第136話 罪人

「それじゃ、俺達はこれで失礼するよ」


「そうか?もっと色々と話を聞かせてほしいのだが・・・まぁしょうがないのだ!」


その腰に手を当てるヒーローポーズはリリアの癖かなんかなのかな?

冒険者ギルドの出入り口まで見送りに来てくれたのは嬉しいけど、そのでかい声と小動物が威嚇するみたいな相手から見たら愛らしいと感じてしまう態度のせいで今ギルドに居る全員から注目されているからやめてほしい。


「本日はわざわざご足労いただきありがとうございました」


会釈をした後、素晴らしい営業スマイルで見送りしてくれるマリア。俺はそれに手を上げることで応え、そのまま出口に向かおうとしたその時、オリヴィエが立ち塞がり、俺の歩行を手で制止して、「なんだ?オリヴィエ」と言おうと口を開いた次の瞬間、



 バン!



という大きな音を立てて冒険者ギルドの扉が開き、なんかどっかで見たことあるような顔の男が物凄い形相で入って来た。


「アマノサトル!きさまぁぁぁ!!!」


ん?誰だ・・・こいつ?・・・あ。


「ガレウスか・・・?」


一瞬わからんかったがこいつ、ガレウスか。なんか髪も乱れて顔もイヤらしいすまし顔じゃなかったからすぐに分からんかったわ。


「何故・・・なんで貴様はまだ生きているのだ!お前が生きているせいで・・・私は積み重ねてきた地位も、蓄えてきた財もすべて失った・・・!!返せぇ!!みすぼらしい冒険者のくせに私の・・・!?」


「そこまでです」

「そこまでだ」


騒音を発しながらズンズン歩いてこようとしたガレウスだったが、僅か二、三歩歩いたところでオリヴィエとアンジュの二人に刃物を首に突き付けられ、その動きを強制的に止められた。


今は街に来るときはオリヴィエは前に使っていたククリを、他の全員には護身用の短剣を渡すようにしている。今回はそれが役に立ったようだ。普段の装備を持ち歩いてもいいんだけど、ミスリルの剣やアンジュの弓は街の中では邪魔だ。それに、この世界では問題ないのかもしれないが、やはり普通の店に入るのに剣のようなものを持って入るのは威圧的な感じがして気が引けるんだよね。


「ぐっ・・・!うぅ・・・」


激昂している者でもやはり首筋に冷たい感触を当てられた状態ではさすがに大人しくなるしかないようだ。ガレウスはこちらへの怒りと首筋の冷たい感触をまるで熱交換を続けるように意識と視線を前へ下へと交互に移している。


しかし・・・こいつ、なんで俺の生存を疑問視しているんだ?

っていう鈍感系を演じるつもりは俺にはない。状況を鑑みれば答えは一つだろう。


「そうか・・・お前が盗賊団をけしかけたのか」


そう考えればこいつの発言に納得がいくというものだ。動機は俺からしたら全く充分ではないのだが、その物差しは人によって違うだろうしな。


「・・・そうだ・・・私がやった!護衛も務められないで、ダンジョンに小遣い稼ぎばかりしているようなお前等を消すのに慎重すぎると思うほど充分な人数は送り込んだはずだ!!それなのに何故貴様は生きている!!」


そうか、そういやこの世界ではダンジョンは他の依頼の繋ぎ程度にしか稼げないという認識のものだったな。あんなにおいしいのに。色々な意味で。


しかし簡単に白状したなぁ。まぁあれだけのことをしてギルドでの立場も無くなっただろうし、100%成功すると思っていた最後の手段も失敗に終わってもう後が無くなり、開き直った結果なのかもな。

でも、こういう直接手を下さないやり方はどういう職業に落ちるんだろうね。やっぱり普通に「罪人」か?「謀略家」とかはないのかな?


俺はちょっとした興味からガレウスを鑑定してみた。



   名前

    ガレウス


   性別

    男


   年齢

    32


   種族

    人族


   職業

    商人 Lv8



あれ・・・こいつ、あれだけのことをやって職業落ちしてないやん・・・。

えぇ・・・もしかしてこの世界って実行犯じゃないと職業落ちしないのか?それとも俺達に実質的な被害が出ていないから?でも人の家を襲撃しておいてそれはおかしくない?ウィドーさんも未遂とはいえ襲われかけてるわけだし・・・。

・・・そういや貴族が職業落ちしたという話もあまり聞かないと言っていたが、もしかしてそういうこと?それはちょっとザルすぎやしませんかね?


