第135話 リリア
「私がここのギルドマスターなのだっ!」
幼女が胸を張っていた。机の上で。
俺達はマリアと一緒に冒険者ギルドを訪れ、ギルマスも一緒に立ち会うから呼んできましょうと、何故か俺達も一緒にギルドマスターの部屋に来たわけだが・・・その部屋の扉を開けた瞬間に・・・これである・。
「えっと・・・ギルドマスターの娘さん?」
「いえ・・・」
横のマリアに聞いてみたが、彼女は気まずそうにしながら明らかに俺からの視線を外した。
「わ・た・し・が!ギルドマスターなのだっ!!」
さらに顔を目一杯上にあげ、顎先をこちらに向けてまるで無い胸をこちらに見せつけるようにしてくる幼女。
俺は胸のサイズに特別なこだわりが無いタイプだが、幼女に興奮する性癖はさすがに持ち合わせて無いぞ。・・・たぶん。
名前
リリア
性別
女
年齢
126歳
種族
エルダードワーフ族
職業
格闘家 Lv15
その後は誰も口を開かず、凍ったような空気がその場に流れていて、その空気に耐え切れなくなった俺は、鑑定を使って彼女の情報を得ることにした。
わぁ、リリアって見た目にとっても合っているかわいらしい名前だねぇ。
そんな身長で格闘家なんて大丈夫なの?届く?腕グルグルしない?レベルも15なんて凄いねぇ、頑張ったんだねぇ・・・。
・・・分かってるさ。述べるべき感想はその項目ではないと。
でもさ、人間ってその項目において有り得ない非現実的な数字を見ると、なんで目を逸らしたくなるんだろうな・・・。
しかし・・・ひゃくにじゅうろくて・・・なんで年齢の欄に数字が三つ並ぶんだよ、おかしいだろ。
これがしわくちゃのおばあちゃんならまだ納得がいく。
だが、俺達の前に居るのは元気いっぱいに机の上に飛び乗ってオールディーヒーローポーズをとっている幼女なんだぞ。頭バグるだろ、こんなん。
これが噂に聞くロリババアってやつか・・・実際にこの目で見ると違和感半端ないな・・・アニメとかで知識はあったはずで、耐性も獲得していたと思っていたのだが、二次元で見るのとでは文字通り次元が違うってやつだ。
「・・・あの方は間違いなくファストの冒険者ギルドマスターである、リリア様です」
机の上に乗っちゃダメっていつも言っているじゃないですか、と言いながらリリアの両脇を持って机から降ろすマリア。対するリリアは口を3にしながらブーブー言っている。
「随分お若いドワーフの方がギルドマスターなのですね」
「あれ、ドワーフもエルフと一緒で長命種なんじゃないの?」
じゃああの年齢は?まさかほんまもんのロリババアってわけじゃあるまい。
「エルフとあんな洞穴モグラ共を一緒にするな」
「おーおー・・・森の耳長引き籠りちゃんは威勢がいいな」
あー、そのタイプの世界なのね、ここは。
エルフとドワーフが仲悪いってのはよく聞くよねー。なんでなんだろ。
「ドワーフ族の寿命は人族のそれとそう変わらないと聞いてますが・・・違うのですか?」
俺の返答に違和感を感じたのだろう、オリヴィエがこちらに疑問を返してきた。
こらこらアンジュ、幼女を睨まないの。三桁年齢だけれども。
「だって彼女の年齢、アンジュの倍以上あるぞ」
「「「え?」」」
なんで重なった声の中にマリアさんの物まで混ざってるんだ?あれ、幼女が睨んでくる・・・。
「あれ、スマン・・・。もしかして秘密だった?」
「まさか・・・エルダードワーフ・・・なのか?」
ああ、そういえば種族名がそんなんだったな。なるほど、ドワーフには通常種とは違う上位種?みたいのが存在していて、そちらは普通のドワーフと違って長命種・・・ということなのかな?んで、マリアもそれを知らなかったと。
「そうなのですか!?リリア様!」
びっくりしているってことはやっぱり隠してたのか。悪いことしたかな?
リリアはギルドマスターの席にどっかと深く座り、口をへの字にして渋い顔をしながら、
「ハァ~・・・バレちゃしょうがないのだ・・・。使徒様にはなんでもお見通し・・・ってことかにゃあ」
体に見合ってない大きさの机に肘を置いて、その腕で頬杖をつくリリア。
そんでもってやっぱり俺が使徒だっていうのはバレバレなのね。別にいいけど。
「何故こんな街にエルダードワーフが・・・」
驚愕の瞳で幼女を見つめるアンジュ。そんなにエルダードワーフって珍しいのかな?名前は知ってるんだけど、俺のよく読んでたラノベ作品にはあんまり登場することがなかったからあんまよくわからんな。
「まさか・・・ファストが60年前の神国強襲を退けた謎の男性とドワーフの少女って・・・」
「む・・・その記録は抹消したはずなのだ。なんで知っているのだ?」
「おじいちゃんの話は本当だったのですね・・・」
「ヨセフの坊やか・・・言うなと言ったのに・・・」
遠い目をしているが、そんなに怒っている感じではなさそうだ。むしろ、どこか悲しそうな・・・いや、寂しそう?
