第167話 四天使

「わ、私にこんなことをして・・・!た、たただたたタダで済むと思うなよ!」


興奮しているからって盛大に噛み過ぎだろ。おのれはタダ星人か。


「いや、お前にはまだ何もしてないだろ。というかされたのはこっちだぞ」


どこまで自己中なんだこいつは。


「このことはロイヤー辺境伯殿に報告して必ず貴様を断罪してやるぞ!」


うわぁ・・・なんかまた新しい名前が出てきたな・・・もしかしてその辺境伯殿とやらもお前と同類なのか?もう勘弁してくれよな、ゴミ処理は業者がやってほしい。


「ほう・・・断罪ね・・・。一体なんの罪で俺を断罪するんだ?」


「ふざけるな!貴族に無礼を働くのも、私の館に勝手に押し入るのも、私に口答えするのも思い通りに動かないのもすべて重罪だろうが!」


どんな理屈だよ・・・貴族に無礼とか館に、まではまだわかるけどその後はガキ大将しか使わないような幼稚なものじゃないか。


まぁいい、丁度良くこちらに都合のいい話題を出してくれたんだし、利用させてもらおう。


「断罪ならお前にしてもらわなくても・・・これを使えば簡単に分かるんじゃないか?俺の罪も・・・お前の罪だってな」


俺は自分の背中側に手を回してストレージを開き、そこから黒くて手のひらより少し大きい位の四角い箱を取り出し、それをワルカに見せてやる。


「な・・・そ、それは・・・!」


これを持ってくるのは結構大変だったんだぞ、この街の物でもよかったけど、ここに俺の知り合いは居ないからわざわざファストまで行ったんだからな。


「何故貴様がクイルを・・・それが設置された場所から勝手に持ち出した者は罪人へと落とされるはずだぞ!」


それはリリアにも言われたよ、説得するの大変だったんだぞ。あまりに反対するもんだから最後はちょっと強引な手を使ってしまったけどね。


「そうか?じゃあ見てみる?」


気になるなら実際にその目で確認してもらうのが一番だからな。特と見るがいい、俺の第一職業をな。


俺はクイルに手をかざして鑑定結果を表示させる。



  名前

   アマノ サトル


  性別

   男


  種族

   人族


  職業

   重戦士



「な・・・どういうことだ!持ち出したクイルは己が意志で手に持つことも持たせることも罪人へと落とされることになるというのに・・・!」


だって・・・手に持った状態で職業変更したからな。手に持っている時はずっと罪人になるんだったらお手上げだったけど、試してみた結果クイルは手に持って持ち出した時に罪人へとなるようで、その状態から職業変更すれば罪人へ戻ることはなかった。


ちなみにストレージに入れても、そこから出してもいちいち罪人になるから実にめんどくさい。さっきもとり出した後にすぐ変更しなきゃいけなかったしな。


「俺は使徒だぞ。持ち出しのルール・・・禁忌が俺に適用されるはずがないだろう」


最近慣れてきたけどたまに出ちゃうんだよねぇ、和製英語。和ってついてるんだからこの世界でも通じたっていいのにね。

しかし、俺も嘘をつくのがうまくなったなぁって最近思う。これはレベルが上がったからなのか、この世界の来てからの経験でこうなったのかはわからない。ただ一つ言えるのは、ここに来るまでの俺はちょっとしたことですぐ目が泳ぐようなウェハースくらいに脆いメンタルだったってことだ。


「ぐ・・・だが・・・」


「どうやら俺は罪人ではないらしい、だが・・・お前はどうかな?」


俺がクイルをワルカのすぐ眼前に持っていくと、明らかにたじろぐ。やはり身に覚えしかないのだろうな。


「き、貴族に鑑定を強要するのは礼節を欠く行為なのだぞ・・・そんなことも知らんのか!」


「知らんな、そんな俗世の決まり事は・・・ほれ、鑑定してみろ」


ローカルルールを押し付けるのもマナー違反だぞ。

っていうかお前の場合はただ村長というのを見られたくないだけだろうが。そんなの知ったことか。


「ぐぎぎ・・・」


「それとも何か?自分が罪人だってバレるのが恐ろしいか?」


罪人という言葉を強調して言うと、ワルカは俺のことを睨みつけた。殺気が籠った視線というのはこういうのを言うんだろうな。充血しはじめてるぞ。


「よ、よかろう!ワシの潔白を証明してやろうではないか!」


そういうと、ワルカはクイルの手を置き、鑑定結果がその上に表示される。



  名前

   ワルカ・ラス・シーシャーク


  性別

   男


  種族

   人族


  職業

   村長



いつ見てもこの村長ってのがおもろいな。

たぶんだけど、貴族への鑑定がマナー違反っていうのは俺みたいなやつが心の中で馬鹿にしないようにっていうお互いのことに配慮して出来たものなんだろうな。


魔物を倒さなきゃ戦闘職はとれないからそういったことを重視しない家系だったり、戦いの才能がなかったりしたらどうしても戦士や剣士といったものを手に入れられない奴は一定数いるだろうからな。


