第161話 拒否

「は?・・・何故です?高貴な家と領地にその加護を授けるのは神の使徒として当然の行為なのではないのですか!?」


どんな理屈だよ。お前を中心に世界が回ってでも居ない限り、そんな思考には・・・ってそう思ってるからこういう考えになるのか。


「意味がわからん。逆に何故お前は自分が俺の加護をもらえると思ったんだ?」


俺の言葉が全く理解できないのか、ワルカは不思議な顔をしている。


「自分が俺の所にきてお願いするならまだしも、最初はゴミみたいなやつを送りつけて俺を不快にしたのにすぐさま追加で人を寄こしやがって」


「そ、それは失礼いたしました。デオードのやつにはきつく・・・」


俺はワルカの言葉が終わるのを待つことなくそれを遮るかたちで続ける。


「しかもその後にすぐ追加で人を寄こしやがったうえ、お前の要請を受けてやってわざわざここまで来た俺を、くだらないことで待たせやがって・・・莫迦にするのも大概にしろよ」


「う・・・ぐ・・・ナード!お前が・・・」


もう一押ししておくか?俺はさらにまた言葉を遮って続けた。


「それで来てみれば厚かましくも自分に加護をくれ、それが使徒として当然だと?お前が俺のすべき行為を決めてんじゃねぇぞ」


「あ・・・ぐ、ぐぐ・・・」


俺の言葉にすこぶる不機嫌な様子だが、さすがに使徒に食って掛かることは出来ないらしく、歯を食いしばっているワルカ。

ってか・・・自分が歯向かえない相手にそんなに顔に出してもダメだろ。


「ワルカ様・・・ここは・・・」


近寄って耳打ちをするナードに頷くワルカ。


「そ、それでは・・・残念ですが、加護は諦めます。ですが、折角ここまでお越しになられたのですから、二日後に控えた私の生誕四十周年の宴にご招待いたしますので、是非ともそちらにおこ・・・」


「断る」


よくここまで機嫌を損なった相手に自分の誕生パーティーの誘いを出せるもんだな。

たぶん俺が出席することで箔をつけるとかそういうことがしたいんだろうが、何が悲しくてオッサンがケーキのロウソクを吹き消すところを見に行かなければならんのだ。


ワルカは俺にあっさりと断られ、下を向いてワナワナしている。

よしよし。


「このことは周辺領主ならびに、こないだ知り合った皇帝にも報告させてもらう。お前が俺にしたこと、それに・・・これまでしてきたことの全てをな」


「なっ!?それはどういう・・・」


おー、俺も結構いける口だな。もしかしてこれで詐欺師の職業とか手に入るんじゃね?今回のコツは、台詞の後半をわざと強調することだ。我ながらナイスな演出だったと思う。


「それじゃ、失礼させていただく。今日はもう日が暮れそうだからこの街に滞在させてもらうが、明日の朝すぐに家に帰らせてもらうぞ」


「ちょ、ちょっと・・・お待ちください!私の何を・・・」


俺はワルカの事をフルシカトして振り向き、


「行こうみんな。こんな不快な場所からはさっさと出ていくに越したことは無い」


そう後ろに控えていた全員に伝えてから、部屋を出ていき、わざと強い力で扉を閉めた。そして、


「フライ」


部屋の中の人間に聞こえないように少し小さ目な声で魔法を唱え、ココを抱えてすぐ近くの窓から出る。ここは三階で領主館の裏手になるから浮いていても見つかることはないだろう。


