第143話 継続消費
ジッと待っていたけど結構自己主張の強い我が家の娘たちは、次の順番を全然決められなかったので、俺はしょうがなくジャンケンというこの世で最も公平な権利確保ゲームを伝授した。
その結果、ポンの掛け声で腕を振り下ろす動作の最中に自分の手を三度も変更し合うという有り得ない高度過ぎる駆け引きが生まれ、勝敗はオリヴィエに軍配が上がった。
・・・一体誰がただのジャンケンでそんな人知を超えた動体視力と反射神経を発揮しろと言ったのだ・・・。
ジャンケンってもっとこう・・・せいぜい対戦前に相手が何を出すかを予想する程度で勝敗はほぼ運みたいなゲームじゃなかったか?まぁその駆け引きを視認出来てしまう俺も俺なのだがね・・・。
「やりました!!」
最近よく見るフンス胸ギュを決めるオリヴィエ。
「くっ・・・まさかあそこから更に変化させるとは・・・」
「アタイには何が行われているのかすらわからなかったよ・・・」
駆け引きしているのはアンジュとオリヴィエだけだったからな。
さすがに僧侶のウィドーさんでは上位の戦闘職が獲得している器用さとか素早さ・・・いわゆるDEXやAGIと呼ばれる数値は高くないようだな。、
俺の鑑定では数値で確認できないが、おそらくこの世界でもそういったステータスが存在しているはずだ。見た目の筋肉が肥大化しているわけでもないのに力が増しているのはきっとSTRの数値が上昇しているからと予想している。実際レベルが既に数値で表現されているしね。
「そ、それではご主人様。よ、よろしくお願いします」
ミーナの時と同様にオリヴィエもおずおずとこちらに手を差し伸べてくる。
今更こんなん恥ずかしいのか?とも思ったりしたけど、中身おっさんの俺とは違って、まだ十六、七歳の彼女達はこれまで好きな異性と手を繋いでデートしたりなんてことはしてこなかったのだと思う。
俺の所に来る以前の事を詳しく聞いたわけではないが、そんな素振りも見せたことはないしな。
今度買い物に行くときとかいきなり手を繋いでみようか。いい反応を返してくれるかもしれない。
俺は差し出されたオリヴィエの手をとり、ミーナの時と同じ手順、同じアドバイスをしてオリヴィエに飛行訓練を施した。
その後もジャンケンにあっさり勝ったアンジュ、ウィドーさんの順番で同じ手順を繰り返していったが、やはり人によって制御を習得するまでにかかる時間はそれぞれで、一番早かったのがオリヴィエで、次いでミーナ、アンジュの順だった。
残りのウィドーさんはというと・・・、
「ひいぃぃぃーーー!!たかいいいぃぃぃーーー!!」
といった具合で、最初は手を離すどころか俺の体から離れてくれない状況だった。それでもなんとか続けていくうちに体から離れるところまではいったのだが、何度も勇気を振り絞って手を離そうと試みてはいたものの、ついぞその手を離すには至らなかった。
ちょっとしたいたずらごころで強制的にパージしてみようかとも思ったが、そんなことで彼女にトラウマが出来ては申し訳なかったのでやめておいた。そうじゃなくても後が怖そうだしな。
とりあえずウィドーさん以外は一人で飛べるようになって、ウィドーさんも手を繋いでさえいれば問題はないようだったので、俺は一旦みんなが見上げて応援している家の前に着地し、
「ウィドーさんはもうちょっと俺と訓練するとして、他のみんなはもう一人で飛べるから、一度全員にフライをかける。各々自由に制御の練習をしていてくれ」
と告げた。全員にかけられるのだから一気に練習した方が効率がいいし、なにより下で見上げているだけなのは退屈そうだしな。
魔法の範囲化は攻撃魔法の範囲化と同じくらいしかないので、全員を範囲内に入れようと近こう寄れのジェスチャーをしたら、何故か全員が抱き着いてきた。
全員いっぺんにだと、抱き着かれているというより、なんか円陣の中心にいるような気分になるな。
「フライ」
俺はそのままの状態で魔法を唱えると全員の体が白く光り、ひとまとめに固まったまま浮遊感を感じだす。
「ウィドーさん、手を・・・」
繋ごうと言おうとしたけど、体が浮きだした瞬間に彼女は俺の手に飛びついてきた。やはりまだかなり怖そうだな。
けど見た感じだと高所恐怖症と言った改善の見込みがないようなものではないと思う。実際に最初の頃よりは飛ぶことを楽しめているようだしな。
フワフワと重力に逆らいだした俺達の固まりから一番最初に飛び出して行ったのはミーナだった。彼女はほんと楽しそうに飛ぶ。
次いでオリヴィエ、アンジュと次々に離れていく。
既に自由自在に飛べるようになっているミーナとオリヴィエに対して、アンジュはまだぎこちない感じだが、時間をかけて練習すればそのうち同じレベルで飛べるようになるだろう。むしろ三人共俺より上達はえぇしな・・・。
それから数十分全員で楽しく飛び続けていたのだが・・・どうやらこのままではヤバそうだ。
数分前から感じていたのだが、物凄い勢いで俺の体から何かが消失していくのを感じる。
これはこの世界に来たばかりの時に感じた「MP」が減っているという感覚だ。
ずっと魔法を使ってきたけど、レベルが安定して上がり出した頃にこの感覚に襲われたことはなかったから、これは上限付近では体感できず、MPがある程度減らないと感じないのだろうな。
だが、感覚だよりで少し怖くはあるが、俺の予想ではまだMPは半分以上はある・・・と思う。しかし、今なおその消失は続いている。これまでの魔法は使う毎に魔力を消費するというものだったが、フライは魔法をかけている状態を続けている限り継続してMPを消費していくタイプの魔法だった・・・ということだろう。
しかも今はその魔法を範囲化し、俺を含めここにいる五人全員にかけているのだ。さっきまでも二人ずつだったけど、ずっと使ってたしな。
感覚ではまだ三十分・・・いや二十分くらいなら大丈夫だろうけど、いくらなんでもそんなすっからかん近くまで上空を飛んでいるというチキンレースのようなことをしたら危なすぎるから、大体後十分くらいで切り上げるかな。
時計もないから時間も体感なんだけどね。
こっちに来た当初は結構時計がないと不便だなぁとか思っていたけど、不思議なことにこちらで過ごしていると、あまり時間は気にならないんだよな。
気にしても分からないからってのもあるかもしれないけど、陽が沈むことを基準に行動していれば自然と日の出前には目を覚ますし、特に不便さを感じないんだよね。
まだ誰ともどこかで待ち合わせとかをしたこともないからかもしれないけどね・・・。
そういやこの世界で待ち合わせってどうするんだろ。トレイルでは街の中心に鐘があって数時間おきに鳴らしていたようだったからそれを基準に待ち合わせ時間を伝えることが出来るかもしれないが、ファストにはそんなもんはないしな。
まぁそんなに広い街じゃないから、普通に約束したどちらかがどちらかの待ってる家に直接行けばいいだけか。
なんか情緒が無い気もするけど、スマホも公衆電話すらないここで街中で待ち合わせをしてもしすれ違ったりなんかしたら再び出会えずにその日が終わることだってありそうだしな。そんなこといってられんか。
そういや約束っていえば、オルセンに注文した品とかいつ届くとか言ってなかったけど、まだ来ないのかな?
スタンピードを解決したあの日から・・・ひぃふぅ・・・あれ、まだ今日で四日目なのか・・・。
そらぁまだ来ないか。
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