第160話 ワルカ・ラス・シーシャーク
勢いよく扉を蹴破って領主のもとへと向かおうとした俺だったが、よく考えてみたら俺は肝心の領主の居場所を知らなかった。
どうしようかと思ってダメもとでここのメイドであるサリナに聞いてみたのだが、彼女も子爵のココに対する行いを知ってかなり怒っていたようで、あっさり領主の居るだろう場所を教えてくれた。
ちなみに扉を吹き飛ばした時に発生した音を聞きつけて計三人の兵士がやってきたが、そいつらには拳で一撃加えて悶絶している所に俺とウィドーさんでスリープの魔法をかけて眠ってもらった。
この魔法は名前の通り眠りの状態にする魔法なのではあるが、魔物に使っても効果がなかったり、効いても攻撃を加えるとすぐに起きてしまうので、現状火力充分の俺達には不必要な魔法であまり使わなかったのだが、こういう時には結構便利だな。
一度夜にスッキリ寝れるかと思ってウィドーさんにかけてもらったことはあるんだけど、レベル差があるからか、どうやら俺には効かないみたいだった。俺からウィドーさんにかけたらぐっすりと気持ちよさそうに眠ったからたぶんそうなのだろう。
「あ、あの、サトル様!私も・・・ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
場所の説明をし終わったサリナだったが、俺達がいざこの場から動こうとした時、突然の加入表明のようなことを言ってきたが、これはうちのパーティーに入るということではなく、領主の所についていってもいいか、ということだな。
「いいよ。ここに居たら逆に変な誤解を受けるかもしれないしな」
ないとは思うが、実際に兵士が三人も気を失っている状態になっている場所に残していった方がそういうことになりかねない。
領主を害そうとしている俺らと一緒に居ること自体が現状一番の罪になることなのかもしれないが、それは領主側の意見なので俺がしっかりとこの件を片付けさえすれば問題にすらならないはずだ。
結局サリナが同行することで案内は不要となった。
こうするなら最初から同行の提案をしてくれればとも少し思ったが、道を教えているうちに決心がついたのだろう。人の行動ってのは常に理路整然としているものではないからしょうがない。
道中、メイドを先頭にゾロゾロと見知らぬものが歩いている様子にすれ違う人が不信感を持つかなとも思ったが、特にそんな素振りもなかった。
領主館の中とはいえ、知らない人間が出歩くことなどよくあることだろうし、ましてや今はメイドが案内しているから特に不思議に思うような光景でもないのだろう。
これが戦時中とかだったら違うのだろうが、帝国は百年以上そういったことは無いって話だしな。
しかし・・・結構歩くなぁ・・・。
なんで領主に呼ばれた俺達を領主からこんなに離れた場所に案内するのかね・・・。あの執事・・・態度がなってないだけじゃなく、その仕事まで満足にできない奴だったか・・・。
そして俺達が何度目かの曲がり角に差し掛かった時、
「ホレホレ、私が相手をしてやろうと言うのだ、光栄であろう?」
「いや・・・!おやめください、領主様・・・!」
その先から漏れ出る声が聞こえてきた。
・・・なるほどぉー。「領主は忙しい」ね・・・。一体ナニに忙しかったのかな?マジでクズ野郎の王道みたいな台詞を吐きやがって・・・。頼むからこれ以上俺達の怒りゲージを上昇させないでくれ。このままじゃ俺達も知らない未知の超必殺技みたいなのが発動してしまいそうだぞ。
ドン!
