第155話 外(下)道
シンディによると、どうやらデオードはファストに来るまでの野営で、あろうことか騎士団長の立場を使って彼女に関係を迫ったようなのだが、それをキッパリと断られたデオードはその後とても不機嫌となり、ずっと細かい嫌がらせをしてきたらしい。
ファストについても使徒である俺に面会する時は街で待機しろという意味不明な命令をしてきた。おそらく使者の任を一人で成功させたというしょうもない功績が欲しかったのでしょう、とはシンディ談。
そしてファストまでの旅程で雑に扱った自分の馬を使い潰したデオードは、お前のをよこせと言い、シンディの馬に乗って一人でグラウデンへ帰って行ったらしい。
元々クソゴリラだと思っていたのだが、どうやら俺の見込み違いだったね。あいつはクソゲロゴミブタゴリラだったようだ。
シンディから聞いたあいつのやることなすこと全部クソガキレベルでしょーもなすぎて、もはや賞賛にすら値するかもしれん。しょーもなオブザイヤー候補ナンバーワンやろ。
さらにあいつは去り際に、五日後に控える子爵の生誕祭には必ず出席しろ、遅れることは許さん、とか言ってきたらしい。
トレイルへ向かってから南下する通常のルートだと普通の旅程でも五日以上かかるのに、走れない馬を連れた状態でそれ以上の短縮など出来るはずもなく、シンディは仕方なく行きで利用した森の中を通るルートを使ってきたと・・・。
「うわぁ・・・聞けば聞くほど胸糞悪い話が出てくるなぁ。むしろそこまで徹底してカスなことばっかりできるのは逆に尊敬できるわ」
そんなんできんやん普通。
「無礼が服を着たような人だとは思っていましたけど・・・酷すぎですね」
「冒険者でも中々いないぞ、こんなに等級の低い人間は」
「騎士失格どころか名乗るのもダメだと思います!」
シンディの話を聞いたみんなが口々にデオードの批評を出していく。全員一致の★無しですので、テナントだったら見事出店の翌月に撤退レベルです。おめでとう。
「つらかっただろう?ちょっと待ってなよ、今治してやるから・・・」
そんな中、ウィドーさんは一人、首を下げて元気のない馬に向かって優しく話しかけ、魔法の詠唱を始めた。
「・・・サナトリウム!」
疲労回復の魔法であるサナトリウムを使用すると、馬はそれまで瞼も重そうにしていたのが嘘のように元気を取り戻し、嬉しそうに首を上下させてウィドーさんに頬擦りしはじめた。
「おお!貴女は治癒魔法を使えるのですね!さすが使徒の従者様です」
マルクがウィドーさんの魔法で元気を取り戻した馬をさすりながら「よかったな」と声をかけた後、ウィドーさんにお礼を言っていた。
「しかし、あのデオードが関係を迫ってきた時に、断られたくらいでよくすんなり引き下がったな」
・・・・・・あれ?俺はシンディに話しかけたつもりだったのだが、返事がない・・・。っていうかキミ、どこ見てんの?
「・・・え?すいません、何か言いましたか?」
やっぱり聞いてなかったんかい。
「いや・・・ゴリラが君に迫った時に、断わられたくらいでよく引き下がったな・・・と」
「ああ、制圧しましたので」
「え?」
「制圧しました。逆上して飛び掛かってきましたので。正当防衛です」
ワァオ、べりーすとろんぐれいでぃデスネー。
そうだよな。あいつが自分の立場を利用して手籠めにしようとした部下に怒られたからって、「おーすまんすまん」ってなるわけないもんな。
しかもキミ、なにげに俺がデオードのことをゴリラ呼びしたのに何一つ戸惑うこともなく、むしろそれが当たり前なような感じで対応したよな?
