第158話 出迎え
「なんか・・・大きいですね・・・」
俺達はラルフのくれた情報をもとに領主館を目指して歩いてきたが、それはすぐに見つかった。
街の中心からやや東に寄っているということと、教えてもらった地点から大体の方向を教えてもらったくらいだったから、もう少し探すことになるかもしれないと思ったのだが、予想に反してあっさりと到着した。
何故なら、周りの建物の規模感がおかしいと思ってしまうくらいに、領主館だけがやたら豪華で異彩を放ちまくり、周りの景色から完全にういていたからだ。
ラルフもこれを知っていたから案内は大体でも大丈夫だと思ったのだろうな。
「街の大きさに見合わぬ領主の建物・・・。これを見るだけでそのなんちゃらとかいう子爵の質が窺えるな」
アンジュの言う通りだな。元々ここの領主の評判はカルロから聞いていて知っていたが、これは俺の予想を上回る感じかもしれんな。
「あれ、っていうかアンジュは子爵のことを知らんのか?」
トレイルで活動していたのだったなら、領は違うとはいえ地理的に近いこのグラウデンの知識もありそうなもんだけど。
「噂程度にはな。だが、グラウデンは実入りの良い討伐依頼も護衛依頼もあまりないんだ。だから私はトレイルから南には足を踏み入れた事は無い。この街以南も海とその海沿いに小さな村が一つあるだけだからな。護衛対象となる商人の行き来も少ない」
え?海があるなら魚を・・・ってこの世界の輸送じゃ鮮度を維持できないか。
それに海の生き物って陸のものよりも大型化しやすいだろうから、魔物のいるこの世界じゃとんでもないのがいそうだよな。だから船を使っての輸送は危険すぎてあまりできないのかもねぇ。
この街もあまり裕福そうには見えないしな。この領主館以外は・・・。
街に金が無ければそこから出る依頼の額も低くなってしまうだろうし、アンジュのような高レベルの冒険者じゃなくても手を出したくなる依頼は少ないのかもね。
「お待ちしておりました」
俺達が領主館を見上げていると、銀髪のまさに執事服、といったものを着た男が後ろに女性二人を引き連れて門の中から声をかけてきた。
後ろの女性二人はメイドだろうか?
男の方はしっかりとテンプレの正装をしているから一目でそうと分かったが、女性達は制服というよりも、それぞれデザインの違う私物の作業着みたいなものを着ていたので分かりづらい。
でもカチューシャだけは揃いのものをつけていたから、きっとそうなのだろう。
「みなさんお揃いで。・・・失礼ですが、みなさんそのお召し物のままで領主館へと入られるのですか?」
え?別にそんなみすぼらしい格好ではないと思うんだけど。
たしかに貴族が着るような服ではないとは思うが、そんなに言われるほどのものではないと思うがね。ファストの服屋で普通に買ったものだし。
・・・もちろんあのお方ではなく、俺が自分で選んだものだぞ。
「この服じゃダメなのか?というか俺達を呼んだのは・・・」
「ココちゃん!?」
俺が執事に抗議しようとしたら、男の後ろにいたメイドの内、右側に居た方が俺の足元につかまってそこから半身だけ体を出していたココを見つけ、駆け寄ろうと・・・、
「サリナ!!」
したのだが、執事に怒鳴られて出しかけた手と足を引っ込めた。
「控えてなさい!・・・私の指示もなく勝手に前に出るんじゃありません」
「す、すみません・・・」
シュンとして俯くサリナと呼ばれたメイドだったが、尚も視線はココに向けられていて、かなり気にしているようだった。
ココの知り合いなのかな?でもなんで領主館で働くメイドに知り合いがいるんだ?こういうのって住み込みで働くもんじゃないのかな。
まぁ住み込みだろうが街には買い物とかで出るだろうからその時に知り合った・・・とかなのかね?
それにしてはココは彼女の事を見ても怪訝な顔をするだけで全然俺の足から離れようとしないけど・・・。
「ったく、これだからヤツの選んだメイドは・・・」
しかしこの執事・・・感じ悪いなぁ。一回くらいなら殴ってもいいかね?
