第170話 行先
「しかし、行く道行く道全部裏通りだな」
ココを全員で追跡している俺達は付かず離れずの距離を保っていると、なんだか見覚えのある場所に来た。
俺が既視感を覚えて周りを見回していたら、
「最初にココちゃんと出会った場所ですね・・・」
オリヴィエがその反応を目ざとく見つけ、俺の疑問に答えを出してくれた。
この街の建築様式はどれも同じような感じなので、自ずとどこも似た景色になるのだが、全く同じというわけでもないので、細かい所に注目すると・・・なるほど、たしかにあの時の裏路地だ。
ココはあの時おっさんに追いかけられていた時と同じ道を俺から受け取ったカツサンドを両手に持って走っていく。
「どこへ行くんだろうな」
こんな暗い中でも迷うことなくスイスイ進んでいく様子を見ると、当たり前の事なのだが、やはりこの街で育ってきたんだな、という実感を得る。
ココはその後も走り続け、今はもうすぐ街の外壁という場所まで来ていた。
「・・・ふむ、サトル」
俺がココの行く先に疑問を持っていると、何かに勘づいたのかアンジュが話しかけてきた。
その言葉に俺が彼女の顔を見ると、アンジュは言葉を続ける。
「先に言っておくが、ここはサトルの居た世界とは違う。これから見るのはこの世界のありふれた光景だ」
「・・・そうか。ありがとう」
なるほどな・・・そういうことか。
・・・となると、最初にココにあげたカツサンドを勢いのままに完食したココが、手の中から無くなってしまったことに悲しそうにしてた顔や、あの「約束」は・・・。
「あ!ご主人様!」
オリヴィエの言葉で視線をココに戻すと、よく裏路地で打ち捨てられているのを見かける古びた木箱が積みあがった場所の前で、何やらキョロキョロと周りを見回したココは、やがて木箱の一つを数回ノックすると、数秒後にノックした木箱の側面の板がはずれ、ココがその中に入ると、箱の板が元に戻った。
「おお・・・凄い、秘密基地みたいだな」
基地といっても、小学生が作る・・・という補足が入るがな。
俺達はココの姿が消えた場所に行き、ココが消えた木箱を見る。
箱は一辺が1mの正方形で、すべての面が板で塞がれている巨大なサイコロのような正六面体をしている。それがこの場には六個置かれているが、これはその古びた様子などから保管してあるようなものではなく、おそらくは打ち捨てられた物だろう。
不法投棄の概念が無い、もしくは薄いこの世界の街は、ゴミが落ちていない場所を探す方が難しいくらいなので、特に目立つような物でもないし、ありふれたものだ。
俺はさっき開いた板を軽く押してみるが、少しの力を加えたくらいでは板は動かなかった。
しかし、しっかりと力を入れて押すと、ゴトリという何かが倒れる音と共に蓋となっていた板が外れた。
板を完全に取っ払い、中の様子を窺うと、木箱の床部分には板が無く、そこには箱の半分程・・・50cmもない位の穴が空いていた。
穴は手掘りといったようなものではなく、きちんと設計、施工されたもののようだ。穴の横には木の棒が転がっていた。これで板を抑えていたんだろう。
この箱もどうやら元々上部が開放されているタイプの物をひっくり返したようだな。
元々あった地下への入口を木箱で塞いだだけの簡素なものだが、周りの景色に上手く溶け込んでいる上、入口の板はちゃんと押さないと外れないように一工夫していることもあって、簡単には見つからないようになっている。
「思ったよりちゃんとした造りをしているな」
「元々あった施設を利用しているのでしょう・・・ですがここは・・・」
ミーナが少し表情を曇らせて言葉を濁す。
いや、それは聞かなくてもなんとなく分かる。だって、この街はずれという立地になによりこの臭いだ・・・。
「行こう」
俺は少し躊躇いはしたが、この先にココが居ることは確実なので、先に進むことにした。
穴にはハシゴがかかっていて下に降りれるようになっているが、中を覗くと意外にそこはほんのりと明るくなっていて、2m程下には底が見えたので、俺はハシゴは使わずにそのまま飛び降りた。
一秒も無い浮遊感を得た後に地面へ着地すると、
「誰!?」
ココとは違う降り立つ俺達を警戒する少女の声が響く。
そこには淡いクリーム色の髪を後ろでまとめ、ポニーテールにした女の子がこちらに身構えて立っていた。
年のころは12・・・いや15歳くらいかな?