団員が騎士団長を簡単に制することが出来ちゃうのは問題だと思うんだが、なんせあいつはレベル1だしな・・・。
このシンディはラルフと一緒で剣士レベル6だからいくらガタイがよくてもそのレベル差を埋められるほどじゃないだろう。
「団長は訓練もおろそかにしがちですからね」
俺が呆れた様子を見せていたので、何を思っているのか伝わってしまったのだろう。シンディはその理由を明かしてきた。
「もしかして、あいつって魔物討伐とかも何かしら理由をつけて参加しなかったりする?」
前に魔物が出たら討伐を要請すると言ったような話はあったからな、騎士団にもそういった依頼は来るだろう。
冒険者はこの世界だとレベルが高くないしな。
「ご存じなのですか?」
「いや、そうなんじゃないかと」
予想のような言い方をしたが、あいつのレベルを知っている俺はほぼほぼ確信を持っての質問だったがね。
「そうですね。私の知る限りだと、デオード団長が討伐依頼に自ら赴いたというのは見たことも聞いたこともないですね。いつも、そんな仕事は副団長の仕事だ・・・と」
「それで、副団長が心配なキミはいつもついていっている、と」
うわ、その目で睨まれると怖いな。元々鋭い目つきだからそう感じるだけで、彼女は睨んでるつもりはないのかもしれないけど。
「・・・使徒様は心も読めるので?」
「いや、そうなんじゃないかと」
さっきと同じセリフだが、今回は少しニヤケ気味になってしまった。
だって・・・わかりやすいんだもん。レベルが同じってのもあったが、あれは見てりゃすぐわかる。
ほら、俺以外の女性陣にだってバレバレでニヤニヤしてる・・・あれ、オリヴィエだけは不思議そうな顔してらぁ。
ってあれ?何でオリヴィエ背負い袋なんて持って来てんの?ダンジョンに行くわけでもないのに・・・。
慌てて準備させちゃったからついいつもの調子で持ってきちゃったのかな?お茶目さんやねぇ。
「シンディ」
「ひぇい!?」
俺達を睨んでいたら後ろから急にその原因となる人物から声をかけられたシンディは、突然背中に冷たいコンニャクを突っ込まれたようなリアクションを見せた。
「ん?どうした?」
「コホン・・・何でもないです。それより、どうなさいました?」
動揺を悟られないように目を伏せつつ、一つ咳払いをしてから呼吸を整え、元に戻る。
「いやな、少し遠目からキミを見て思ったんだが・・・シンディ、お前・・・」
「な、ななな・・・何ですか!?」
せっかく戻した動揺がラルフによってカムバックさせられてしまったシンディ。ほらね、わかりやすい。
「お前・・・まさか・・・」
お、やっぱりラルフ君も気が付きましたか。そりゃああれだけわかりやす・・・、
「怪我してるんじゃないか?」
よし、君には鈍感主人公の称号を与えよう。・・・ほんとにいるんだな、こういうやつって。
でも、たしかによく見るとシンディは所々に細かい擦り傷や痣などが見てとれた。傷から察するに、ゴブリンによるこん棒での打撃痕ではないだろうか。
たしかにここまで森の中を疲労した馬を引きながら歩いてきたんだったら魔物と遭遇して逃げるわけにもいかないだろうしな。
シンディの負った傷は恐らくその時に出来たものなのだろう。
「・・・・・・」
ラルフの口から出た言葉が彼女の望むものではなかったものの、それが彼女の身を案じてのものだったので、少し複雑そうな表情をとるシンディ。
いや、徐々に怒りの方がまさってきたのか目つきがちょっとづつ厳しくなってきた・・・。
まあまあ、落ち着きなさい。ほら、傷は治してあげるから。
「ヒール」
俺がシンディに手をかざして回復魔法を使うと、彼女の傷がスゥっと消えていく。
シンディは瞬く間に治っていく自分の傷を見て少し驚くが、さすがに慣れてきたようで少し長めの瞬きをすると、クールな表情へ戻り、
「ありがとうございます」
と、俺に目礼しながら感謝の言葉も口にした。
「サトル様、部下のためにわざわざありがとうございます」
おし、いつまでもここでだべっていてもしょうがないから、そろそろ行くか。ちょうど馬の様子を見ていたラルフも戻ってきたしな。
「気にするな。それで、俺達はこれからグラウデンへ向かうが、シンディも一緒に・・・と言いたいところだが、さすがに馬とは一緒に飛べんな」
練習すればいけそうな気もするけど、さすがにぶっつけ本番は無理だ。なにより馬がびっくりして暴れてしまいそうだしな。
「私は馬を治してもらいましたから、このまま共に向かいますので大丈夫です」
「で、では私も彼女と一緒に・・・」
「いや、お前は俺の案内役なんだから駄目だろ」
何を言ってんだお前は。そういうセリフは今じゃなくて他の場面で彼女に言うべきだろ。
「そ、そうだ!私の代わりにシンディが案内を・・・」
「使徒様への要請は子爵からの直命なのでは?」
「う・・・そ、そうだが・・・」
「では、副団長がいくべきですね」
部下に自分の役目を押し付けようとしたラルフだったが、見事な正論カウンターの一撃でノックアウトしたラルフ。
「ほれ、行くぞつかまれ」
俺がそういうと、集合をかけずともちゃんと察してくれた他のみんなは、サッと俺の魔法の効果範囲内に集まってくれた。
「いってらっしゃいませ」
ちょっと楽しそうだな、シンディ。Sな人なのかな?
「え?も、もう?まだ心の準備が・・・」
「フライ」
有無を言わさず魔法を発動し、体から重力が消えていくのを感じ、制御を開始して上空へ勢いよく飛び上がる。
「ま、待って・・・!!うへあぁぁぁぁぁーーー!!」
うるさいなぁ。
もう慣れろや。副団長だろぉ。
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