第151話 順位

「頑張りましょうね!サハス!」


「アン!」


「・・・ほどほどにな」


俺達は毎朝欠かさず来ているダンジョンへと今日はサハスも連れてやってきた。

危ないとは思ったが、職業の欄にレベルがあるのなら彼・・・じゃなかった、彼女も魔物を倒すことで強くなるはずだ。


それならば最初は戦わないでも俺達と一緒にいるだけで経験値は入るだろうし、強くなることはサハス自身の安全にも繋がるからな。上げておいて損はない。


「とりあえず今日はろく・・・」


「う゛ぅ~~・・・アン!」


「あ、こら!サハス!そっちは・・・止まりなさい!」


オリヴィエが手を伸ばして制止したのだが、サハスはそのまま走って行ってしまった。

すると、サハスが走る進行方向の先の草陰から一匹のゴブリンが飛び出してくる。


「おい!サハ・・・」


俺が止めようかと声をかけようとした時、サハスはゴブリンの首元に噛みつき、首の半分を食いちぎってしまった。

そのまま黒い霧となるゴブリン。


なんとサハスは一撃でゴブリンを倒してしまった。


「オンオン♪」


嬉しそうに二度吠えた後、こちらをドヤ顔で振り返るサハス。

あれは絶対「どうだ、アタイは強いだろ!」って言ってる。一人称は俺の想像だが、たぶんあいつは今そう思ってるぞ。


「サハス。ちょっとこっちへ来なさい」


俺の呼びかけに褒められると思ったのか、サハスは軽やかなステップでこちらに駆け寄ってきた。・・・そんなわけないのに。


「ハイ。そこでお座り」


「?」


小首を傾げないの。許してしまいそうだから早く戻しなさい。


「オスワリ!」


俺のいつもと違うトーンと声の大きさにビクッとし、慌てて従うサハス。


「クゥン・・・」


そんなスイートボイスを披露したってダ・・・ダメ・・・クゥン。


「・・・よし、後はオリヴィエ。頼んだ」


アカン。だから俺は犬派なんだってば・・・。

しかも今回は俺的には内心ちょっとまぁいいかとか思っちゃってる節もあるからイマイチ怒気を篭められん・・・。加えて、あの俺に怒られて哀しそうな顔・・・。せーの、ギブアップ。


「お任せください!」


あれ、オリヴィエさん。めっちゃ乗り気やん。サハスよ・・・アーメン。


「サハス、いいですか!まず、アナタはこの中で一番の新参者なのですよ!?それなのに私の制止命令を無視するなんて・・・」


オリヴィエの正論パンチのオラオララッシュが絶え間なくサハスにヒットしていく。しかも彼女の言葉は規律や連携の大事さだけでなく、サハスの身を案じた言葉が絶妙なバランスで混ざっている為、反論の余地もないほどに子狼の心を斜め四十五度の素晴らしい角度で抉ってくる。


「オリヴィエ、その辺でいいよ」


このままではサハスが愛らしい子犬ポジから立派な軍用犬みたいになってしまいそうな予感がしたので、俺はオリヴィエを止めることにした。


「そうですか?まだまだ言い足りないことがたくさん・・・」


「キャインッ!」


危険察知能力が爆発したサハスは、助け舟を出した俺の後ろに隠れる。


「サハスも充分反省したみたいだ。な?サハス」


「ウォン!」


今までで一番じゃないかと思う位の力強い返事が返ってきた。お前、それは今朝出すべきだったんじゃないのか・・・?


「わかりました。ご主人様に免じて今回はここまでにしますが、次は無いですからね?」


オリヴィエの目がキラリと光った気がした。

・・・なんか今、彼女に俺が説教くらう未来を幻視したような・・・。いや、そんなことはない!彼女は何年経ったってずっとさすごしゅ狐なんだいっ!

