第168話 後処理
「何をする!ヤメロ!はなせぇ!私は子爵だ!この領地の領主だぞぉぉー!!」
「罪人は黙りなさい!!・・・ゴミが」
シンディさん、日頃の鬱憤が少し漏れ出てますよ。
俺のデモンストレーションに加え、その後にとどめの空中に浮かぶ美女達の降臨により、領主の部下達もさすがに俺達に従順にならざるを得なくなり、今は罪人となったワルカをしっかりと拘束している。
「あ、一応ちゃんとここのクイルでも調べるんだぞ。俺が使徒だからって一次情報だけを信じて行動することは危険だからな」
「はっ!かしこまりました!」
さっきまで俺達に剣を向けていたとは思えないほどの変わりようだな・・・。まぁ自分達に命令してた領主という後ろ盾が無くなったんだからこうもなるか。
「あ、そうそう。そこに転がっているゴリラも罪人だから捕まえといてね」
さっきちゃんとワルカと同じ方法で倒れているデオードの肩を掴んだらしっかりと罪人になったからな。
この世界の罪人判定は職業落ちという半自動システムだから、それ故にそうなっていない者達への疑いというものがかなり薄いものになってしまう。
今思って見れば、俺がオリヴィエを奴隷として迎え入れた際もマーキンに宝石で買ったというすぐバレそうな嘘をついたのだが、マーキンは奴隷商人を調べてその宝石が無いという事実がわかっただろう後も、特に俺を疑ってくることは無かった。
それはおそらく俺が罪人となっていないことで、宝石は何らかの理由で手元に残らなかったのだろうという性善説へ思考が誘導されやすくなっているからだろうな。
例えば俺の居た世界じゃ嘘や悪は人が見抜いて調べ、裁くものだが、この世界じゃそれをすべてクイルが判定してくれるため、生まれ落ちた時からそのシステム下にいるこの世界の住人は前の世界の人と考え方がそもそも違うのだ。
職業を調べて罪人や盗賊になっていなければ善悪の判別がつくのだからな。
「デオード様も・・・了解しました!」
手が空いている騎士がデオードの手を後ろに回してから両手首を拘束しはじめ、気絶しているのを無理矢理叩き起こして連れていく。
「しかし、昨日の夜襲でお前等を一緒に襲うようなやつらとこれからも一緒に仕事しなきゃいけないのは大変だな」
この部屋で騎士達に指示を出しているシンディにそう言うと、
「昨晩サトル様を襲撃した者達はデオードのゴリラといつも行動を共にしていた連中です。それがサトル様のおかげで一掃できましたので、逆に感謝してるくらいですよ」
まぁそのセリフが今言えるのも、あの時ラルフを助けられたからだろうけど・・・。
今回はすっかり俺のせいで巻き込んでしまったが、そう言ってもらえるとこっちも助かる。
「そうか」
不幸中の幸いってやつだな。俺が言う事でもないけど。
「しかし、サトル様にあのような力があるとは・・・事前に今朝話を伺っておりましたが、実際にこの目で見るまでは信じられませんでした」
まぁ、実際そんな力は無いんだけどな。パーティーに入ってそいつに罪人の素養があれば可能だけど、俺の勝手な裁定で罪もない人を罪人に落とすなんてことはできない。
「ここで出会ったのも何かの縁だ。この先困ったことがあったら相談にのるよ。あまり無茶なことを言われたら無視するけどな」
「ハハハ、その際は是非お願いします。・・・でも、この先この領地は一体どうなってしまうのでしょう・・・」
ラルフが心配そうな顔をして部屋の中なのに遠くを見つめている。
まぁゴミとはいえ貴族だった領主を強制的に排除してしまったからな、そう思うのも仕方がない。帝国内にある限りは平民による自治領などというものは認められないだろうしな。
「解決になるかどうかわからんが、とりあえず俺の知ってるまともな貴族に相談してみるよ。きっとそいつが力になってくれるはずだ」
俺の知っている貴族といえばワルカを除くと一人しか居ないんだけどね。
