第154話 人影
「ひいいぃぃぃぃわああああぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
ちょっと背中で太った頭の薄い芸人さんのギャグみたいな叫び声をあげるのやめてくれんかな。俺結構あの人の番組好きだったから思い出してクスッときちゃったじゃない。
「ちゃんと捕まってろよ、あんまりゆっくり行き過ぎるとMPが持たないからな」
「え、えむぴーってえええぇぇぇぇーーーーー!!?」
ラルフ君は結構ひょうきんさんだなぁ。
こんな状況でもツッコミを忘れないとは。素質あるよっ、キミっ!
「グラウデンはこっちの方向でいいんだよな?」
背中の男は今俺の質問に答えられる状態ではないので、俺は近くを飛行していたアンジュに聞いた。
「グラウデンはトレイルの南だからこの方向で大丈夫だ。というか、もう見えているぞ」
「え?」
どこよ、そんなん・・・あ、もしかしてあのとおーーーーくの方にうーーーっすらと見えている、アレのことかな?あんなん言われなきゃ気付かんだろ。
「距離的には・・・50km・・・いや、もっとあるのか?」
キロ単位を上空から目算した経験などないから数値は本当に適当に言っただけだ。正答している自信など微塵もない。
こんなゴーゴルアースみたいな光景で距離を測れるのはパイロットとかこの景色に慣れている人たちだけだろう。
家から飛び立ってまだ10分ぐらいなのに、もう森を抜けたな・・・というか、
「グラウ大森林って、俺達が飛んできたこの方向だけ面積が狭くなっているんだな。でも、だったらなんでそこに街道を通さず、わざわざ森の中にのばしているんだ?」
森はファスト西側の街道周辺以外のすべてに広がっているが、南東だけ極端に距離の短い場所があって、その先に草原が広がっているのだが、何故かトレイルに続く街道はそこを通らず、森の中を通っている。俺達がトレイルに行くときに使った道だ。
あれを作るのには街道分の木を切る必要があっただろうに・・・。
「この下に広がるグラウ大平原はエンシェントトレントの縄張りだからな。少数でたまに通る位なら問題ないが、街道なんて作ったら契約違反で周辺の街や村は滅ぼされかねんぞ」
うへぇー・・・何それ、こっわぁ。
ってか契約違反ってことはそいつとは意思疎通が出来るってこと?トレントってたしか木じゃなかったっけ。
ん?木?草原に・・・。そういえば、俺がこの世界に来た時・・・。
いやいや、考えすぎか。実際、俺は襲われてないしな。方向的にはこっちの方だった気もしないでもないけど。
そもそもあの木は大きかったは大きかったけど、街を滅ぼせるようなサイズじゃなかったと思うし・・・。
あ、ちょっとラルフ君。もう少し体のポジションを変えてくれんかね。
キミのラルフが俺の太腿に当たって気持ち悪いんだけど。
「そんなん居るのによくその付近に街やらなにやらを作る気になるな・・・」
怒らせたら一方的にやられるだけなんて、どっかの平和ボケした国じゃあるまいし、恐ろしくておちおち寝てもいられんのでは・・・?
