第150話 理解
午後のはやい時間にサハスを洗うついでに初めて自作した石鹸、シャンプー、トリートメントを使用してから全員で風呂に入ったのだが、さすがにまだ日が暮れるまでまだまだ時間があったが、もうダンジョンへ行く気分でもなかったので、俺達はサハスと一緒に遊ぶことにした・・・のだが、俺が鬼ごっこやかくれんぼを提案したばっかりに、俺の家は瞬く間に精鋭達がしのぎを削る超人訓練場の様相を呈してしまった。
ルール説明のためにまず俺が鬼をやることにしたのだが、鬼ごっこではオリヴィエが変態機動を惜しげもなく駆使してきて全然捕まらんし、かくれんぼではアンジュはゲリラ兵のごとく気配を消しながら俺の移動経路を先読みしてポイントを的確に変えるもんだから全然みつからないという展開に・・・。
かといって逆にするとどこに行ってもピッタリついてきて逃げられないし、完璧かと思われたカモフラージュもあっという間に見抜かれるしで、フィジカル勝負では彼女らに全く歯が立たなかったので、悔しくなった俺はレベルをあげたことで器用になった手先をフル活用し、木を削って将棋盤と駒を作って遊んだのだが、今度はあっという間にルールとコツを掴んだミーナにボロ負けした。勝てたのはルールを教えながら打った最初の一回という結果に。
なんで駒の動かし方を教えただけでいきなり穴熊とか実践してきちゃうのか・・・マジで意味わからん。理解力と分析力凄すぎだろ。
まぁ当人達とその周りをウロチョロしてたサハスも凄い楽しそうだったからいいけどね。
振り回された俺とウィドーさんはくたくたの汗だくになったから、二人だけでもう一度風呂に入ろうかという話になったのだが、俺が服を脱いだ途端にそれを見た全員が脱ぎだし、結局はまた全員で入ることとなった。
その二度目の風呂から開始された大人のプロレスごっこは、かなりみんなのレベルが上がってきて、向こうからの攻めと連携がかなり凄いことになっていた。何回もKOされたが、反撃もたっぷりとし、ギリギリ判定勝ちしてそのまま熟睡した。スッキリ爽快。
そしてその翌日。
「ごしゅじんさまぁぁ~~」
「おお・・・凄いな」
ほぼ同時に全員目が覚めたのだが、オリヴィエの髪の毛がえらいことになっていた。博士コントの爆発オチみたいな寝ぐせ。肩につかない位の長さなのに、よくそこまで綺麗に広がるもんだねぇ。
「私もいつもより少し寝ぐせがついてます。髪の汚れを落として軽くなったからでしょうか?」
「私は全然平気だな」
ミーナは寝起きヤシの木という程ではないが、収穫寸前の稲穂くらいにはなっている一方、アンジュは本人が言う通り、全然寝ぐせがついてない。普段通りの綺麗なストレート。つまらんな。今度寝ている時にわざとくちゃくちゃになるように仕向けてやろうか。
「アタイはなんか逆に普段よりもハネ具合が落ち着いた気がするね。手触りもサラサラで凄いよ」
「あ、それは私もです!」
寝ぐせの形はそれぞれだが、みんな一様にいえることは髪の毛がツヤツヤのサラサラになっていることだ。
「これがシャンプーとトリートメントの力なんですね」
自分の髪を手櫛で何度も触りながら感想を言うミーナ。
「凄い・・・まるでデススパイダーの糸のようだ」
デススパイダーて・・・そこはシルクとかじゃないのか?もしかしてこの世界は蚕がいないのかな?あれってたしか人によって家畜化された種なんだよな。だとしたら同じような虫はいたとしても俺が知ってる蚕はこの世界には居ないのかもね。
「キャンキャン!」
ベッドから起き上がった俺の太腿に前足を乗せ、舌を出しているサハスの姿はもう完全にワンコだな。キミほんとに狼なん?