「どうだ!ワシは罪人ではなかろう!いくら使徒殿とはいえ、これほどの侮辱は看過できんぞ!おいお前等!ぼさっとしてないでコイツを・・・」


「いや!」


ラルフとシンディの強さに尻込みしていた騎士達もワルカの言葉で俺に近寄ろうとするも、俺がワルカの言葉を大きな声量で遮ると、その突然の声に驚いたのか、その場にたじろいだ。


「お前は罪人だよ・・・ほら・・・」


クイルにかざしているワルカの手を、ある意識をしっかり持ってそのまま固定するように掴む。


そして、ニヤリと笑みがこらえきれなくなった俺が、





と言うと、表示されたままだったワルカの鑑定結果の職業欄にある村長の文字がスゥーっと消えていく。


「なっ!?」


ワルカは自分の職業欄の変化を見て目を見開き、驚愕する。


「なんだこれは!私の職業が・・・!」


「よーく見てろ、お前の本当の職業が出てくるぞ」


文字が完全に消えると、そこには新しい二文字がフェードインしてくる。

そして、そこには「罪人」という新職業がはっきりと認識できるようになった。

俺はゆっくり、自分の肺へ目一杯の酸素を取り込む。


「聞け!!俺は忙しい神に変わり、本来職業落ちするはずの者をこの目で判断、裁定する権利を与えられている!従って、貴様は・・・ワルカ・ラス・シーシャークは、俺の裁定により、罪人落ちとした!!」


俺は大きな声でこの長台詞を叫んだ。それこそこの館中に聞こえるんじゃないかというくらいのな。大声には自信があるぜ。カラオケではマイク要らずだねってよく言われてたのだからな!


そう、俺がワルカの手を掴んだ時に持った意識は、こいつを「捕縛」したというものだ。


「な、なんだこれは!馬鹿な!何故貴族である私が罪人に・・・!!」


俺が掴む手を振り払い、自分を鑑定したクイルを両手で掴んでその上に表示されたウィンドウの職業欄を間近で凝視するワルカ。


「そんなわけはない!これはインチキだ!・・・そ、そうだ。このクイルは偽物なんだぁ!」


取り乱しすぎてハチャメチャなことを言い出すワルカ。こんな偽物あるわけないだろ。そもそもそんなん作れたらそれはそれで神に近い存在だと自分で認めてしまっていることにもなるのに。


クイルは神によってもたらされた物らしいからな。

日本に居た時に神の道具なんて単語を聞いたらすぐにインチキの四文字が浮かんでくるが、この世界では充分有り得ることだからねぇ。この短期間で俺の身の回りに起きたことだけでも何回かそれを感じることがあったしな。


おし、あと一押し・・・みんな、予定通りにいこう。


「愚か者が!クイルは神によってこの地に与えられた奇跡の神具だ!それを疑うのは重大な背信行為となるぞ!」


「貴方は神の使徒、アマノサトルによって断罪されたのです、罪を受け入れなさい」


「ご主人様の言う通り、です!」


「オリヴィエ、アンタはちょっと黙ってようか・・・」


俺が壊した窓から次々に浮き上がったままの女性陣が入ってくる。


飛行魔法を知らぬものから見たら、目の前で起きているこの状況はかなり神々しいものとなっているだろうね。

元々キミたちは美しいからな、この状況でその入り方をしてくればまさに天使って感じだ。白い羽を幻視しているやつだっているんじゃないかな?


ちなみにフライの効果はかけなおしたのではなく、単にあれから切っていないだけだ。

ダメ押しに、俺も自分にフライの魔法をかけて体を淡く発光させ、その場に浮き上がる。


「お、おぉ・・・なんという・・・」


あまりの光景に部屋の中の全ての人間は目を大きく見開き、立ち尽くすばかりだったが、ラルフとシンディが片膝を突いて頭を垂れると、後ろの騎士達も次々に武器を捨て、その場に平伏しだした。






子爵達があまりに予想通りの行動をしてくれるものだから少しのアドリブは必要だったけど、特にこれといったイレギュラーもなく描いた絵図通りにことが進んでくれた。


悪いやつの思考が読めるってことは、俺もそれに近い思想を持ち得るということなのだろうが、それはまぁしょうがないだろう。


だって、俺は今回ワルカよりもはるかに多く、罪人になったんだからな。



──以下告知です──

新作短編を11月12日18時に更新しました。

よければそちらも拝読していただけると嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/works/16818093087389328533

『望んでいなかった異世界転移だけど、渋々生きていきます! ~無料スマホゲーをやっていたらいつの間にか異世界にいました~』


よろしくお願いいたします。

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