わざと大きな音を立てるように扉を開く。
蹴破っても良かったんだけど、あれだと力加減が難しくてさっきみたいに飛んでいっちゃったら領主はいいとして、近くに居るだろう女の人を巻き込みかねないからな。
「誰だ!ここをどこだと思っている!!」
「知っとるわ!ボケェ!」
まさか自分の館内においてこのテンションで怒鳴り返されると思っていなかった領主と思われる目の前の色白で小太りの装飾がゴテゴテとついた趣味の悪い男は、相手が意識外の行動をとってきたことで驚きの表情をとったまま固まっていた。
予想通り近くにいたメイドと思わしき若い女性は、その隙に領主の手から逃れ、少し乱れてしまっていた自分の服を恥ずかしそうに正しながら部屋の出口があるこちらへ小走りできた。
サリナが心配そうにして彼女を出迎え、少し震えて肩をすぼめて小さくなっている彼女を優しく抱き寄せている。
視線を正面に戻して鑑定してみると、男の名前欄には「ワルカ・ラス・シーシャーク」と書いてあったので、こいつが領主なのは間違いないようだ。
しかし、コイツの職業・・・村長Lv21て・・・。領主って村長扱いなん?
貴族という職業がないというのはカルロを見て分かっていたことだが、よりによって村長かよ。
「な、ななななんだ貴様はぁ!私を誰だと思っている!」
「ここがどこか分かってるならお前のことも知ってるに決まってるだろゴミカスゥ。お前の脳みそはゴブリン以下か?この白豚領主が」
「しろぶ・・・こ、この・・・!」
そのまま爆発するんじゃないかと思うくらいに顔を真っ赤にする領主。
村長はその身を犠牲に村を守るため、実は自爆のスキルを持っていたりするのかな?それならちょっと見てみたいからやってほしいんだけど。
「ラスカ様!」
「領主様!」
執事とラルフが同時に、それぞれ別々の方向からこの部屋にやってきた。
「こちらは使徒様であらせられるサトル様です!」
「これは一体どういう騒ぎなのです?私は部屋でお待ちいただくように言ったはずですが」
ラルフは領主の様子を見てそれを諫めるようにと、それに対しナードは自分の言う事を聞かなかった俺達に腹を立てていた様子だ。
騒ぎを聞きつけてやってきただろう二人はやって来た方向と同じくらい別ベクトルを持った話を口にした。
「コイツが・・・」
小声で聞こえないようにしてるつもりだろうが、聞こえてるからな、それ。
「どういうつまりか聞きたいのは俺達の方なんだが。忙しいからと待たされたのに、その当人は自分の部屋で女と乳繰り合っていたぞ」
俺が文句を言ってきたナードに領主のことについて指摘すると、ナードは少し部屋の様子を目先だけで見回したのち、
「・・・・・・ワルカ様は使用人にこの館で働くうえでの心得をお教えくださっていただけだと思いますが」
と、冷静に言ってきた。
「そ、そうだ。それにここは私の領地であり領館だ。いくら使徒様とはいえ、ここでの細かい行為にまでご指摘いただかなくても結構ですぞ」
ナードの無茶苦茶な言い訳にのっかって強気に発言してくる領主のワルカ。
「貴様ら・・・それ以上の無礼は・・・」
「よせ、アンジュ」
領主側の態度に我慢が出来なくなり、前に出そうだったアンジュを手を出して制す。
「まあ別に俺は元々領地の事に口を出すつもりはない。それより、お前が俺をココに呼び出したんじゃないのか?」
俺が気にしないフリをしてそう言うと、自分の意見が通ったことに気をよくしたのか、ワルカはニヤリと汚い笑みを浮かべた。
「そうです、私が部下にお越しいただくようにお願いしてくるように言いました」
お前が仕向けたゴリラはお願いなんてしなかったけどな。「私が」の部分を強調している意味もわからん。別に俺がここに来たのはお前の手柄でもなんでもないだろ。
「んで、用件は?」
さっさと進めろ、気持ちを抑えるのだって大変なんだ。
「使徒様には高潔なる貴族の血筋である我がシーシャーク家へその加護を授けていただきたく!・・・今回はお越しいただきました」
何をそんな声高らかに自分の家を自慢した上で厚かましいことを言っているんだこの豚は。
「断る」
俺は両手を広げて歓迎するかのようなポーズをとっているワルカに、きっぱりと拒否の意思を示した。
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