第141話 お披露目

「今日の午後のダンジョン探索は休みにしようか」


「休み・・・ですか?」


朝食をとっている最中、俺は今日の午後の休暇を全員に言い渡した。

まぁその時間で一緒にやってもらうことになるから休暇とは違うのかもしれないかもしれないが、今の俺達にとってはダンジョン探索は仕事のようなものだからそれをしないならば休暇ということでいいだろう。


今朝のダンジョンで念願のストレージを獲得し、食事を作る前にその容量がどのくらい入るのか試そうと、物置部屋にあった物を次々に収納していったのだが、いっこうにその限界を迎える気配もないまま、結局部屋中のすべてを収納しきってしまった。


その後、台所に大量に買っておいてあった小麦粉や塩を入れてもまだまだいっぱいにならず、結局台所の食料までもすべて入ってしまった。

肉が消えていく度にオリヴィエがオロオロしていたのは面白かったが、このストレージはどうやら入れている間は収納している物の時間は止まるというものだったので、食料はこのまま俺のストレージに入れておこうと思う。


ちなみにどうやって調べたのかは、火をつけた物を中に入れる、熱湯を入れて時間をおいてから取り出すなどのテンプレ方法で確認した。ラノベ知識万歳だ。


「何か違う事をするのかい?」


察しの良いウィドーさんは休みと聞いて、俺がまた何かをするつもりじゃないのかと薄々気が付いているようだ。


「まさか陽の出ているうちから!?」


んなわけあるかい!って堂々とつっこめるほど清廉潔白とは言えない行動を毎日してしまっているからアンジュにそんなことを言われるのもしょうがないかもしれないが、キミ・・・なんでちょっと嬉しそうなん?


「それも魅力的ではあるが、今日は外でちょっとした実験・・・という名の遊びをしたいと思う」


「実験の・・・遊びですか?」


ケミカルっぽい雰囲気があると興味深げに話しに入ってくるのは実にミーナらしい。


「うむ、食べ終わって食器の片付けが終わったら外に出よう」


「ふぁい!」


いつも思うんだけど、どうしていつもそんなに口いっぱいに含んで喋ったりしているのに、なんで一切食べ物が飛び出してこないんだ?

いや、最初の頃は飛んでたか・・・?ってことはもしかしてスキルアップしている?何その世界一しょーもないスキル。なんて名前なん?




俺達は食事を済ませた後、諸々の片付けを終えてから家の外に集合した。


「えー、これからちょっとした実験を行います。まずは俺がやってみせるからそこで見ていてくれ」


「は、はい・・・?」


返事はしたが何が起こるのかわからなく困惑の表情のミーナ。前のめりでこれから起こることにワクワクしている様子のオリヴィエと、何が始まるんだと腕組みしているアンジュに、まるで子供を見守るような母性の瞳を見せてくるウィドーさん。


「いくぞ・・・フライ!」


魔法を唱えると、俺の体が一瞬白い光に包まれた後、フワッと浮き上がる。

これぞ人類の夢、ライト兄弟が見たら泣いて悔しがり、世界中に散らばる七つの玉を集めるアニメのリアルタイム世代ドンピシャの俺は何度も難度も夢にまで見た、まさに舞〇術だ。


使えるはずなのに上手く制御出来なくてすっごい悔しいという思いをする夢をほんと何回みたか分からないくらいの憧れは持っている。男なら誰だってそういう夢は見て来たはずだ。


俺はそれを今魔法というもののおかげで体現出来てしまっている。

夢では上手く制御出来なかったが、今日の朝誰よりも早く起きた俺は早朝秘密特訓を実施し、その結果・・・ついに自由自在にコントロールすることに成功した。


やはり人って興味のあることや楽しいことって上達がはやいよね。好きこそものの上手なれってやつだ。


「飛ん・・・でいる・・・」


「凄い使徒様の技ですか!?」


「いえ、魔法名を言っていたので魔法では!?」


「ははぁ~~~!!」


アンジュは驚き、興奮するオリヴィエと的確な考察をするミーナ。そして何故かひれ伏すウィドーさん。五体投地初めて見た。


「ウィドーさん、なにしてんの?」


「あ、いや・・・あまりに神々しい姿を見たから・・・つい・・・」


意外と信心深いんだね、ウィドーさんは。カルト宗教が信者を獲得する手段で空中浮遊がよく使われるっていうけど、ほんとに有効だったんだな。

俺も街でこの魔法を使いまくったら信者がいっぱいできるのかな?いらんけど。


そして俺は両手を広げ、散々練習したこの魔法の制御を実行し、体をゆっくりと上昇させていく。ちなみにこのポーズに意味は全くない。でも形って大事でしょ?浮くときに両手を広げ、水平移動するときは右手を前に突き出すのは俺ら世代ならこの魔法を使ったらきっと同じことをするだろう。


「ご主人様!?帰っちゃいやです!!」


え?