「ガレウス・・・お前・・・少し強引な手を使うが商人としては優秀だと思っていたのに、そこまで落ちたか・・・のだ」


おい、今無理矢理特殊語尾をつけただろ。あざとババアめ。あ、睨むのやめてください。なんか前もこんな心を読まれるようなことをされたような気が・・・俺はサトルであってサトラレではないはずなんだが・・・。もしかして俺って顔に感情が出まくってるのかな?


「うるさいうるさいうるさーい!ドワーフの小娘如きがこの私に意見をするなぁ!!」


もうこうなるとただの喚き散らすだけのガキだな。まだ首にククリと短剣を突き付けられているという状況なのに、無理矢理首を動かすもんだからちょっと切れちゃってんじゃん。どうせならそのまま全部切っとくか?


「ふんっ!」


「ぐべらぁーーー!!」


ガレウスの言葉で額に青筋を浮かべて見事な右フックをその頬に炸裂させたリリア。

さすがレベル15。動きがはやい。そして力強いな。これが格闘家の職業を持つ者の動きか・・・。たぶん手加減はしてるだろうけどな。


「あ・・・あがが・・・あぎほ・・・ふぁふ」


あれまぁ、顎が外れちゃってるわ。ガレウスは何やらリリアに対して殴られたことの抗議をしたいような素振りをみせるものの、口が自由に動かず上手くその言葉を届けられないようだった。


「うるさいのだ小童。お前の耳障りな声はもう聞きたくない。黙るのだ」


殴りつけた拳を見せつけるように自分の眼前で握り込み、冷たい視線を倒れたガレウスに送っている。

ちなみにリリアが殴る瞬間に抑えつけていた二人は当たり前のように身を引き、躱している。


ガレウスは殴られた頬に手をやり、フガフガと何か言っていたが、全然何言ってるのか分からん。耳障りだからちょっと黙ってもらえないだろうか。


と思っていたらギルドの扉が開き、そこからよく見知った顔の男が部下を連れて現れた。


「大丈・・・夫のようだな」


慌てた様子でギルドに入ってきたマーキンだったが、中の様子をすぐに把握したようだ。


「おー、思っていたよりもはやかったのだ。はやくそこに転がっている騒音を連れて行ってほしいのだ」


マーキン達がギルドに入ってきたのを見て、後ろにいたマリアがホッとした表情をしていた。どうやら彼を呼んだのは彼女のようだな。ガレウスが入って来てオリヴィエ達が制止した時に受付の奥へと行く気配を感じたから、おそらくその時にクイルで通報したのだろう。ほんと便利だよね。クイルって。


「りょ、了解しました・・・ほら!立て!」


マーキンと部下がそれぞれガレウスの脇の下からがっちりとホールドし、捕縛された瞬間。


「ん?」


俺が開きっぱなしにしていた鑑定の情報に変化があった。



   名前

    ガレウス


   性別

    男


   年齢

    32


   種族

    人族


   職業

    罪人 Lv1



職業の欄にあった商人Lv8がスゥーっとフェードアウトしていき、罪人Lv1が変わりにフェードインしてきた。たっちまっちあふれーる神秘のちっかーらー。世代じゃないけど世代で流行った多世代ロボットが集うゲームで知った歌が頭に流れて来たが、たぶん特に意味はない。たまにあるよね、こういうこと。


「ひゃめろ!ひゃにゃへ!!」


そのまま有無を言わさずに連れていかれるガレウス。


しかし・・・職業落ちって「捕まった」時に発動するのか・・・。

なるほどね、どうりで貴族に職業落ちが出にくいわけだ。


職業落ちの条件が罪を犯すだけじゃなくて、その上で捕縛される必要があるならば、貴族にその条件を満たすことはかなり難しいだろう。

相当な証拠と抵抗があれば別だろうが、貴族が捕縛されるということなどそうそうあるまい。疑いがある程度ならば捕縛されないまま事情を聴くということもあるはずだ。


そしてそこで罪を認めて何らかの処罰が下ったとて、捕縛という行為がなければ職業落ちの条件は満たせない。しかも貴族の位が高ければ高い程その傾向は顕著になるはずだ。平民とは違って罪を認めたからといってわざわざ捕縛するというような礼を失した行動は貴族に対してはしないだろうしな。


これらは全部映画やアニメなどから得た俺の想像ではあるが、たぶん正解な気がする。・・・一応答え合わせもしておくか。


「マスターの推測通りです」


シスのお墨付きも得たのでやはり俺の考えは正しかったようだ。






この情報は大きいかもな。

ありがとうガレウス。そしてさようなら。

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