名前
サハス
性別
女
年齢
3週間
種族
ハイイロオオカミ
職業
サトルの眷属 Lv1
ちゃんと名前が俺が名付けたものになってるな。っていうか動物の性別表記も雄雌じゃなくて男女なんだね。
っていうかサハス、お前は雌だったのか。スマン。勝手に雄だと思ってたわ。
「ガウ!」
おこんナッツ。職業が俺の眷属て・・・そのせいなのか、言葉も完全に理解してる節があるよね、キミ。それにレベルもあるんだな。
「アン!」
賢いねぇ。よ~しよしよし。シャンプー効果でモフモフ具合も最高だな。獣臭さもなくなってもうパーフェクト手触りとなっているね。
まぁ意思疎通は出来るに越したことはないからな。いいことだ。
しかし生後三週間か・・・ほんとに生まれたばっかだったんだなぁ。
う~ん・・・。
「・・・どうしました?」
少し考え事をしながらサハスを頭を撫でていたら、それに気が付いたオリヴィエが声をかけてくる。いつもこういうとき真っ先に気が付くのはオリヴィエだ。さすがこの世界で俺のはじめてを捧げた女性だ。やりおるぜ。
「いやな、サハスは生後三週間らしいんだが、やっぱりこの位の時期はまだ母親の乳を飲んでる時期だよな?」
「そうですね・・・人族なら生後五か月程で離乳食となりますが、私は動物を飼育したことは無いのでサハスの場合はわからないです」
「たしか・・・狼は生後一ヶ月程まで母親が吐き戻したものを食べると本で読んだことがあります。なのでそのくらいまでは固形物は控えた方がいいかもしれないですね」
ミーナは随分幅広いジャンルの本を読んでいるようだけど、興味あるものを読むのではなく、手あたり次第手をつけるタイプなのだろうか。
「やはりそうか」
俺はストレージから6層と7層に出現するブライトブルがドロップするアイテムのミルクを取り出す。このアイテムは薄い膜に覆われていて内容量は両掌で受け止められるくらいだ。なので、
「オリヴィエ、手を出してくれるか?あ、両手を・・・うん、そうそう、そのままね」
「きゃっ」
俺は両手で皿状にしたオリヴィエの手の上でミルクの膜を破り、そこに注ぐと、それを見たサハスがすかさず舐めとり出した。
冷たい感触に少し声をあげたオリヴィエだったが、俺の意図を察するとすぐに優しい目をサハスにむけた。
「ふふ、た~んとお飲みなさい」
「かわいいねぇ・・・後でアタイもあげていいかい?」
「アン!」
「ハハッ、サトルじゃなくてサハスが返事したぞ」
「賢いですね。言葉がわかるのでしょうか?」
「サハスは俺の眷属になってるからたぶん言葉を理解していると思うぞ」
「「「「え?」」」」
サハスを見ていた全ての目が一瞬でこちらに向いた。
みんな驚いてるわ。ああ・・・すまんね。言うのすっかり忘れてたわ。
「ご主人様は動物を使役できるのですか!?」
「もう驚かないかと思っていたが・・・これはこれからも気は抜けんな」
「はたして慣れるもんなのかねぇ、これは」
「それは使徒様の力なのですか?それとも・・・」
「新しい職業である獣使いの力だな」
ミーナは自分の考察が合っていたことで「なるほど」と呟いていたが、他の三人は一様に驚いていた。
「獣使いか・・・そんな職業が・・・」
「あの母狼が最後の力で反撃したのがトドメになったようでな。それで取得できたんだ」
俺が窓の外から見える母狼の墓を見ながら言うと、みんなもそれを追う。
「あの母親の・・・」
「クゥン」
サハスまで母のいる場所を見て、寂しそうな声を一つあげた。理解出来てしまうことで生まれる哀しみはいいことなのか迷うところだが、別れを言えるという事は、きっと素晴らしいことなはずだ。
「この力はお前の母ちゃんが最後の力で残してくれたものだ。大切にしなくちゃな」
俺のその言葉をしっかりと吞み込んで自分の中で消化したサハスは、
「ワン!」
と、背筋をしっかりと伸ばし、力強く吠えたのだった。
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