「普通のトレントならただの脅威だが、エンシェントトレントは結構話のわかる精霊だぞ。普段は温厚だし、約束さえ守れば大人しいものだ。強い魔物は恐れて近寄らんから他の地域よりも安全なくらいだ。過去に馬鹿が手を出して街ごと潰されたことはあったがな」
なるほど・・・。まさに触らぬ神に祟りなしを地でいっている感じなんだな。
契約というものがどんなものなのか知らんが、それさえ守っていれば脅威をよせつけないような存在でもある・・・と。
「へぇーそれだったら一度上空から見て・・・ん?なんだあれ・・・」
人が馬を連れて歩いてる。
まるで老犬を散歩しているみたいに、トボトボとゆっくり歩く馬の手綱を持って一緒に歩いている人影が見える。・・・なんかどっかで見た服装だな。
「あ!アレは!!」
ずっと俺の背中で固まっていたラルフだったが、俺の言葉に反応して視線を同じ方向に落としたようで、俺と同じ人影を発見し、声をあげた。
「サトル様!あれは私の部下です。・・・申し訳ないのですが、彼女のもとに降りていただくことはできないでしょうか?」
う・・・ただ部下だと言われたらワンチャン聞こえない振りもしたんだが・・・女性と聞いたらジェントルマンサトルとしては降りないわけにはいかなくなった。
策士やな、ラルフ君。
「みんな!一度地上に降りるぞ!」
上空特有の風にかき消されないよう、大声で全員に伝えると、それに頷く形で返事を見せてきた女性陣は、高度を落としていく俺についてきた。
高度を下げていくと、上空ではわからなかった人影が、次第に女性の特徴を見て取れるようになってきた。
赤髪のショートヘアの女性は鎧を装備しているためか、胸の特徴はあまりなかったが、女性特有の体のラインはしっかり判別できた。凛とした顔立ちはとても端整で少し釣目なせいか、少しきつめな印象を受ける。
「おーい!シンディ!」
急に草原で自分の名前を呼ばれた女性は体をビクつかせ、手綱を手放して腰の剣に手を添え、身構えながら周囲に首を振って声の主を探している。
「ほいっと・・・」
彼女がこちらに気づかないまま俺がすぐ近くに着地したため、彼女は身構えた格好のまま、切れ長の目を大きく開いて丸くし、まさに目が点状態となっていた。
「なっ・・・なななな・・・!?」
誰かが着地する度にもれなくビクッとするシンディ。
驚いてるねぇ。まぁ人を背負った人がお供を連れて次々に当たり前の反応なんだろうけど。
「な、なんだお前たちは・・・何者だ!」
お、なんとか立て直したようだ。まだ相当混乱している様子だけどね。
「シンディ!俺だ、ラルフだ」
「副団長!?」
俺達に警戒するシンディを落ち着かせるため、背中のラルフが降りて俺の影から彼女に姿を見せた。
「・・・足、どうしたんですか?」
ほんとだ。プルプルして生まれたての小鹿みたいになってる。すぐに姿を見せなかったのはそれが原因か。
「い、いや・・・これは何でもない大丈夫だ」
それ以上は聞くなというかのように掌を彼女に向けるラルフ。
「・・・そちらの方はもしや」
「そうだ、コチラがトレイルのスタンピードを死者も出さずに解決してくれたという・・・神の使徒、サトル様だ」
「やはり!」
ラルフ君から俺のことを聞かされたシンディは、「失礼しました」と警戒のために構えていた姿勢を解き、ピシっという擬音が鳴ったのかと錯覚する程綺麗な気をつけの姿勢をとる。
「お初にお目にかかります、私はシーシャーク子爵が騎士団所属のシンディと申します」
あれ、ラルフといい、この娘といい・・・あのゴリラの部下ってみんなあいつを反面教師としてるから他の団員はちゃんとした感じなのかな?
「あ、よろしく」
別に何の肩書も持たないニートの俺は自己紹介で言うべき情報のすべてをラルフ君に言われてしまったので、コミュ障みたいな挨拶になってしまった。間違ってはないがな。
「ところで・・・シンディはこんな所で何をしているんだ?デオード様はどうした」
「あのゴ・・・デオード様は先にお帰りになられました」
今一瞬ゴリラって言おうとした?それともゴミか?やはりあいつへの認識は世界を超えるのか。万国共通どころか二世界共通項だ。
「先に・・・?お前は団長の使者としての命を支援する任についていたはずだ。そのお前が団長についていなくてどうする」
「それは・・・」
最初こそ少し言い淀んでいたシンディだったか、何故かこちらの方をチラリと見てからは、彼女が何故団長と一緒ではなく一人でここに居たのかを真っ直ぐな目と姿勢でスラスラと、しかも簡潔でとても分かりやすく説明してくれた。
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