第145話 進化と夢の魔法
毎朝のルーティーンとなってきているダンジョン探索を終えた俺達は、現在朝食をとっているところだ。
「今日の午後はどうする?ダンジョンへ行ってもいいけど、今の俺達はかなり強くなって安定してきたといえる状況だと思うから、何かやりたいことがあればそっちを優先するぞ」
今日も快調にオリヴィエによって次々に揚げられたとんかつへとお手製フォークを突き刺して、サクッといい音を鳴らしながらみんなに問いかける。
「やりたいこと・・・ですか?」
小首を傾げるミーナ。
「ごしゅひんはまの・・・んぐっ・・・ご主人様のやりたいことをやりましょう!」
いや、口の中の物を飲み込んでから喋りなおしたのは偉大なる進歩だが、それが無くなったから今みんなに聞いているんですよ・・・。
ほんとは昨日に引き続き、使ってみたい魔法を試してそれを自在に使いこなせるようにしたかったのだが、それは白紙にせざるを得なかったのよな・・・。
何故かというと、それは珍しく進言してきたシスに、そう忠告されたからである。
あれは今朝のダンジョン探索中でのこと・・・。
「アイスランス!」
魔法を発動すると、俺の頭上に四つの氷が生成され、それがみるみるうちに大きくなって槍を形作ると、ターゲットに定めたキノコ型モンスターのファングファンガー二匹と、羊のモンスターのスリープシープ二匹へそれぞれ飛んでいった。
ファングファンガーはあまり動かないが、だからといって放っておくと毒の胞子を飛ばしてくるし、スリープシープは直線的に突撃してくるのだが、たまに突然動きを停止して眠りの咆哮をあげてくる。
最初食らった時は突然強烈な眠気が襲ってきてびっくりしたもんだ。ちょっと昨日やりすぎたかな?とか反省してしまったが、その原因がスリープシープにあると分かった時はイラっときてついついオーバーキルしてしまったよ。
8層から出現するいやらしい特殊攻撃をしてくるこれらの魔物は、9層に来た今でも変わらず姿を見せてくる。
8層から変わったのは同時に出現する魔物が最大四匹だったのが五匹に増えたことだな。
魔法が命中した四匹は追撃したアンジュの矢とミーナの魔法、オリヴィエとウィドーさんの直接攻撃でそれぞれ黒い霧になった。
俺の魔法は現状まだ一撃で撃破とまではいかないものの、攻撃力に差があるオリヴィエとアンジュどちらの攻撃でも一撃で倒せたことからそれにかなり近いダメージを叩きだせてはいるようだな。
ちなみにさっき使った氷の魔法は魔道士になり、魔法で出す水の温度を変化させることが可能になったことで使えるようになった水属性の魔法だ。
水を氷に出来るのだからたぶん氷属性というのは無いのだろうな。
他にも魔道士になったことで火属性の魔法は他の属性と複合させて発動させることが可能となり、土魔法は魔法使いでは出来なかった「形状の維持」が可能になった。これで、あまりに複雑な形状でなければ魔法で建築のような真似事も・・・きっと練習すれば出来るようになるかもしれない。
これが結構難しくてな・・・ちゃんとイメージを固めないと形はよくても中身がスカスカでもろかったり、頑丈にすることに集中すると形がぐちゃぐちゃになって思っていた形にならなかったりするんだよな。
絵とか書ける人なら上手く頭の中で描けるのかもしれないが、残念ながら俺はそっち方面の才能は皆無なので、ちょっと苦手かもしれない。
風の魔法は特に変化させることが出来なかったが、雷属性の魔法が使えるようになったので、雷は風属性の進化枠みたいなものなのかもしれない。
これらの変化も嬉しいものだったのだが、さっきのように一回の詠唱で複数のターゲットを同時に攻撃できるようになったことは、かなり大きく嬉しい変化だった。
一度に発動できるのは同一魔法のみで、ファイアーボールとアイスランスを同時にとかは出来なかった。属性が同じならいけるんじゃないかと思ったがそれも無理だったから、複数の魔法を発動するというよりも、魔法のターゲット複数化といった方が正しいのかもしれない。
範囲魔法も同じのなら複数発動出来たしな。
ほんと、魔道士は凄いよ。その分消費魔力もかなり多いけどね。
あ、シス。
今確認したら魔道士のレベルが18に上がっていたんだが、新しく使えるようになった魔法はなんかある?
