第133話 ギルドランク1
「それではサトルさん。ギルドランクの事でお聞きしたいことがいくつかありますぅ」
さっきまで慣れない対応をしていたせいか、その反動で語尾が少々崩れているマリア。
こっちの方が接しやすいからいいんだけども、いきなり切り替えすぎではないですかね。
「あんまり難しいことを言われても困るけど、俺に返せるようなものだったら答えるよ」
「えーっとですね。まず、ランクというのは階級のようなものだとお伺いしましたが、その名称としてはどのようなものがいいのでしょうか」
おおぅ、ほんとにはじめの一歩みたいな質問が来たな。フリッカーやラビットパンチを見せたほうがいいのかな?
「運用側や使用者が分かりやすいのがいいんじゃないかな。例えば鉱石の名前を価値順につけるとか」
「なるほど、貨幣価値と同じにするということですか・・・」
ギルドの掲示板にあった羊皮紙の小さいものを取り出して、メモをしながら話すマリア。走り書きのようなスピードなのに、随分と綺麗な字を書くなぁ。
「となると一番低い階級・・・ランクは銭貨の錫ですかね?」
「錫はなんか違う気がするな。言いにくいし、あれって銅よりも価値的には高くなかったっけ?」
あまり鮮明な記憶ではないが、近所の大型ショッピングセンターの中の小さなブースでよく見かけた貴金属買取店にでかでかと表記してあった金・プラチナの値段が書いてある看板の片隅にあった小さな張り紙の一番下が銅で、その上が錫だった気がする。
そんなものをショッピングセンターで売る奴なんか日本に居るのか?と通りすがりに心の中で突っ込んだ記憶はあるからたぶん間違いない。
「そうなのですか?錫はどこかの鉱山で大量に産出されると聞きましたので、銅よりも価値は低かったと思ったのですが・・・」
「そうですね。「ここ」では銅よりも錫の方が現在は価値が低いです」
わざわざここを強調することで俺の発言を否定することなく、それでいてこの世界での正しい情報伝えてくれるミーナ。さすがやー。
錫は加工が容易く、その使用用途が色々と変化した結果、その時代時代で価値がかなり上下した・・・と高校時代の歴史好きおじいちゃん先生が、授業中に度々本筋とは脱線して語っていた話の一つをふと思い出した。
テストに出る教科書の内容よりも、そのような好きな話をしている時の方が惹きつけ方もうまく、その結果、テスト内容よりも関係ない雑学ばかりが記憶に残ってしまった学生時代の記憶。それが原因とは言い切れないけど、俺の世界史の点数が伸びなかった一因だと今でも思っている。
突然硬かった引き出しが勢いよく開いたかのように思い出したけど、何故か直近や数年前のものより、中学や高校時代の特定の記憶の方が鮮明に思い出されるってこと、よくあるよね。同級生の顔と名前なんか数人しか思い出せないのに。
「うーん、なんか通常使われていない特殊な名称とかないでしょうか?今までにない新しい制度ですし、そっちの方が印象に残るような気もするんですよね」
「あ、じゃあブロンズとかシルバーなんかはどう?」
ギルドランクの定番の一つだし、意味的には同じだから・・・あ、でもこっちでは英語は使われてないから逆に分かりにくいかな?
「むむむ・・・なんかどこかで聞いた記憶が・・・それはどういった意味になるのでしょう?」
あれ、英語なのにこの世界で使われているのか?もしかして帝国じゃない他の国では公用語が英語とか・・・?たまたま帝国だけ日本語だったのか?
「俺の国ではブロンズは青銅、シルバーは銀って意味だな」
「使徒様の国・・・あっ!確か錬金術師が使う魔法の中にそれと似たような単語があった気がします!」
錬金術師って職業があんのか・・・。
等価交換で人体を錬成したりすんのかな?あれを見て等価交換は銀玉だけでいいなって思ったやつはきっと俺だけじゃないはず。
というか、そういや魔法の名前とかアイテム名の一部って英語だったりするし、この世界において完全に英語が存在しないということもないのか。
たしかに錬金術師なら鉱石の名前が入ったスキルや魔法があったっておかしくないよな。
「なるほど、魔法は神からこの世に贈られた奇跡。ならばその言葉がサトル様がいらした場所にあったというのも納得ですね・・・。」
うーん・・・なんか違う気もするけど、ミーナの言う言葉も全くの見当はずれだというわけでもないから否定しづらいなぁ・・・。まぁ別にその必要もないからそれでいっか。
「魔法名は聞いたことが無い不思議な言葉が多いと思っていましたが、神の国の言葉ならば得心がいきます」
いままで不思議だったことが解明できて満足、といった表情でウンウンと頷いているミーナ。その横で彼女の話を聞いたマリアが何やらブツブツ呟いていたのでそちらに耳を傾けると、
「・・・神の国の言葉をランク名に・・・いいです・・・素晴らしいですよ!それで進めましょう!」
跳ね上がったテンションをそのままに両手を机に叩きつけながら立ち上がったマリアが声高に宣言し始めた。
「お、おぅ・・・」
怯む俺に対し、彼女は更に続ける。
「他にも教えてください!シルバーが銀ならば金は!?白金や金剛石なんかもありますか!!?」
高揚を続けた彼女は話を進めるたびに机を乗り上げ、ついには対面に座っていた俺の眼前まで迫って来た。
「ん゛っ!ん゛ん!!・・・近いですよ。マリアさん」
横のオリヴィエから突然発せられた背筋の凍るような殺気を浴びせられたマリアはそのまま固まってその顔色が一瞬で赤から青に変わっていく。笑顔のままなのが逆に怖い。
日曜夜六時に昔からやっているアニメならその顔面に縦線がいっぱい入っていることだろう。俺はもう十数年視聴してなかったけど、あれってまだやってんのかな?いや、やってるんだろうな。さすがに終わったらニュースとかになる位には国民的番組だったし。
そういやオリヴィエって前にウィドーさんにも同じような反応を示したことがあったけど、俺がいざ迎え入れると決めると特に嫌な顔なんかは一切せず、むしろその時には歓迎しているような雰囲気だったはずだ。
彼女的にこれ以上うちに向かい入れる人数を増やしても大丈夫なのか、駄目なのか・・・ちょっと分からないな。
今度聞いてみるか。俺が今後一切今のメンバー以外誰にも手を出さないなんて奇跡は・・・たぶん起こらないしな。
でも、もし彼女が本当に嫌だ。これ以上増やさないでくれと言うのならば、その願いもちゃんと受け入れようと思う。その位、オリヴィエのことは大事に思っているつもりだ。
・・・ちょっと悩むのと、かなりの決意が必要となることだけは分かって欲しい。
「ご、ごめんなさい」
自身に浴びせられた冷たい殺気に肉体の限界を超えた神速の如きスピードをもって元の椅子へ着席するマリア。
・・・なるほど。これがあの伝説の物理法則を無視すると言われるギャグワールドか。もいっかいやってと言ってもきっと無理なんだろうな。
マリアが離れるとオリヴィエから迸っていた寒気の根源となっている波動は彼女へと逆流し、周りの空気は通常のものへと戻っていった。
それってオリヴィエの固有スキルかなんかなの?それともマリアが見せたようなギャグワールドの・・・いや、やめておこう。なんかこれ以上の追及は破滅への一歩な気がするわ。
一度オリヴィエの注意によるインターバルを挟んだが、その後も俺が英語のランク名を色々と提案していき、その後はすんなりと仮決定ではあるものの、ギルドランクの名称は決まっていった。
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