「オリヴィエ、きっと旦那は神様に呼ばれたんだ。こればっかりはしょうがない・・・」


「そんな・・・」


何言ってんのキミたち。ウィドーさん、目をウルウルさせているオリヴィエの肩をそっと抱くんじゃありません。


「皆さん、サトル様は空を飛ぶ魔法を使っているだけだと思いますよ」


「ほんとですか!?」


ミーナに迫るオリヴィエ。コクコクと頷くミーナだが、オリヴィエが両肩を持って揺さぶるせいでそれが頷きなのかどうなのか判別しづらいが、なんとか意志を伝えることには成功したようで、オリヴィエはホッとしていた。あ、ウィドーさんもその後ろでおんなじ反応してらぁ。


「わ、私は分かっていたぞ。そ、そんなことだろうと思ったよ」


その伸ばしかけた手を引っ込めてから言った方がもうちょっとだけその台詞に信憑性がでると思うぞ、アンジュ。


どうやらこの無意味なポーズが余計な誤解を生んでしまったようだ。しかもフライは使った対象が一瞬光に包まれるからな。確かに知らずに見れば神々しいものとなるのかもしれないな。それに俺はみんな視点では使徒様だし、この反応も仕方ない・・・のか?


「ミーナの言う通り、これは魔法の効果だ。俺はどこにも行くつもりはないよ」


「ごりゅりんひゃま・・・ずびび」


「と、とりあえずその辺を回ってくるから見ててくれるか?」


「ふぁ~い」


大丈夫?それで見れんの?まぁいいか。

泣き顔のオリヴィエを傍目に魔法の制御を再開すると、浮遊感が増していき、俺の体はどんどん上がっていく。


ある程度の高度を確保してから水平方向にも移動を開始して、速度を増してから

その場で旋回し続ける。たまに八の字に変化させたり、体をロールさせてみたりして、みんなに俺の秘密特訓の成果を見てもらった。た~のし~。


空中遊泳を数分楽しんだ後、俺はみんなが見上げる家の前へと降り立った。


「どうだ、これが・・・」


「サトル様凄いです!」


珍しくミーナが一番に飛び込んできた。やはり魔法のことになると一番興味を示すのか彼女なのかな。


「もう、ご主人様!って感じです!」


なにそれ、新しい。俺は俺であるが故に俺である。みたいな?うーん、わからん。


「人が空を飛ぶなんて・・・この目で見た今もまだ信じられん・・・」


「アンタやオリヴィエは魔物と戦っている時に結構飛んでいるじゃないか」


たしかに。オリヴィエやアンジュはよくアクロバティックな戦闘をしてるよな。オリヴィエは前衛だからまぁわからなくもないけど、アンジュも後ろで自分の射線上に味方が割り入ってしまった時や、魔物が後衛まで来てしまった時などにそんな必要あるってくらい回転してたりするよな。


よくあんな側転・・・いや手は地面につけてないから側宙か?・・・をしながら弓を射れるよね。

近づいてきた魔物にも弓の速射で対応したり矢を直接手で突き刺したり、近距離用で持っている短剣なんかを使って対処したりと様々な方法で対処していて、彼女の戦闘経験の豊富さが垣間見える。


「これが魔法使いの魔法であるフライだ」


「魔法使いの!?ということは私にも使えるのですか?」


え、どうなん?シス。あ、はい。


「フライはレベル20で覚える魔法だ。ミーナは今レベル12だからじきに使えるようになると思うよ」


俺のストレージという目標を達成するために効率的な狩りをした影響で、他のメンバーのレベルも結構あがった。レベルはいくらあげても困ることはないからこれからもあの方法で狩ってもいい・・・けど・・・アレ、結構疲れるんだよね。肉体的には大丈夫なんだけど、精神的にね。


「本当ですか!?楽しみです!えへへ」






可愛い。小動物的愛らしさ全開。ギュってしたくなる衝動が凄い。

ほんとにやってやろうか。いや、空気を読め。今はその時ではない。


俺は無邪気に笑うミーナを見て表面上微笑んではいたが、その内側では邪な自分を抑え込むことに必死なのであった。

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