第142話 フライトトレーニング

「それじゃ、みんなも飛んでみようか」


「「「「え??」」」」


そう、この魔法は対象を指定することが出来る。

その辺の石にかけたりも出来たので間違いない・・・が、石や枝などにかけても二、三センチ位ふわふわ浮かぶだけで魔法が切れるとその場に落ちるだけだ。


練習中に見かけたアリや兎にかけてみると、最初は石とかと同じようにその場をフワフワしていたのだが、しばらくすると足をバタつかせはじめてゆっくりと前進し始めた。


どうやらこの魔法はかけたものが操作出来るものではなく、かけられたものが制御する必要があるようだった。

だから石などの無機物にかけてもあまり意味はない。まぁフワフワしているから重量物を運ぶのには便利そうだが、この魔法は結構魔力を使うから今の俺なら相当重い物でもない限りは実際に持った方がはやい。いい使い道はあるとは思うけどね。


「最初は制御が難しいと思うから、慣れるまでは俺が手を繋いでサポートするよ。まずは誰から・・・」


「はい!私やってみたいです!」


貪欲ミーナが元気に手を挙げて真っ先に名乗りを上げた。そのうち自分でも使えるようになるからな。たしかにこの中では一番練習する必要があるかもね。


「それじゃミーナ。手を」


「え?あ・・・は、はい・・・」


俺が差し出した手におずおずとゆっくり自分の手を重ねるミーナ。

なんかすっげぇ恥ずかしそうだな。いつももっと色んなとこを重ねまくってるのに。・・・こんなこと思うから「アンタは女心が分かってない」とか言われるんだよな。・・・やなこと思い出したわ。やめよう。


「それじゃ、魔法をかけるぞ。体の力を抜いて、最初は浮かぶことだけに集中するんだ」


「体を楽に・・・浮かぶ・・・」


俺の言った事を復唱する少し緊張気味のミーナ。

まぁこれから自分が宙に浮くと言われてるんだからそれもしょうがないよな。


「いくぞ」


「・・・はい」


唾を飲みこんでから返事するミーナに魔法をかける。


「フライ!」


すると俺とミーナの体が白い光に包まれ、同時に体がそこだけ無重力になったかのように地面から離れだす。


「わ、わ・・・」


慣れない浮遊感に見舞われたミーナは咄嗟に繋いでいた俺の手を抱くように縋り付く。


「大丈夫。体の力を抜いて」


優しい口調で話しかけたのがよかったのか、ミーナは俺の言葉に素直に頷き、固まっていた身を任せるように体を弛緩させた。


「そのまま自分の体が糸で上へと引っ張られるようなイメージで・・・そうだ、上手いぞ」


俺が練習の時に成功したイメージをそのまま彼女に伝えると、ミーナはそれをすぐに実践してみせ、二人の体はどんどんと上昇していった。


ちなみにフライは一回の詠唱でかけられる対象は一つなのだが、魔法使いの魔法はある一定のレベルになると攻撃魔法の範囲化が可能となり、更にレベルを上げると攻撃魔法以外の魔法も範囲化できるようになる。シスが使える魔法を教えてくれた時に言っていた。


だから前に俺が攻撃魔法の範囲化を自らの検証によって可能としたのかと思っていたのは、ただ単にレベルが上がることによって範囲化が使えるようになっただけだったのだ・・・。


こういうことがあるから少ない数の検証と個人の体験からの考察はあてにならんのよな・・・。

前によくネットの呟き場で目にした「俺がアレだった時はソレだったから絶対コレなんだ」っていう主観の視点からのみの所感をのべているだけのようなものも、きっと半分以上が勘違いか検証不足なのだろう。


例えば「あの時出来て、今も出来たからこれは実証された!」と言っている人も、実際は「あの時」と「今」が完全に同条件じゃない時点で実験としては失敗しているのだ。


そもそも完全に同条件というのは時をさかのぼりでもしない限りは不可能なので、現実には同条件に限りなく近づけた状態で実験を何度も繰り返し、同じ、もしくは近似値が毎回出たらそれは実証されたと言ってもいいとなるのだから、一度や二度体験した出来事を元に確定と断言したりなんかするのは、きっと科学者からしたら鼻で笑われるようなことなのだろう。ほんとにそうなのかは知らんけどな。俺は科学者じゃないし。


