしれないらしいぞ」
「本当ですか!?」
突然大きな声を出して立ち上がるオリヴィエにびっくりした子供達全員が彼女に目を向けるが、あまりの興奮にそんなことも気にならない様子だ。
「まさか・・・そんなことが!?・・・いや、たしかにサトルなら私達の常識などすぐにぶち壊してくるしな」
これこれ、いつ俺がそんな非常識なことを・・・まぁ、したか。
でも仕方ないだろ?ほら、大いなる力には大いなるフェミニンが伴うって言うだろ?力を持てば女性達がついてくるって言う意味だったよな。
でもアンジュもそんなことを言いながらも、静かに嬉しそうにしているのが漏れ出ているのが見て取れる。
そんな反応を見せてくれると、なんだかこっちも嬉しくなってくるよね。
「しかしこのことは内密にしないと・・・」
「そうですね・・・様々な種族のかたが押し寄せて来るやもしれません・・・」
え、なんでそんなことに?
「そうか、使徒の子を授かれると他種族の長が知ったりしたら、なんとしてでも欲しがるかもしれん。それこそ手段を選ばずに・・・な」
「これは・・・絶対厳守の秘密ですね・・・ゴクリ」
俺の子種をあらゆる種族が狙ってくるなど、男の夢の実現かもしれないが、実際には男側が思っているような天国はそこにはなく、恐らく待っているのは地獄だ。そんなのは嫌だ。顔面を提供するヒーローの如く、なんのために生きるのか答えられなくなっちゃう。
「・・・でも、ご主人様、本当に嬉しいです!」
俺に満面の笑みを見せてくれるオリヴィエと、恥ずかしそうに頷いて同意の意志を伝えてくるアンジュ。
俺も・・・うん、嬉しいね。俺の場合はずっと出来ると思っていたから、出来ないと言われても、すぐにそれを噛み締める前に撤回されたもんだから落ち込む暇も無かったからその分跳ね上がるようなものとはならなかったが、ちゃんと嬉しいよ。
「フフフ・・・サトルとの子供・・・フフフフフフ」
アンジュさん?目に影を落として笑うのは怖いからやめてください。新しい属性をつけるのはもう渋滞するから遠慮してもろて。
「これは大家族になりそうだねぇ、アタイは年齢的に無理かもしれないけど、みんなの子なら我が子のように育てられそうだ」
「何言ってんの。年齢を重ねて出産が出来ない理由は主に体力の衰えだ。今のウィドーさんにそんなもんがあると思うか?」
この世界で30近い年齢というのはもう高年齢出産の域であまりないことかもしれないが、日本ではむしろ当たり前の年齢になっているし、魔法で体力の回復や病気の治療が行える俺達ならば、むしろ日本よりも安全な出産が可能かもしれないぞ。
「そう・・・なのかい・・・?」
俺が笑顔で最近女性メンバーの間で流行っている親指を立てるグッジョブサインを見せると、オリヴィエや他の女子メンバー全員もそれに続く。
うーむ、これは約束された大家族の予感。
異世界ビッグダディ爆誕はそう遠くない未来なのかもしれない。
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