「さて、使徒様とお連れの格好はまあ・・・いいでしょう。それでは案内いたしますので、私の後に着いて来てください」
話し口調は敬語を使っているのだが、敬われているといった気分には全くならない。むしろ見下されている感じさえする。なんなん、こいつ。
「そうそう、決して館の調度品類にはお手を触れないようご注意ください。どれも高価な品ですので」
・・・俺達が触ると汚れるとでもいいたげだな・・・。そのチョロっと生えてる口髭を引きちぎってやろうか。それともそのオールバックのど真ん中をウィンドカッターで刈ってやろうか?
「・・・ご主人様、許可をお願いします」
目ぇ怖ぁ!!
どぅどぅ・・落ち着いてオリヴィエさん、ほらヒッヒッフーって。
腰の短剣に手をかけるのをやめなさい。気持ちはすんごいわかるけれども。殺しはアカン。せめて子爵に会う用事が終わってからにしよう。
「まあ子爵の執事程度ならばなんとでもなろう。私に命令してくれれば誰にも気が付かれずに始末してやるぞ」
出てます。アサシンアンジュが出てきちゃってます!
少しはおとなしく控えてるミーナとウィドーさんを見習って・・・あ、二人共近所のコンビニ前でいつもたむろしているヤンキー達みたいな目をしてらぁ・・・。
「まぁまぁ、判断がはやいのはいいことだが、あいつもああ見えて実はいいやつってこともあるかもしれないぞ」
よくあるじゃん、最初は嫌な奴だと思ったんだけど、何かのやむを得ない理由かなんかがあってそうなっていただけっての。・・・ちょっと無理があるか?
「・・・どうなさいました?来られないので?」
オメェの弁明をしてやってたんだろうが!今てめえの命は五百個くらいあっても足りないような状況だったんだぞ!
「・・・今行く」
俺が怒気を必死にこらえて渋々執事の後をついて行くと、オリヴィエ達も厳しい目つきのまま、俺の後についてきた。
領主館の中に足を踏み入れると、その華美な内装に驚くと同時になんか呆れてしまった。
無駄に煌びやかな装飾に調度品の数々・・・カルロの館に入った時も驚いたが、あちらには品があったけど、ここのものはどれも豪華だが統一性もなくただゴテゴテしたものを並べているだけに見え、とてもじゃないが品があるとは思えない。むしろ下品。見ていて気分が悪くなる。
客を迎え入れるためのものってより、なんか「俺って凄いでしょ?」ばかりが全面に出過ぎててイライラする。
そんな気持ちになりつつも、後ろを振り返ることなく前を行く執事に黙ってついていくと、俺達は一つの部屋に入るよう促された。
「ここで少々お待ちください。我が主は忙しい身ですので」
まるで俺達が暇人みたいな言い方するな。なんでいちいちカチンとくる言葉を付け足すんだ、こいつは。
もしかしてこれは俺達がどれだけ冷静さを保てるかをテストされてるんじゃないのか?
・・・って、もしそうだったんなら逆になんでそんなことされなあかんねんってなるだけだよな。試される意味わからんし。
俺達の世話役なのか、はたまた監視役なのかは知らないが、さっきのサリナと呼ばれていたメイドだけを部屋に残し、執事は一礼もせずに扉を閉め、もう一人のメイドと共に去っていった。
というかあいつ、執事として客人を迎えるマナーがまるでなってないんじゃないか?
ここの上司の教育は一体どうなってるんだ。ったく・・・。
「あの・・うちの執事長が失礼を・・・申し訳ございません」
扉がしまってすぐ、俺達と一緒に部屋に残されたサリナが謝って来た。
あいつはまさかの上司でした。終わってんなー。
「アンタも大変だな・・・それより・・・」
俺はずっと俺の服の裾を掴んでいるココに目を落とし、
「キミはココを知っているのか?」
さっき声をかけようとしたのはこのサリナだ。
ココの知り合いならば、何か知っているはず。
丸洗いの時に母親の事も聞いたのだが、ココは不思議そうな顔をするだけで何も答えてくれなかったので、俺は勝手に亡くなったものだと判断したんだが、実はそうじゃないかもしれないしな。
「はい、存じております。ココちゃんは・・・」
サリナは悲しそうな顔でココを見つめ、さらに続ける。
「今の執事長であるナード、その前任者であるテイザーの・・・ただ一人のお子様です」
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