まぁ俺の場合は自分の考えが間違っていたとしても、シスという完璧な答え合わせがいてくれるからそこまでの確実性をもたせる必要もないんだけどな。

以前に一度サポート範囲外と言われたこともあったが、逆にいえばこれまででたったの一回しかなかったといった方がいい。


だからそれくらい完璧な答えを出してくれる存在というのは非常にありがたいってことなのだ。

ほんと、ありがとうございますシス様。これからも頼りにしてますよ。



その後もミーナは俺の言う制御のイメージをすんなりと自分のものにし、俺が結構苦戦した水平移動と上昇の併用などもあっさり習得していった。


「アハハッ!凄い・・・凄いですサトル様!私、飛んでいますよ!」


ほんと凄いよ、ミーナは。

ダンジョンでの戦闘でも魔法の使い方は上手だったし、攻撃魔法の形状変化に必要な言葉も俺が一回教えるだけで全部覚えちゃうしな。

頭が良い彼女には魔法使いの職業は相当あっているのかもしれないね。


「それじゃ、ちょっと手を離してみようか?」


「・・・少し怖いですけど・・・頑張ってみます!」


俺の無茶ぶりの言葉に少し表情を強張らせたミーナだったが、健気にもそれを了承して少しだけ引き攣ってはいるものの、笑顔もみせてきた。


「大丈夫。落ちそうになっても俺が絶対に受け止めてやる」


「はい!お願いしますね!」


言葉と繋いだ手に力を入れてその気持ちを伝えてくる。


「いくぞ」


そう言って、俺はミーナと繋いでいた手の力をゆっくりと徐々に緩め、二人の繋がりを外した。

その瞬間、ミーナの体が大きく揺れ、しばらくグラグラと不安定な様子を見せたが、それは高所で綱渡り中に命綱が外れてしまったような不安から来るもので、少し時間が経つと彼女の体が揺らぐことはなくなり、次第に安定していった。


後半はもうほとんど手を繋いでいただけで、ほぼ一人で制御していたようなものだったからな最後のセーフティーが外れたことで少し動揺はしたが、一度安定してしまえばもう大丈夫だろう。


そのまま俺とミーナは自由な空中遊泳を楽しんだ。

二人で空の追いかけっこをしたり、また手を繋いでクルクル回転したりと、中々楽しませてもらったが、ふと下にある家が目に入った時、そのそばで羨ましそうにこちらを見上げていた三人を見たので、ミーナにそろそろ降りようと提案し、高度を落として家へと向かった。


ミーナは着地が初めてだったので少しおっかなびっくりだったが、彼女のセンスもあって少しふらつきながらも一発でソフトランディングに成功した。

ランディングっていってもVTOL機やヘリコプターの方だけどな。


「ご主人様、ミーナ、おかえりなさい!」


「凄いねぇ・・・鳥みたいだったよ」


「そうだな、まるでハーピィのようだったぞ」


それぞれが違う感想と表情で迎えてくれた。いや、ウィドーさんとアンジュの感想は一緒・・・なのか?ハーピィってあれだよね。鳥の魔物的な。この世界にも居るんだな。


「ただいまです」


弾ける笑顔で答えるミーナは「楽しかったぁ」と呟いているほどかなりエンジョイしていただけたようだ。


「次は誰が行く?」


「「「ハイ!」」」


おお、凄いシンクロ率だな。

肉体を維持できなくなってLCLになったりしないでね。






とりあえずミーナとの楽しい飛行訓練を終え、俺は次の訓練生を空へと連れていく。


さあ、次のフライトの搭乗者はどちらのお嬢さんになるのかな?

ハイハイ言い合ってないで早く決めてくれないかな。全然決まらんやん。

もうジャンケンしなよ、キミたち。

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