今回は子爵を罪人とすることで俺を亡き者にしようとしたことへの報復とさせてもらった。
俺達の力ならば、受けた暴力をそのまま返しても構わなかったんだが、それだと今よりも後処理とその後の対応が面倒になりそうだったからな。
だが、やられっぱなしで我慢するという選択肢はない。そんなものは真っ先に捨てた。
そんなことをすればワルカみたいな腐れ外道は増長し、今回以上の要求をしてくるのは目に見えてる。
俺が使徒であり、力を持っているというのはもう隠しようがないほどに広まっているだろう。
だからワルカも使者を出してきたんだしな。
これは憶測だけど、今も尚どっかの貴族や権力者の使いが俺の家に向かっているのではないだろうか。
こっちからしたら迷惑この上ないことなんだが、その気持ちも一応分からないではない。
もし俺がこの世界に貴族の当主とか王族の家系とかに生まれて育ったと仮定して、神の使徒と思わしき人物が突然現れたと報告を受けたなら、俺だって絶対コンタクトを取ろうとするもんな。
だからこそ俺は今回のことを利用し、「罪人に落とす力」を持っていると公言させてもらったのだ。
こうすれば身に覚えがあるどうしようもない貴族などは俺との接触に慎重となり、訪問などは激減するだろう。
それでもトライするお馬鹿なやつや、清廉潔白自信ニキなんかはチャレンジしてくるだろうから、ゼロになることはないだろうけど、また理不尽を言われたり無礼なやつが来たりしたら速攻でそいつの主人に逆訪問しておててを繋いでやる。つ~かまえた♪つってな。
そうすりゃいずれウザいやつは誰も来なくなるだろう。
貴族なんて手を汚さなきゃいけない場面だってあるだろうから、きっと誰でも罪人の素養はあるんじゃないかな?もしかしたらカルロにだってあるかもしれない。
だから誰もかれも俺の家に来たからって全員罪人にするってことでは無い。もちろん一応話は聞くさ。態度によるけどね。
ちなみに俺が持ってきたクイルでトレイルの冒険者ギルドに連絡したら、すぐにダスティンへ繋いでくれたので、彼にカルロを呼び出してもらって折り返しの連絡を希望したら、ついさっきクイルが振動と共にまるで黒電話のような・・・というかまんま黒電話の音が鳴った。
クイルに手をかざすことでその振動を止めると、箱からカルロの声が聞こえてきた。
こっちから要請して二十分も経ってないというのにもう連絡が来たということは、かなり急いでくれたようだ。
クイルを使って他のギルドなどに連絡を入れたいときは、手をかざして街と施設の名前を思い浮かべながら「ケルアー」と唱えると、対象のクイルがさっきのスマホの着信時みたいな反応を見せる。
発信側も「prrrr・・・」という音が鳴るから、俺が最初にこの使い方の説明を受けた時は、これ作った上の人は絶対別世界の携帯電話を参考にしただろ、と突っ込まざるを得なかった。
マリアの前で口に出さずにそれをしただけ偉いと自分を褒めたいくらいだ。
連絡がついたカルロに今回の概要と処理をサクッと軽い感じでお願いすると、「ちょ、ちょっと待ってください。後は任せたって・・・そんな重大なことを男爵の俺が・・・たしかにスタンピードには感謝を・・・あ、コラ待て!サトル様ーーーー!!」って切り際に聞こえた気がするが、無視しておこう。
後は頑張ってなんとかしてくれたまえ。この領地の明日は君の手にかかっているぞ!
俺達以外のみんなが慌ただしく動いている中、そんな回想をしていたら、シンディが何やら神妙な顔をして俺の所へ走ってきて、報告してきた。
「サトル様・・・屋敷中をくまなく調べて回ったのですが、ナードの姿がどこにも見当たりません・・・」
すべてが上手くいったと思っていたのだが、どうやらそうでもなかったらしい。
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