服装はココが最初に出会った時に着ていたようなボロ布を纏っている。
容姿は綺麗・・・だとは思うが、薄汚れている上にこの場所も壁がなにやら淡い光を放っていて、光源としては充分とはいえないのでよく分からない。
名前
ネマ
性別
女
年齢
13
種族
人族
職業
村人 Lv9
どうやら俺の予想は70点くらいだったようだ。当たらずも遠からず。日々これ精進なり。
「あるじ!」
俺達の追っていた聞きなれた声がネマの後ろから駆け寄って来た。
「あ、ココ!ダメよ、戻ってきて!」
手を伸ばして制止しようとするも、ココにはあと一歩届かず、こっちへ来ることを許してしまった。大丈夫だよ、こんな可愛い生物を害しようなどとするはずがないだろ?
「あるじ、どうして?」
カツサンドを持ったまま疑問を投げかけるココ。
「いや、突然飛び出して行ったら、そら追いかけるだろ。心配なんだから」
「しんぱい?」
首を傾げるココに「そうだ」といって頷いて見せると、ココは抱き着いて来た。カツサンドを持っているから左手一本だけだったけど。
「なぁんだ、ココの知り合いの人だったの?」
ココが気を許している様子を見て安心したのだろうが、そんなに簡単に人を信用していいのだろうかとこっちが逆に心配になるわ。
「ねま、あるじ」
ネマ、俺の順で指を差すココ。お互いを紹介しているのだろうが、それだと俺がアルジさんだと誤解されないかね、ココよ。
「サトルだ。ココとは昨日会ったばかりだが、怪しい者ではないので安心してくれ」
「あ、うん。ココが懐いているのなら警戒すべき人じゃないって証明になるから大丈夫だよ」
突然警戒を解いた理由はココだったのか。何かそういうのを察知する能力に長けているのかな?知らんけど、今までにもそういうことがきっとあったんだろう。たぶん。
ネマはそう言うと、奥へ行ってしゃがみ込む。
薄暗い部屋では奥までよく見えず、何をしているんだろうと目を凝らして見ると、広くもないこの空間の奥、その隅に小さな影が固まっていた。
「大丈夫、怖い人達じゃないみたい」
よくよく見ると、それはココよりも更に小さい子供達のようだった。五人・・・いや、六人いるな。
全員が隅っこで一塊になり、こちらに怯えたような視線を向けていた。
そこにココも駆け寄り、持っていたカツサンドを差し出すと、その中の一人が嬉しそうに受け取って口にし、横の子に渡し、次々に渡ってあっという間に平らげてしまった。
「わぁ、おいしー!」
「すごい!ボク、こんなにおいしいものはじめてたべたよ!」
「あたちも!おいしかったねぇ」
「ココ、ありがと」
「ここ、あいあと」
みんなが一口ずつ食べて感謝されたココは満面の笑みを浮かべていたが、そんな中最後に受け取って大きいとは言えない欠片を口に運んだ男の子が近くのネマを見上げ、
「あ・・・ごめんネマ・・・。全部食べちゃった」
申し訳なさそうに謝罪する男の子は涙目になっているが、ネマはそんな子の近くにしゃがんで目線を合わせ、
「あたしは昨日食べたばかりだから大丈夫だよ」
と言ったのだが、美味しそうに食べる子達を見て正直者の体が反応したのだろう。大丈夫と言ったそばからネマのお腹からはキュゥゥ~というオリヴィエの豪快な音とは違い、高音域の可愛らしい音が鳴ってしまっていた。
強がりを言ったそばから鳴った音に、アハハと恥ずかしそうに苦笑いをしているネマと悲しそうな男の子。
俺は彼らの下に歩み寄り、何も言わずにストレージから新しいカツサンドを出して提供した。
さすがにこんなん目の前で見せられて黙ってられませんってぇ!
おいさんこういうの弱いんだよ。
これ以上の健気さを見せられたら涙ちょちょぎれちゃう。
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