・・・だよね?オリヴィエ。


「クゥン」


おい、コラ。何で俺を慰めるかのように前足でポンポンしてくるんだ。


しかし、サハスは普通に強かったな。レベル1なのにゴブリンを一撃で倒したってことは、たぶん獣使いは主人のステータスが使役した対象にも影響を及ぼすんじゃないかな?じゃないと動物の・・・それも生後三週間の子狼が魔物を瞬殺できることの説明がつかないしな。


「どうやらサハスも充分ダンジョンでやっていけそうだな」


「そうですね、なんか既に最初の頃の私なんかより全然強い気がします」


ミーナがウチに来た時はまだ俺のレベルもそこそこだったしな。今の俺とあの時の俺じゃだいぶ差があるからそれはしょうがない。


「敵を察知する能力も備えているようだ。私と連携すれば組織された軍隊相手でも森へ誘い込めばいい地獄を創り出せそうだぞ」


やめなさい。地獄なんてつくっても美味しくないぞ!

アンジュなら簡単に錬成してしまいそうで怖すぎる。サハスを勝手にヘルハウンドにしないでくれよ。


「怪我をしたらアタイのところへ来るんだよ。すぐに治してやるさね」


「アン!」


いい返事だサハ・・・おい!お、おま・・・どこに飛び込んで!!ズルい・・・ズルすぎる・・・。俺は人生で生まれて初めて嫉妬の炎で狂いそうだ。俺もそんなプニプニに全身を包まれてみたい・・・。


「なんだい?そんな窮屈なとこが気に入ったのかい」


俺も俺もーって飛び込むほど理性は失っていないが、いないが・・・!

くそう、今夜思う存分飛び込んでやるからな。待ってろよ、プニプニ!



そして俺達は飯の時間まで6層で狩りを行った。

最近行っていた9層に行かなかったのは、サハスのレベルが上がってないということもあるが、8層以降になるとブライトブルが出現しないためだ。


サハスの為のミルクを確保しなきゃいけないのはもちろん、牛乳はいくらあってもいいからな。牛乳があればバターも出来るし、そろそろ万能酵母を使ってチーズ作りもチャレンジしてみようかとも思っていたところだったからな。


6層でやっていた時は主にランバードの卵狙いでやっていたからブライトブルのミルクはまだあんま在庫が少ないんだよね。

ウチの今のメインは揚げ物だからどうしても牛乳より卵の方が需要が高い。魚のフリット用に最近はタルタルも作って好評を得ているしな。


ブライトブルの肉は魅力的だが、いかんせんドロップ率が低くてな。それだったらランバードも同じくドロップ率の低い肉を落とすから、卵と同時に狙えるという理由でランバードを狙っていたのだ。ミルクは一個の容量も少なかったしね。


ちなみにブライトブルの通常ドロップは角、ランバードは羽だからそっちはもう大量にある。

角は今のところ使い道はないけど、羽はアンジュが自分の矢を作るのに使うと言っていたからそれもランバードを優先した遠因だ。


オリヴィエのおかげで俺達は戦いたい魔物を優先的に狙っていけたりするからほんと助かるよね。

しかも今回サハスが参戦し、オリヴィエとコンビで索敵をしていたのだが、どうやら音はオリヴィエ、臭いはサハスが得意なようで、オリヴィエの行き先をサハスが訂正することもあった。


そのおかげで更に索敵の精度は増し、音では判別しにくい状況でもサハスが足りない状況を補填し、かなりの高確率で狙いの魔物へと導いてくれた。

相性抜群。もう完璧って感じ。


「そろそろ・・・ですかね」


オリヴィエがお腹を摩りながら探索終了の時刻になったことを告げる。


「お、もうそんな時間か」


どれどれ・・・、



   名前

    サハス


   性別

    女


   年齢

    3週間


   種族

    ハイイロオオカミ


   職業

    サトルの眷属 Lv9



ふんふん、レベル9か・・・。

やっぱり9層と比べるとレベルの伸びは悪いけど、今のサハスの動きを見る限り、既にそこら辺のやつにどうこうできるようなレベルではないはずだ。

後半はもうすっかりみんなと連携した動きも出来ていたしな。ちょっとオリヴィエの指示にビクッとなるのは気になるが、それだけアレが効いている証拠でもあるってことだろう。






「それじゃ、帰るか」


「はい!行きますよ、サハス」


「ア、アン!」


動物がどもってるの、はじめて聞いたわ。

っていうか、キミ・・・すっかりオリヴィエの忠実なる部下みたいになってるけど、俺の眷属だよ・・・ね?


ねぇってば!サハスぅ?

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