「昔、私が泣いている時におじいちゃんが話してくれたんです。その話は空想上の物語みたいで、聞いていた時はとても実際にあったこととは思えませんでした。事実だと気が付いたのは後に私が興味本位で調べて辿り着いた結果です。だからおじいちゃんは約束を違えていません!」
まっすぐにリリアを見つめて話すマリア。彼女はおじいちゃんっ子だったのかな?
「まったく・・・優秀な部下を持つというのも困ったものなのだ」
椅子をギシッと鳴らしながら背もたれに体重を預け、困ったような嬉しいような複雑な表情を見せるリリア。
「えっと・・・なんか盛り上がっているところ悪いんだが、そろそろ本題に戻らないか?」
俺ははやく買い物して帰りたいんだけど。
オリヴィエチョイスの服をなんとか回避して購入を終えるっていう重大なミッションが残ってるんですけどっ。
「ああ、すまないのだ使徒殿」
「サトルでいいよ」
その呼び方されると「歌はいいねぇ」とか返さないといけないのかな?って思っちゃうオタクの病が発症するからやめてほしい。
俺の進言でリリアの種族が中心となっていた話が本筋へと戻り、俺達はみんなでこの部屋を出て一階へと降り、受付の奥の部屋にあったクイルの前まで移動してきた。
えっ・・・とシス、これをどうすりゃいいんだ?
「クイルの上にギルドカードを置き、更にその上に手を置いて書き込む内容を頭に思い浮かべながら「リライト」と唱えてください」
リライト・・・書き直すとか書き換えるって意味だっけ?なるほどね。
ギルドカードへ新しく記入するんじゃなくて、一部を書き換えるってことなのか。これじゃ、他の情報も変更出来ちゃいそうだから、あの時いってた防止策ってのはやっぱり必要だし、このランクを運用していく上でほんとに重要となってきそうだな。まぁこの辺は俺が気にすることじゃないけどね。がんばれっ!マリアとその仲間達!俺は草葉の陰から別に見守ったりはしないけど、シスの言っていたことをしっかり守って運用していけば大丈夫でしょ。守らなくちゃいけないようにする仕組みも提示してあったしね。
俺自分のギルドカードに「プラチナ」という文字を思い浮かべながらシスに教わった言葉を口にする。
「リライト」
すると、手の下のギルドカードが発光しはじめた。
あっつ・・・くないか。なんか光が暖色だったから熱を帯びていると反射的に思ってしまったが、特にそのようなことはなく、ちょっとなんか掌がむずがゆいかな?っていうくらいの感想しかなかった。
俺の後ろでは各々の小さな歓声のようなものが起こっていたが、声に出すというよりは起こっている現象を目視したいという感情の方が強いらしく、みんな俺のすぐ後ろから俺の手の下にあるギルドカードを覗き込んでいる。
ちょっと・・・そんなにみんなで寄ってきたら・・・あっほらっ、背中が幸せに。全員が後ろから覗いているのかと思ったが、背の低いリリアは俺の腰の脇から顔を覗かせている。
ってかみんな密着しすぎじゃない?女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろうね。不思議。
そんなことを思っているうちに、ギルドカードの発光がおさまったので手を離してみると、そこにあった俺のギルドカードには「プラチナ」の文字がなんかカッコいいフォントで書き込まれていた。なにそのオリジナルフォント。俺そんなん思い浮かべたつもりないんですけど。
「おおー、これがギルドランクなのですね!?」
「さすがご主人様です!」
「・・・プラチナ?っていうのはどういう位なのだ?」
やべ、最初に書き込むんだったらカッパーの方がよかったかな?まぁそれはあとで変更出来るだろうし別にいいか。
「サトル様と一緒に考えた階級の一つで、頂いた提案ではカッパー、ブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールド、ミスリル、プラチナ、アダマンタイト、オリハルコンとなっておりましたので、上から三つ目のランクですね」
「ほぅ・・・どさくさに紛れて高ランクを書き込んだ・・・というわけなのだな?」
「・・・いや、別に後で変更すればいいだろ」
そんないたずらっこを発見したようなニヤニヤした目で見ないでくれ。
「これがクイルで書き込むやり方だ。簡単だが、それ故の問題も色々あると思う。だが、マリアに伝えておいた運用方法をちゃんと履行してもらえばある程度は大丈夫なはずだ」
人が運用する以上、完璧ということはないが、この世界にはオート罪人選定のシステムがあるから、それを利用したいい方法を提示していた・・・と思う。
正確にもう一回教えてくれと言われても俺は半分も覚えてないから無理だけどね。
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