頭の中でそうシスに問いかけると、
「・・・・・・テレポーテーションが使用可能です」
テレポーテーションキターーー!!男だったら誰もが夢見た使ってみたい特殊能力第一位!(俺の中調べ)
使えるんじゃないかと思って額に人差し指と中指を当てて移動先を念じたことのあるやつは手を挙げろ!ハイ!!何回もやったことありまぁす!
いいんだよね、その瞬間移動ってことでいいんだよね!?ね!?
「・・・・・・・・・はい」
さっきもちょっと思ったけど・・・なんか質問から返事がくるまでに妙な間がない?いつもは即座に答えてくれるのに。
まぁいっか・・・。とりあえず俺は瞬時に場所を移動できるドリームマジックを手に入れたことは間違いないんだ。やっべぇ・・・ひっさしぶりに超興奮してるぜ。これはこの世界に来た時以来かもしれない。
じゃあちょっと試しに・・・、
「マスター」
ちょっと待ってて今俺はテレポーテーションを・・・、
「テレポーテーションを使用することはオススメ出来ません」
え?なんで?なんでそんなこと言うん?こんなに楽しみにしているのに、なんでそんなこと言うん?なんで蛍はすぐ死んでしまうん?
ちょっとだけ・・・先っちょだけならいいでしょ?
「マスターの先っちょに異物が混入して弾け飛んでも構わないのであれば、どうぞ」
あ、なんかシスが冷たい。ごめんて。ちょっと興奮してただけだってば。
んで、なんでテレポーテーションはオススメじゃないんだ?
「テレポーテーションは移動先をイメージして座標移動する魔法です」
うん、よくあるやつよね。それの何がダメなの?
「使用者が移動先の物体を瞬間的に周囲へ押しのける為、その際にかなりの衝撃波を生み出すことになります」
え・・・スッてその場に現れるわけじゃないの?・・・まぁ確かに移動した先にあったものがどこか虚空に消えるのでなければそうなるのか・・・。
「押しのける力はかなりのものですが、ある程度の硬度を持った物を弾け飛ばすほどではないので、移動先の標高が現在地より高ければ、全身が地表に埋没した状態でその座標に移動することとなり、押しのけられなかった物体は体内にそのまま残ることになり、体組織がズタズタになるか、もしくは爆散します」
え?ばく・・・?
地面に埋まっちゃうの?そういうのって大体移動先の地面に立った状態に勝手に修正してくれるものなのでは?
「そして移動先の座標に生き物がいた場合、その生物は爆散します。もしくは超低確率で融合します」
え?融合?それってどこのハエ男なの・・・。洗面台で鏡見てたら皮膚がボロっと剥がれ落ちちゃったりするの?
「ご安心ください。融合する確率は0.000001パーセント以下です」
でもその残り99.9何パーセントの確率は爆散なんでしょう?全然安心できないんですけど・・・。
「さらに・・・」
まだあんのぉ・・・?
「移動先の気象状況が悪く、砂塵や雨、強風によって巻き上がった塵などがあった場合それらを周囲に音速以上の速度で弾きますので、広範囲に甚大な被害を及ぼすでしょう。複数人で同時にその場へ瞬間移動した場合はお互いが飛ばした合ったもので相当なダメージを負うことを覚悟した方がよいでしょう」
・・・なるほど。
つまり、瞬間移動するのはいいけど、その移動した先に何かあった場合。それが虫だろうが鳥だろうが丘だろうが人だろうが雨だろうが砂埃だろうが、何かしらが存在した時点で俺はきたねぇ花火になっちゃうわけね・・・。しかも周りも巻き込んで。
たしかに・・・そりゃオススメできんわな・・・。
なんで?なんでそんな使えないような魔法が存在するの?あきらかに欠陥だよね?作ったやつはなに考えてんの?馬鹿なん?
夢の瞬間移動を使えると思ったその次の瞬間に、テレポーテーションの数々の欠点をシスから告げられたそんな俺から出た疑問形を孕んだ愚痴をじっと聞いていたシスは、少し間を置いて、一言でこう答えてきた。
「サポート範囲外です」
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