「お待ちください!・・・あ、あれ?」


窓を閉めて姿が見えないように壁に張り付き、他のみんなにもハンドサインで促す。


「探せ!やつをなんとしても引き留めるんだ!・・・クソ!なんでこんなことに・・・・!」


壁一枚隔ててはいても結構聞こえるな。


「落ち着きましょうワルカ様。やつは今日はこの街に留まると言っていました。まだチャンスはあります」


「・・・そうだな、よし。使徒としての義務も果たさず、ワシの記念すべき日のお飾り役まであっさりと断りおって・・・」


「使徒を語る偽物はアナタが見破り、断罪した・・・ということでどうでしょう?神の使いと偽ったならば極刑とするのは当然です」


「ワシが皇帝まで出し抜いた詐欺師を断罪した・・・か。フハハハハハ!いいぞナード!最高だ!この功績を持って帝都に行けば私の陞爵だって夢ではない!」


よし、もうこの辺まで確認すればいいだろ。これ以上はみんなの怒気が膨れすぎて抑えられなくなるかもしれんからな。


俺は指で空を差し、ついてくるようにジェスチャーで伝えてから上空へと昇る。みんなもちゃんと意図を理解し、ついてきている。


「あるじ!」


俺の腕に抱かれたココが珍しく少し大きめの声を出してきた。


「あ、すまんココ。何も言わずにいきなり・・・」


「すごい!あるじ!とんでる!」


あ、怯えてるんじゃなくて、めっちゃ興奮してたのね。

ココを抑える腕に凄い勢いの鼻息が何度も何度も当たってて凄いわ。耳もピコピコ動いて顎をくすぐってくるし、尻尾も激しく振ってくるから腹の辺りがむず痒い。


「ココ、俺の背中側に移動できるか?」


このままでは逆に危ない。力が抜けちゃいそうだわ。


「わかった」


俺の指示を受けたココがこっちを見たが、やはり表情は変えてなかったけれど、彼女の瞳はとてもキラキラしていて凄く楽しそうなのは伝わってきた。


シャカシャカと細かく手足を動かして俺の体の反対側にまわるココ。

こんな上空でそんな動きをするなんて・・・この子は結構豪胆な性格をしているのかもな。


そしてしっかりと俺の首に腕を回してホールド状態になったココは。


「あるじ!」


と言って自分の体を揺さぶる。

え、それってもしかして「行け!」って言ってる?まるでジョッキーが馬にラストスパートを促しているような感じの動作だけど・・・。


「あるじ!」


あ、はい。わかりました。行きます。


「しっかり掴まってろよ!ココ!」


俺の後頭部に返事代わりの鼻息がかかる。

そして俺が速度を上げ、その場で旋回したり急上昇や急降下をするたび、声をあげずとも色々な仕草で興奮するココを背中で感じた。


「ご主人様!そろそろ・・・」


「スマンスマン。後ろのお客様がせがむもんでついな。何かあったか?」


「えっと・・・ウィドーさんが・・・」


「あ」


オリヴィエの視線を追うと、その先にはミーナに背を支えられてなんとか飛行を維持し、グロッキー状態になっていたウィドーさんの姿が。


どうやら彼女は、魔法を使った時に俺が指示を出さなかったもんだから誰の手も借りずに飛行を試みたみたいなのだが、俺が急にアクロバティックな動きをするもんだからそれについていこうと必死になっていたらしいが、最後は断念してミーナの介護を受けることになったようだ。


「ごめん、ウィドーさん」


俺は彼女に近寄って謝罪するも、「大丈夫」という言葉を全然大丈夫そうじゃない顔で言われた。


「とりあえず降りようか。領主館に行くときに宿屋らしき建物があったからその近くの路地へ行こう」


俺が高度を下げ、みんなもそれに追従して目的の場所へ降り立つと、ココがシャカシャカと俺の背中から降りていき、


「ウィドー、ごめん」


すぐさまウィドーさんのところに駆け寄って謝っていた。


「大丈夫さね。おかげでちょっと上達したくらいさ」


強がっているのは見え見えだが、なんとかココに安心してもらおうというウィドーさんの優しさが滲み出ている。

ココもそれを感じ取っているようで、そっとウィドーさんの手を繋いでいた。






ほっこりする光景ではあるが、とりあえず宿に入ってこれからのことを全員に伝えなくてはな。

たぶん既に数人は俺の意図に気が付いているだろうが、ここはちゃんとみんなで意思統一をし、同じ方向を向くべきだしね。

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